「で、こんなもの拾ってきて一体どうするんです?」
「だってあのまま気絶しちまったんだし、捨ててくるなんて出来ねぇだろうが」
「はぁ・・・ニューヒーローの登場、ですか。ま、100ポイント同士お似合いじゃないですかね」
「だっ、てめ!こいつは俺を助けてくれたんだぞ!」
「自業自得でしょ、なんだって能力がギリギリなのに無茶をするんだか・・・」



ぐらぐらと揺れる意識の中で聞こえてきた会話は決して穏やかなものではなかった。
そろりと目を開ければ頭部に違和感。ああ、着ぐるみを着たままだったのか、なんて理解をして身体を起こそうとすると、 それに気が付いたワイルドタイガ―が手を貸してくれる。 いや、もうスーツは脱いでいるようだけれど、多分こっちの人がワイルドタイガ―に違いない。
もう一人は、見るのもなんだか「すみません・・・」と謝ってしまいそうな美形な男の人だった。でもまぁ、随分と・・・ 機嫌が悪そうだ。怖い、目線だけで私の心臓貫いたのですが・・・!



「えと、あの・・・私・・・?」
「ああ、あの後気絶して目を覚まさなかったから、とりあえず、だな」
「なるほど・・・その節は大変お世話に・・・、ありがとうございました」
「いーっていーって、無事で良かったな、お互い!」
「貴方は今僕たちの会社の休憩室にいます、貴方の会社のマネージャーの方が引き取りに来るまでの一時的なものですが」
「すみません、マネージャーに連絡してくださったんですか、ありがとござ、・・・っおっとお」
「そりゃ動きにくそうなスーツだな。頭重いだろ」
「ええと・・・そうですね。まぁ今日初めて着たので仕方ないのかもしれないですけど」



お礼を言おうと頭を下げたらそのままの重みで、ベットに直撃してしまった。間抜けな事この上ない上に、美形の 表情が呆れに染まった。 というか、このままの状態で気を失ってたとか、結構息苦しい状態だよね・・・。 でも今着ぐるみを脱いだら、仮面の下がバレる訳で。そんな恥ずかしい事は無理です、はい。 小心者の日本人には無理な話です。でもワイルドタイガ―さんは日本人ぽいなぁ・・・。
そんな事を思っていたのが、表情は無理でも空気で感じ取ったのかワイルドタイガ―さんが困った顔になりながら、着ぐるみの 頭を指す。



「それな、とってやろうとしたんだけど抜けねぇんだわ」
「え?!え、嘘!結構はめた時はすっぽりいったんですけどね・・・コツがあるのかなぁ」
「・・・それ、貴方の能力ですよ。なにかを念じたりしませんでしたか」
「・・・・えーと・・・・・あ!・・ああ!あの抜けないといいなーってちょっとは思った、かも?ですね、」
「はぁ、」
「す、すみません・・・・」
「なんで抜けちゃいけないんだ?」
「え、あの、それはヒーローはやっぱり仮面の下は秘密にしといた方がいいかなって思って・・ははは」



そう言うとワイルドタイガ―さんはいたく感激した様子で手を握ってきた、あれだ外国風にいうとしぇいくはんず!
それを冷たく見つめる美形さんは、足を組みかえて、ため息交じりで私の方を見た。・・・すみません!すみません!



「それにしてもニューヒーローとは言っても体力なさすぎじゃないですか、貴方」
「なっ、今日デビューしたばっかなんだし、そんな事言ったってしょうがねぇ事だろうが、」
「ヒーローになるものとしての心構えがないんじゃないかって言ってるだけですよ、おじさん」
「っだとぅ?!」
「あーあ、あ・・あの!ちょ、喧嘩しないでくださいって!あの、私が、・・・っ!すみません!!」
「それにさっきから僕と目が合う度に謝るの止めてください」
「え?・・・あ。無意識でした、すみませ、あ。いや、その目で見られると謝らなきゃいけない気分になるというか、」



何度も不格好に頭を下げるたびに美形さんの不機嫌さが増していくなぁ、と感じていたのは気のせいではなかったみたいだ。 しかしそれを指摘されると余計に謝りたくなってしまうのですが・・・・。ううう。
何も喋らない方がいいのかもしれない。というかそれ以前に、ベットに頭だけ猫の着ぐるみ女というのはかなり不気味だ。 それだから、どんどん機嫌が悪くなっているのかなぁ、なんて思ったりもして。
じっと見上げれば、彼の眉間にしわが寄るのが見える。・・・・・・は!そうだ、そういえば!



