今、目の前にあるドアはもちろん実際かなり大きなドアなんだけれども、そういう現実的な大きさではなくて、えーっと、
それだけじゃなくて、ま、まぁとにかくかなり大きい気がしてるのは多分気のせいじゃない。こんな回りくどい言い方をし
ていたって、この心に積もるいやーな感じはちっとも拭い取られやしないのだけど。




ことの始まり?そんなのはっきりとした理由なんてわからない。私は彼ではないのだし、もちろん心が読めるとかそういう
特殊能力を持っているわけでもない。当然だ。でも多分なんとなく理由がわかってしまうのはやはり彼がわかりやすい性格
をしているからなんだと思う。ほらあれだ・・・これがリーマスとかジェームズだとかだったりしたら、私は一生わからな
いまま終わってたに違いない。
でも、あの2人だったら自分からヒントを出してくれるような気がするけどね「当ててごらん」とか言ってさ・・・。
それもまた対処に困るな・・・背筋がぞっとしそうだ。特にリーマスなんかは笑ってても内心どう思っているかってのが
わかんないからさ。あー良かった。1番比較的分かりやすいやつで。いや・・・それでもどうすればいいのか、とさっき
から考えあぐねているのだけど。



ああああああああああああああああああああああ、もう!



悩んでいるのはとても私らしくなかったので、いざ尋常に勝負!、とばかりにシャツをまくって構えてみる。
そしてドアを叩く。


トントン。 「・・・・・・・・・」


見事なまでの無視っぷりだ。
すばらしいほどのあの単純馬鹿は、あ、しまった言い過ぎた。えーと単純なシリウスは喧嘩の仕方もいたって
単純だった。ここで無視ときたか。こめかみがピクピクとする。
ここにいることは談話室でくつろいでいたジェームズとリーマスからの入れ知恵で全てわかっている。
「ねぇ、シリウス知らない?」
「あーシリウスかい?さっき僕らを部屋から追い出して、くそうあんな奴もう知らねぇ!って怒鳴ってたよ」
「だからそれからずっと部屋に入れなくて、ちょっと迷惑してるんだよね」
「・・・なんで怒ってるの?」
「・・・・さぁーねぇ」
「僕も正直めんど・・・、ちょっと行ってきて引っ張り出してきてよ」
「(面倒って言おうとしたよこの人ー!気持ちはわからなくもないけど)」
「そうだね、だったら引っ張り出して来れるよきっと。あ、シリウスに俺の居場所教えんなって言われてたね、そういえば」
「アハハ!言っちゃったものは仕方ないさ!リーマス気にすることはないよ!」
「(いいんだろうか・・・)あ、うんありがと。じゃ行ってみるよ」
「頑張れ、!単純馬鹿・・・単純だけど結構シリウスって根に持ったりするからさ!特に関係には」
「・・・?(てゆうか単純馬鹿・・・)」
も大変だなぁ。拗ねたシリウスのご機嫌を伺いに行くなんて。頑張って!」
「あー、一応頑張る」
ちょっと意味がわからないところもあったが、そう言い残してから男子寮の階段を上がり先ほどに至る。
しかし何度ノックしても、依然として反応がない部屋。これは仕方がない。
いつもなら武力行使で行くけれど、たまには魔法使いらしく魔法を使ってみようと思い、
すっと杖を構える。そして声高らかに呪文を唱える。
「んーと・・・レダクト、粉々!」
ものすごい破壊音がしてドアが吹っ飛んだ。今日はなんだかものすごく調子がいいらしい。
ドアが粉砕するなんて!ちょっとうきうきしてしまった。
っと、いかんいかん。今日の目的はドアの破壊じゃなかったんだ。




一歩、暗い部屋の中に足を踏み入れると、ベットのなかでもぞもぞと動いている黒いかたまりが見えた。
シーツの外に黒髪が見て取れるところからして、あれはやっぱりシリウスらしい。
そしてドアが粉砕しても、起き上がってこないところからして、やはりまだ意地を張っているらしい。
ベットの前で目の前に包まっているシリウスを見下ろしながら、はぁ、とため息をこれ見よがしについてやると、
ごろんと、奴はベットの奥の方に行ってしまって、私とはどうやら顔も合わせたくない、帰れ、とそうオーラが言っていた。
「・・・・どうしてここにいるんだよ」
「あー、えっと何?何にそんなに怒ってるわけ?」
「おまえが悪いんだろ」
「その悪い点がわかんないから、こうしてわざわざ来て理由を聞いてるんだけど」
「・・・・」
「もしかしてあれ?昨日セブルスと図書館にいて、勉強教えてもらったりしたこと?」
「・・・!(あとでぶっとばす・・・!)」
「違うか。じゃー、昨日の前にレギュラスとお菓子一緒に食べたこと?いや、そんなことぐらいで怒らないよなぁ」
「・・・!(絶対ぶっとばーす!)・・・今日、何の日か知ってるか?」
「今日?今日はずっと寝てて、起きたの今さっきだからわかんない」
「はぁあああ?!」




