ずっと寝込んでいたんだ、とその人から告げられるまで私は私の現状を把握できてはいなかった。 確か、伊達さまの傷を治して、で、片倉さんから謝られた所までは覚えているんだけど。 それからどうなったんだっけ? そして私を死の淵から引き摺りあげた、あの声はもう聞こえない。 それがなくとも私は自力で目覚めてみせたのだから。 ACT.22 「ふむ、経過は順調のようですな」 「そうか、」 「あとは目覚めるのを待てば宜しいかと。ただ目覚める事が一番大変ですが」 「どうすればいい」 「待つことですな、それしか方法はございません」 布団の前に並んで、診断を待つ目はいつだって真剣で、医者のその言葉を呑み込むようにして聞く 政宗は、ぐっと拳を握った。 季節は移り行き、肌寒く感じる季節になった。 彼女に掛けられた掛け布団も少しぶ厚くなった。 最初に布団で会った時よりも幾分かは穏やかに上下する 身体を見て、ふぅ、とため息をひとつ落とす。 医者がそんな自分を見て口を開く。 「あまり根をつめてはなりませぬぞ」 「Ha、そんな事は分かってる」 「傷は命を脅かさない程度には塞がりました、あとは本人の気力のみ」 「・・・・・・」 「こちらがこう構えていては1彼女も目が覚ましにくいでしょう」 そういっててきぱきと検診の道具を片付けていく。 医者はそうは言うが、こちらとしてははいそうですか、なんてそんな気楽には構えてられない。 彼女には返しきれないほどの恩があるし、責任もある、そして 返したい思いもある。 政宗はもう一度布団の中の彼女を振り返ってから障子を閉めた。 * 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 目が覚めた時は1人だった。 天井が見えて、それから周りの景色が書き込まれていくような感覚。 私一体なにしてたんだっけ?とぼーっとする頭を動かしながら考える。 ゆっくりと手を動かして見れば、ぎこちなくも動いた。 手を顔にかかる光を遮って、かざすように上げてみれば、光を受けた手が橙に光って見える。 ・・・・・・・・私、生きてる。 伊達さまの傷は素人目にもかなり深そうに見えたから、こうなることはある程度 予想されたけれど、移した瞬間すさまじい痛みが体中を走って・・・・。 それで意識が飛んでしまったんだっけ。 ぼんやりぼんやりと、自分の周りが酷く緩やかに動いている気がした。 そんな緩やかな空気が一気に切り裂かれた、と感じたのは、もうやられた後だったけれど。 「あっ、目覚ましてる!」 効果音はぎゅ、そしてがしっ、いや、がしぃぃいいいっ、だな。 いきなり目の前が真っ暗になった。見えない。見えないから。 手を握られたかと思ったらひょい、と持ち上げられて背中に手が回りぎゅっと抱きしめられる。 抱きしめるというのは、あれだけれど、なんにしろ加減がまったくもってない。 背骨がみしみしと言うのは私の聞き間違いじゃない、うん。本当に身体が悲鳴を上げると言うのは この事だ。 そしてもって何かが頭に乗る感覚がした。なんだ?なにが乗っているんだろう。 身体をよじっても頭の違和感の正体を知ろうとしても、私を離そうとはしない手がそれを拒む。 隠された視界の中で、前から響く女の人の声が私の耳へと届く。 「あらあら、そんな風に扱っては駄目よ。けが人なのだから」 「あの・・・・」 「ごめんなさい、濃姫様」 ようやく身体を離されたと思ったら、目の前には男の子がいた。飛びついて来たのはこの子だったのか。 まったく自分の状態が掴めないままに、妖艶な美女までもが現れた。 そして自分の頭の上に乗っていたのは、ごついものに身を纏っている人の手だった。 ぐるっと自分の背後に立っている人を見上げる。目ががっちりと合う。・・・・っこわ! 「ええと、あの、私は・・・」 「ふっ、ようやく目を覚ましたか・・・」 「蘭丸が連れてきたんだぞ、感謝しろ!」 「貴女が森で倒れているのを蘭丸くんが見つけたのよ」 いきなり3人に囲まれてしまって、私は布団をぐっと肩まで引き上げた。 そんなに怯えなくても良くってよ、とまたしても美人が口を少しだけ上げて笑う。 ほんっと綺麗な人だなぁ、と思わずさっきとは違う意味でぼーっとしてしまう。 そうするとぐいっと腕を引かれる。 「信長様!こいつ、蘭丸の所に置いてもいい?」 「ふむ・・・・良いぞ、蘭」 まるで犬を拾ってきたかのような会話だ。 しかも腕を引っ張られるたびに傷もまた引っ張られて痛い。 なんなんだこの家族は、と思ったけれどふと会話の端々に飛び交う名前をききとって、眉をひそめる。 信長様、濃姫様、そして蘭丸。・・・これはまさか? 私、もしかして、とんでもない所に来てしまったのでは? 青ざめて俯く私に濃姫様はくすりと微笑む。つい、と顎に白く綺麗に伸びる指を掛けられて上を向かせられる。 「心配しなくてもいいわ、貴女は上総介様の元にいればいい。もちろん私も蘭丸くんもいるのだから」 「そうだぞー!そんな顔すんな!」 「いいんですか?・・・だって、私、」 「ふははは、無論」 「お前、名前は?」 「・・・・・・・と言います」 自分の名前を口にしながら、私は考える。 さっきまで伊達にいたと思ったらいつの間にか織田信長の所にまで来てしまうとは。 私が寝ている間に何が起こったんだろうか? そう考えても私のこの移動癖はもはや寝相が悪いという問題では済まされない。確かに伊達さまの城で身動きできずに寝ていた はずなのに、どうして次は織田家に近い森で寝ていたんだろう? 救われるべきは傷がほとんど癒えていたということだけど、それは私が随分長い間眠っていた事を示す。 伊達さまも片倉さんも大丈夫かな、いきなり消えてしまった訳だし、びっくりするしかないだろう。 それとも探してくれているのかも?と思うが、まさかこんなところまで来ているとは彼らも思うまい。 それに探してくれている、と言えば武田の彼らもそうかもしれない。 元はと言えば、お館さまや幸村や佐助が心配で再びこの世界に飛び込んだのだし。 しかし、 よくは分からないけど、世間一般で言われているほど、この織田家の人たちは悪くはなさそうだ、と思った。 世間の評判は、魔王だのなんだので今一番騒がれている勢力で、一番天下に近いと言われていたのを聞いたことがある。 まさか自分がその渦中に入ってしまうとは思いもよらなかったけれど。 自分に随分と懐いてくれている蘭丸くん、そして温かい眼差しを向ける濃姫さま、怖い顔だけどここにいる事を 許し、そして守ってくれると言った信長さまに目を向けながら、私はそんな事をただ思ったのだ。 → (110302) |