「今って何時ですか?!もしかしてもう夜中?!」
「そうだけど、どうかしたのか?」
「こ、こんな時間までお付き合い頂いてしまってすみません・・・!ワイルドタイガ―さん!あと、・・・・・・、」
「「・・・・・・・」」
「えーと・・・・」



美形さんの方は名前も知らなかったので妙な間が出来る。視線を彷徨わせて思いだそうとしたけれど、現場に到着 するまでの時間は全然なかったので、ワイルドタイガ―の名前しか知らない。
そうだ、HERO TVは夜放送だったはずだ、それで私が気を失ってしまった為に、そっからどうなったかは分からないが、 おそらく、いや、確実にもう夜遅い時間だ。 そんな時間まで付き合わされた2人は堪ったもんじゃないだろう、しかも何の関係もない他社の初心者ヒーローなんかのために。
なのに名前も知らないとか・・・なんという常識外れ。今いる先輩ヒーローの名前くらい把握しておかなければいけなかったよね・・・。



「まさか、お前こいつの名前、知らねぇとか・・・・・」
「・・・ええと、まぁ・・・はい、」
「・・・・・・」
「マジか!わっ、そんな奴いるんだなぁ〜なぁバニ―ちゃん」
「バニ―ちゃん?・・・ああ!ワイルドタイガ―さんの相方の・・・あれっ、うさ耳のかわいい女の子だとばかり・・・!」
「ぶっ!はっ、あはははははは!可愛い女の子?バニ―ちゃんが?!・・・ぶっ、」
「バニ―じゃありません、バーナビーです」
「お前の人気も大したことねぇな!っぷ、かわいい女の子っ・・」
「・・・・あの、すみません、バーナビーさん?」
「いえ、別に気にしてません。おじさんはいつもの事ですし」
「本当ですか、良かった、」



ほっと、胸を撫でおろす私を見て、バーナビーさんはメガネをくい、っと上げる。
バニーちゃんなんて可愛い感じの名前だから、てっきり女の子だと思っていたのに、飛んだ勘違いだった訳だ。 まぁ、綺麗な人、というのは合っていたけれど。 きらきらと光るオーラっていうのだろうか。なんだか眩しいもんなぁ・・・。
そんな事をぼーっと見つめながら思って、それからはっと我に返る。 もう夜中だ、先輩方にこれ以上付き合わせる訳にはいかない。ベットから降りて、2人の前に立つ。



「バーナビーさん、ワイルドタイガ―さん、ありがとうございました!私、もう会社の前で待つので・・・お2人も、」
「・・・・もう夜も遅いし、止めた方がいいですよ」
「そうだぞー、俺も一緒に待っててやるから、な?」
「あ、ありがとうございます・・・ワイルドタイガ―さん」
「俺は鏑木・T・虎徹だ、これからもよろしくなー」
「鏑木さん・・・ですね。よろしくお願いします」




軽く頭を下げれば、素直な子は好きだぞーっとやや乱暴に頭を撫でられる。
でもそれもちょっと嬉しくて、着ぐるみの下でちょっと笑う。くすぐったくてなんだか良い気持ち。
そんな事をして和んでいれば、ようやく会社から迎えに来てくれたマネージャーがやってきて、 あああああ!と心の中で叫んでぱたぱたとドレスの裾を翻しながら駆け寄る。




「ままま、マネージャー!今日のはちょっと酷かったんじゃないですかっ!もう!」
「ははは、君なら大丈夫だと思ってね、その格好も可愛くていいよ。ちゃんと目立ってたし」
「もう!もう!そういう問題じゃないんですよ!私とワイルドタイガ―さんは死ぬとこだったんですからっ」
「高所恐怖症はまぁ・・・治すしかないねぇ・・・」
「あと・・・、」
「あと?なんだい?」
「給料はいつ振り込まれるんでしょうか?」
「おっと現実的な問題になってきたね・・・それは会社でね。じゃあ行こうか」
「あ!お2人とも今日はありがとうございました!マネージャー、お2人には色々と・・・」
「知ってますよ、HERO TV見てましたからね。今日はお2人に助けられました、今度とも我がアリスキャットをよろしくお願いします」
「おー、気を付けて帰れよー」
「お疲れさまでした」
「はい!では失礼します!ワイルドタイガ―さん、バーナビーさん!」




ひらりと手を振って、それから先で待つマネージャーの元へと急ぐ。
はぁ、今日という一日がとてつもなく長く感じられて、ようやく帰途に付けるのかと思うとほっとした。 そしてこれが私のヒーロー人生の始まりなのだとも感じた。
そっと後ろを振り向けば、まだ見送ってくれている先輩ヒーローがいて、私も上手くヒーローとして やっていければいいな、と漠然とだけれど確かにそう思ったのだった。

・・・とりあえずきゅうりと塩生活は給料が振り込まれるまでは続きそうだけども。













正義の星はいずこ ☆03