シーツがばっと捲られて、不機嫌そうな顔のシリウスが勢いを付けて起き上がる。
ようやく顔を見れた。ずっと寝てたせいか、すごく久しぶりに感じる。
シーツにぐるぐる巻きになってたからか、シリウスのいつもまっすぐな黒髪に少し癖がついている。




「・・・?何、笑ってんだよ」
「だって、シリウス寝癖・・・!」
「だぁああ!もうんなことはどうでもいいんだよ!」
「はぁ、んじゃなに?」
「・・・やっぱいい」
「なぁに?」
「言います、言いますからそのベットに土足で上がりこむの止めてくれないですかすみません俺が悪かった」
「それで良し」




話さずにまたもやシーツに包まろうとしたので、足を上げてシリウスの身体すれすれにかかと落としをしてやった。
とっとと話してしまえ、変なとこで女々しいなぁ。


「今日・・・お前が寝てる今日はな、」




重い口を開いてとうとうシリウスが話し出そうとした。その時、粉々になったドアの方から笑い声が聞こえてきた。
振り返って見て見ると、ジェームズとリーマスの顔がちょこんと突き出ていた。
私と目が合うとジェームズはやれやれといったポーズとため息と共に近づいてきた。




「まぁまぁ、そこらへんにしといてあげてよ。てゆうかこのドア凄いことになったねぇ」
「いーま!今、口割ろうとしてたのに、横からちょっかい出さないでよね!」
「あはは、ごめんごめん。わざとじゃないんだよ。偶然なんだよ」
「・・・お、お、お前等だな・・・?をここにやったの!」
「うん、ジェームズとリーマスにシリウスの居場所教えてもらったの。てゆーかめんどいんじゃなかったのか?!」
「やだな、僕達がそんなに薄情に見える?」
「うん、見える」




即答なんて酷いなぁ、と相変わらずの笑顔で言われてしまえばもう何も言えない。
それで?と続きを促す。




「止めたってことはちゃんとした理由があって止めたんでしょーね?説明してもらうよ!」
、今日って何の日か知ってる?」
「リーマス、またそれ?さっきシリウスからも聞いたんだけど今日が何なの?」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・な?ほらな?俺が凹んでも別に文句ないだろ?!」
「あー・・・うんシリウス、それはえーっとご愁傷様」
「可哀相にシリウス、本当に可哀相だね」
「リーマス、それフォローになってねぇから。むしろ傷をえぐる・・・っ!わ、俺、マジで泣きそ・・・」
「へ?なにが?なんで?」




3人それぞれの表情を見比べて私は、今日と言う日がなんの日なのかを未だに思い出すことが出来なかった。
シリウスはその言葉の通り泣きそうな顔をしているし、ジェームズは何となく気の毒そうな顔でシリウスを見ているし、
リーマスに至ってはおもしろそうな顔を・・・って!リーマスはなんでそんなに嬉しそうな顔をしてるの?!




「えっとな、俺・・・・お前と付き合ってるよな?」
「はぁ・・・うんそうだね、名目上はね・・・はいはい嘘ですよ、アメリカンジョークだって!」
「お前、アメリカ人じゃないくせにアメリカンジョークを言うんじゃねぇ!しゃれにならないだろ!」
「そんなに怒らなくっても・・・ジョークだって、ごめんごめん」
「一瞬本気かと思って焦っちゃったよ、のことだからえ?そうなの?とか来るかなーと・・・」
「・・・リーマス、どんだけ私ボケてんの。それくらいのことは覚えていますってば」
「じゃあ今日が何の日かわかるかい?」
「・・・わからないよ」
「うわ、マジボケだ。僕初めて見たよ」
「本当に?本当に思い出せないのかい?」




顔をぐっと近づけて聞いてくるジェームズには悪いのだが、一向になんなのか思い出せない。
リーマスにはマジボケとか言われるし。私が何したって言うんだよ!




