図書室のひっそりとした空間の奥の奥。窓から木漏れ日が差し込む暖かい場所に彼女はいた。
ちょうど午後の日差しが差し込んで、そこだけきらきらした空気に包まれていた。
まるで絵本のちょうど1ページを切り取ったようで、俺は思わず息を呑んだ。



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俺が図書室に足を運んだのは今週末に迫った魔法薬学のレポートがあったからだった。
悪戯やら、クィデッチの練習でやたらと立てこんだ今週は、気が付いたら提出1日前だった。 ちゃっかり要領のいいジェームズはとっくに終わっていたし、リーマス、ピーターは 数日前からちょこちょこやって今日終わったと言っていた。
というわけで、やっていないのは残る俺1人な訳で。



今日はそういった生徒が特に多いみたいで、いつも座れるはずの座席はすべてレポートを片付ける 生徒で埋まっていた。
手に取ったレポート用紙がずりっと落ちるのを防ぎながら、きょろきょろと席を探す。 別に部屋に帰ってもいいけれど、ここまで足を運んだのが無駄になる気がしてどうにかして 座ってやろうと席を探す。
俺が図書室に来るなんて珍しい事もある、なんて視線が司書のやつから突き刺さったが、 まぁうるさくしなけりゃ問題ないだろう。 1人で馬鹿騒ぎなんてする訳もなし。



いつも使用する席を諦めて一歩入る。本棚が連なっていくその中を通り抜けると、 こっちはあまり使われない席があった。
課題で使う本があまりないこちらは移動がめんどくさい事もあって人も少ないのだ。 どっちにしろ、座れればどっちだって良いか、と息を吐いてからそこへと足を動かす。



そこにいたんだ。びっくりするくらいに綺麗な空間に彼女は。



ぺらり、とページを捲る音だけがそこを支配しているかのように、それ以外の音は全くしなかった。
いや、聞こえなかっただけかもしれない。
指は白く細く。ぎゅっとにぎったら折れてしまいそうなくらいだった。 指先が寒いのか限界まで伸ばしたセーターの裾で半分くらい隠れた手だけが動いていた。
視線が本をすべるのと同じように動く為に、さらりとした黒髪が揺れる。 俺と同じ色の髪。でも少し違う。
指と同じく白い肌は光を反射して余計に白く見せていた。
その幻想的ともいえる光景に俺はその席に座る事も忘れて、ぼうっとしてしまっていた。
ずるりとレポート用紙が力の入らない手から滑り落ちていく。



「・・・・?」
「・・・・・」



その落下音に気が付いたのか、ゆるりという音がもっともふさわしいと思わせる動きで、 彼女は本から目を外してこちらを見た。
自慢じゃないが俺はこのホグワーツでは知らない奴はいないというくらいの知名度だと思う。 だから彼女も俺の事を知らないわけじゃないと思うけれど。 とかなんとかかんとか、別にそんな事誰も聞きやしないのに頭の中を駆け抜けていく。 なんだか後ろめたいような気がしたなんて、そんな事は思ってない。
あの、だのその、だの意味の分からない言葉を呟くように口走ってから、俺はその場から背を向けて 走りだしていた。


「えっと・・・・今のは?」


疑問ばかりが浮かんだ彼女の声がその場に落とされた事を俺は知らない。




光を捉えてしまったら、