私が一緒について行くことになったと聞いて武田軍の兵士のみなさんは心配してくれた。 女子が戦場に出るなんて、とまたしても言われたけれど私はこの力を持ってここに来た以上、 それなりのことをしたい、みなさんの役に立ちたいのだ、と言えば困ったような顔を しながら、それでも「力を合わせ、必ずや勝ちましょう!」と言ってくれた。 私はお館さまとの約束もあって少し気まずかったけれど、みなさんがそう言ってくれたことで 救われたような気持ちになった。 ACT.12 幸村も佐助もお館さまも忙しく、なかなか会えない日が続いた後、とうとう出陣の日が来た。 天候はよく、お日様がぽかぽかと私の体を温める。戦前とは思えないほどのこの陽気で私は ちょっとまったりした気分になってしまったくらいだ。ああ、いかんいかん!こんなことでは また皆に迷惑を掛けてしまう!と反省し、また気を引き締めて、ぐっとあごを引く。 これから戦なんだ。ほんとうの、ほんとうに現実の、戦が。 そんな私の挙動不審な点に気がついたのか、馬に乗った幸村が隅の方にいた私の方に 近づいてくる。久々に幸村の顔を見たような気がする。とりあえず、じっと見つめてみる。 すると幸村が顔を赤くして慌て出した。馬もその私の不穏な気配を読み取ったのか、そわそわ しだした。幸村と幸村の馬、失礼だな!ちょっと見ただけだろ! その慌てようはさすがの私でも傷つくリアクションだぞ・・・。 「なーに、幸村。これから本番なんだからしっかりしなよね」 「そ、そそれは、わ、わかっている!ただっ、某はっ・・殿が不安に思ってないか、と思い・・!」 「・・・ぷっ、幸村そんなこと気にしなくて良いんだよ。私なら心配ない!」 「そ、そうでござるな!某、殿を守るため全力で勝って勝って勝ちまくるでござるー!」 馬の上で見事に立ち上がり、ガッツポーズを決めている幸村を見ながら大丈夫、だよね と私は心の中で呟いた。もう確認しなくても平気だ。私は信じている。 「そーいや、佐助は?もう行っちゃったの?」 「俺はここ!こっち!こっちだって、七ちゃーん!」 「あの杉の木の上にいるでござる」 「忍びがあんなに目立っちゃっていいものなのか・・・?」 「それは某も不安に思うところでござる」 幸村によると佐助はこのあと戦の場に先回りするそうだ。その現場を見ていることで状況によって 判断も的確なものにできるからという理由らしい。現に幸村と会話している間に、でっかい凧みたいな のに乗って飛んでいってしまった。しかしちゃっかりウインクを残していく所が佐助らしい。 そのあと少しの会話を交わした後、幸村は先陣を切るためにお館さまの隣に並んでいつも通りの あの行事を行った。 「お館さぶぁぁああああ!!!この幸村熱く燃えておりますぞぉぉおお!」 「幸村ぁあああああああ!!!しっかり励め!」 「承知つかまつりましたぁああああ、お館さまぁあああああ!!」 「そのいきじゃぁあああ!!!油断するでないぞぉぉぉおおお!!!」 まったくうるさいったらありゃしない。 でもそのいつも通りが 行われていることにほっとした。 戦場まで歩くということは覚悟はしていたけれど、結構な道のりだった。 道もないような山のなかをもくもくと歩く。武田の領地であるここと戦いの相手である 伊達の領地の間に開けた場所があるらしい。そこで戦は行われるのだと兵士さんの1人から聞いた。 普通の兵士さんはもちろん歩きであるし、馬に乗っていれば乗っているでお尻がめちゃくちゃ 痛い。泣き言を言う訳にはいかないのでじっと耐え忍んでいたけれど。ちなみに私は後ろの方に 位置している兵士さんの馬に乗せてもらった。後ろのほう、とはいえかなりの数の兵士さんが私の 周りにいる。お館さまいわく、万が一のことを考えて、とのことだそうだ。 確かに戦闘体勢になったら負けるのは当たり前だからその気遣いはありがたかった。 気遣ってもらった分、なにか恩返しが出来たら良い。この自分の力が及ぶ限りなにか役に立つ ことはないか今のうちに考えておかなくては・・・! 前のほうで、なにか声が聞こえてきたかと思ったらどうやら一時休憩らしい。 遠すぎて休憩という声も聞こえてこなかったが周りの人たちが それぞれその場にとどまり、座っておにぎりを食べたりしているところをみると多分そうなんだ ろう。 私も休憩しようと思い馬から降ろしてもらったけれど、ただ馬に乗ってただけなのでお尻が痛いことを 除いては特に不調と感じることもない。ただ関節が痛くて膝が少し痛い。私もついに年なのかなー、 とか寂しいことを思ってしまった・・・。いやいや、まだ私若いからね!ちょっと同じ姿勢を とりすぎただけなんだから! 首を左右にふるふるとさせてから、喉も渇いたという こともあり、水の音がする方向へちょっと散歩がてら行くことにした。水は 持ち歩きに不便なため少ししかなかったので、直接飲みに行く方が効率が良いように思えたのだ。 それに今、兵士さんと会話するのはちょっと遠慮した方がいいような気がしたし、 なにより戦前ということでぴりぴりした空気が流れていたからというのもある。 兵士さんの1人が「どちらへ?」と聞いてきたけれど適当に返事をして武田軍の列から少し外れる。 10分後には出発らしいのでそれまでには戻ってくるよ、と兵士さんに言い残した。 やっぱ私歩きの方がいいんじゃないかなー。馬も2人も乗せるのも疲れるだろうしね。 もともと歩くのは好きだしなぁ。そう考えながら草が多い茂っているところをまたぐ。 少し歩くと水の音がはっきり聞こえてきたので、その方向に歩いてみた。 私の勘が当たり、見事きれいな川を見つけた。でもこの時代には汚い川とかってないか。 ヘドロとか大腸菌とかそういうものがうようよとしている川ばかりになっている現代に住む私には こういう川は凄く貴重に思えてくる。 川の傍ということもあって木や草が適度にならされていて、傍に寄りやすかった。 喉が渇いていたのですくって水を飲む。冷たくて、おいしい。冷たくていい気持ちだったので 顔にもばしゃばしゃと水を掛けてみた。あー、すっきりする。 しっかし凄い美味しい水だなぁ。アルプスの天然水って感じ?いやここの世界にアルプスとかそういう 名称があるかは不明だけど。自然もいっぱいだし、マイナスイオンめっちゃ出てそう! 癒しをたっぷりと貰ったと実感した私は、さて列に戻るかと目線を川から上げた。 次に私の目に映ったものは、雄大に広がる大自然だけ、ではなかった。 |