ふいにジェームズの顔が遠ざかった。どうやらシリウスに首ねっこをつかまれて後ろに引きずられたらしい。
そしてそのままジェームズとリーマスを外に追い出す。そうして私が粉砕したドアを直してからくるりとこちらを向く。
なんだ、さっきの泣きそうな顔からは立ち直って少し回復はしたらしく、一応涙目にはなっていない。重い口を開いてと
うとうシリウスが話し出そうとした。ってさっきもあったよね、かなり話を聞くために遠回りしたような気が・・・。
最初からここで聞いとけば早かったんじゃ・・・?




「単刀直入に言う。お前は遠まわしに言っても絶対に気付かない鈍さを持ってるからな」
「失礼だな、どこが鈍いって?」
「俺の告白をスルーした時とかな!お前、ハロウィンのお菓子に夢中で途中まで俺の話聞いてなかっただろ?!」
「あー・・・あれはかぼちゃキャンディが凄い美味しそうで・・・しょうがなかったっていうか・・・」
「まぁ、そんなことは付き合う前から知ってたからいいとして。んで、今日はハロウィンだ」
「うん!ハロウィンだね!夕飯楽しみだなぁ」
「待て!今ので気付いたことは?」
「はい!ありません、隊長!!」
「はぁ・・・わかりやすく一個ずつ言うぞ?」
「はい!」
「俺は去年のハロウィンの日お前に告白をした」
「はい!」
「それでお前はそれをオーケーした」
「はい!」
「んで俺たちは付き合ってる」
「はい!っていうか恥ずかしくないの?自分でそんなこと言って」
「恥ずかしいに決まってんだろ!お前のために言ってやってんだ!まだ気付かないのかよ!」
「はい!気付きません、続きをどうぞ!」
「はぁ・・・んで今年のハロウィンは今日だ」
「はい!・・・ん、あ、あー・・・・・!!」
「思い出したか?」
「はい・・・今日1周年だったねー・・・」
「ねー、じゃない!」




すっかり忘れてた。今日は朝から今まで寝てたし、誰も教えてくれなかったし。
シリウスもそういうことに頓着するタイプではなかったから、完全にスルーしていた。
と、思ったらこれだ。シリウスはちゃんと覚えていたらしい。なんということでしょう。
これで機嫌が悪かったのも分かった。




「あーごめん、なんか私今からしてあげられることある?」
「・・・トリックオアトリート」
「はい、かぼちゃキャンディ」
「・・・お、お前記念日は忘れてたくせにハロウィンは忘れてねーのかよ!」
「へ?うん、ハロウィンは楽しみにしてたから。それに大抵お菓子は持ってるからね」
「(にこにこしやがって・・・)記念日は?」
「もちろん、忘れてたけどシリウスと付き合えて良かったと思ってるよ」
・・・・!」
「はいはい、感動の抱擁の前にシリウス、トリックオアトリート!」
「お前、ここで普通言うか?雰囲気ぶち壊しだし、しかも俺菓子なんて持ってねーし!」
「さっき私があげたかぼちゃキャンディがあるでしょーが!」
「お前、血も涙もねーな!」
「何とでも言え、かぼちゃキャンディは私のものよ!」
「ちょ、ま、待てって!」




後ろで焦るシリウスの声を聞きながら、私はドアの方へと走る。
そしてかぼちゃキャンディを手に握りしめてくるっと回り、追いかけてきたシリウスに向かって手を広げて
ぎゅっと腰のあたりにしがみついた。いや、抱きついた。そして固まっているシリウスの口にさっき取り返
したかぼちゃキャンディを突っ込んで微笑む。




「シリウス、ありがとう。はいこれ1周年おめでと!」
「え、あ、おう」
「んじゃ、ハッピーハロウィーン!また夕食後ね!」






選択権は君にはない


「それにしても、お前さー・・・」
「何?」
「ドア、粉砕すんなよなー」
「だって呪文で開けようと思ったからさ、いいのが浮かばなくてあーゆー風になったの」
「普通に、アロホモラでいいだろうが!」
「あ、そっか!じゃこれからはそれ使うようにするね」
「(ほんっと恐ろしい奴だな、こいつ・・・)」