かつ丼が好きだ。焼肉丼も好きだ。牛丼も好き、豚キムチ丼も好き。
一度食べ始めると止まらないくらい好き。というか肉が好きなのである。
まぁ、最近は食べられない訳で、ひもじいわけで。
しかし絵面的にはあまりよろしくないらしい。



「どんぶりを頼んで、しかも来てから一言も話さないでかき込む人を始めて見ましたよ」
「あーその、私、自分が思うよりもずっと限界に近付いていたみたいで、」
「ぷ、それでこれ撮られたってか!バニーちゃんのこの顔!」
「バニーじゃないです、バーナビーです。いい加減にしてください」
「それに最近食費にお金掛けられなくて、その、ひさしぶりに食べたのでつい・・・嬉しくって!」














甘い表情、甘い声で食事に誘われたともなれば、浮かれて食事どころではなくなるのが世の中の女性というものだと バーナビーは思っていたが、そうではない女性もいるのだとここで初めて知った。
まぁ誘う時は甘くもなんともないそっけない誘い方をしてしまったけれど、それにしたって肉>自分という記号は 変わらない不動のものであるということをその事実が語っている。まぁ、別に誘ったと言う事に他意はまったくないのだけれど。
この人の視界、興味に自分が入っていないのだと言う事をを示された気がして、おじさんのにやにや笑いと 共にかなり腹立だしいことこの上ない。
こんな気持ちになったのも、出社してデスクワークをしている自分の横におじさんが来たからだ。



噂になってるぞ、とおじさんが示す週刊誌のページを見てみれば、マスコミに偶然取られた写真が載っていた。
そこには、 どんぶりをひたすらかき込むとその前に座る自身の姿。ばっちりと撮られていたらしい。 苦々しい想いでそれを見つめていると、まとわりついてくるおじさんがうるさい。そして限りなくうっとおしい。



「な、これ誰だよー。バニーちゃんにもいたんだなぁ、よかったよかった」
「うるさいですよ、それにそういう関係じゃありません、偶然たまたま会っただけです」
「は?偶然会った?誰とだよ」
「分かりませんか?アリスキャットですよ」
「・・・・・・・・・・・・・は?!これあいつ?!そいや顔出ししてねーもんなぁ、知らなかったわ」
「・・・はぁ」
「なんだなんだ、疲れた顔しちゃって。キラキラオーラはどこいっちゃったよ」
「別に、疲れてなんていません」
「それにしてもアリスキャット、もっと子供かと思ってたんだが・・・カリーナより上かぁ。子ども扱いしちまったけど、 セクハラとか言われないよな?」
「は?おじさん目が悪いんですか、どう考えたって彼女よりは下でしょうが」



パソコン画面から目を離して雑誌の彼女と、おじさんを交互に見る。 どう見たって、印象そのままの子どもっぽい感じで、女性とはいえない年齢だろう。 だから自分の誘いにも、肉>自分だった訳だし、そう言う風にしか考えられない。 おじさんは頭だけでなく目も悪くなってしまったのか、老眼か、なんて息を吐いた。



「日本人は童顔に見えるもんなんだよ。今度会った時に聞いてみな」
「なんで僕がそんな事聞かなきゃ・・・!」
「あ、こんにちは、鏑木さん、バーナビーさん」
「?!!??」
「おー噂をすれば、なんとやら。どうしたんだ、今日は素顔なんだなぁ、へぇ」
「・・・ほんとは嫌だったんですよ、でもマネージャーが着ぐるみで行ったら不審でしょうって・・・」
「お前のマネージャー結構はっきり言うんだな・・・まぁ、いいじゃねぇか、素顔もかわいいぞー?」
「鏑木さ・・・、か、かわいいって。う、あ、あありがとうございます!あの、今日は顔合わせってだけなのでこれ!では!」
「おいおい、そんな急がなくてもいーだろ?ま、茶でも飲んで行けって」



菓子折りを押し付けるように渡して、自分たちの仕事場である部屋から逃げるように出て行こうとするアリスキャットを、 おじさんは呼びとめて引きとめた。
まぁ、ゆっくりしていけという事を彼は言っているが、それにしてもそわそわと自分に向けられる視線が気になる。 キーをタッチする手を止めて、振り向いてやれば、予想通り黒目がちな目とぶつかった。



「・・・なんですか?」
「誘っていただけるのはとっても嬉しいんですがお2人ともお仕事中ですし、お邪魔するのも悪いかなぁって思って、」
「いーって、大丈夫だ」
「おじさんはデスクワーク出来ませんからね、別にもう1人仕事出来ない人間がいたって構いませんよ」
「おい、バニーそんな言い方・・・」
「あ、ありがとうございます!」
「ごめんなー、バニーちゃんいつもオフではこんな感じだからさぁ」
「存じ上げております!でもバーナビーさん優しいので」
「・・・っぷ、ば、バニーちゃん、この子やばい、面白いわ」
「もう2度目はありませんよ」
「あっ、そうだ、お前バニーちゃんとメシ食ったんだろ?撮られてたぞ〜」
「え?・・・・・・・・・ああああ!?うわっ、ほんと、わ、」



おじさんに見せられた週刊誌の写真を見て驚いた彼女は、すみません、あのそうですよね、バーナビーさん人気者ですし! 私が浅はかでした、なんて謝り出すもんだから、本当に気にしなくていいですから、と言って画面に顔を戻す。
こんな菓子折りなぞで許されるような事でもないような気がするんですけど、これ食べてくださいね。と 横からの声が聞こえてきて、お茶入れてきます!とぱたぱたと走り去った。嵐の様な人だ。 この隣のデスクに座っている人と同じような属性を感じる・・・・。



「あ、転びかけてら。そういえばバニーちゃん、あの子の名前聞いたか?」
「アリスキャットでしょう?」
「違うって、本名!というかお前が”バーナビーさん”で名前呼びなのになんで俺は”鏑木さん”なんだ」
「仁徳の差ってやつじゃないですかね、ふ、僕とおじさんじゃ・・・」
「おじさんが悪かったですよ、はいはい。お仕事ガンバッテー」
「これおじさんの分の仕事ですからね」



拗ねて椅子をキーキーと音を立てながら後ろに体重をかけるおじさんを横目で見つめる。 はぁ、とため息を大げさについて、とりあえず溜まっている(主におじさんの損壊の書類だったり、そういうのだが) 仕事を片付けてしまおうと視線を戻し仕事に取り掛かる。すると、さっき消えて行った足音がぱたぱたとまた騒々しく戻ってくる。
というか客にお茶を淹れさせると言うのもどうなんだろうか、なんてもう考えても遅い事を考えてしまったりして。



「ここの会社、広くって給湯室まで行くのが大変でしたー」
「おーご苦労さん、てかお客さんに茶淹れさせてごめんな」
「いえいえ!お茶淹れるの得意なので、はい、どうぞー」
「ありがとうございます」
「さんきゅ、そいやなアリスキャット、お前の名前、聞いてもいいか?」
「・・・・あ、そういえば、顔合わせなのに忘れてましたね!私、と申します」
「やっぱり日本人か!同じ日本人同士よろしくなー」
「はい、まだまだ初心者ですがよろしくお願いします、鏑木さん」
「おー、また高い所に登ったら助けてやるからな、ちゃん」
「バーナビーさんもまた、現場でもよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」




きっちりと僕たちにお辞儀をして、挨拶をする姿は好感が持てる。だけれども、何度見ても、どう見ても、 この人がブルーローズより上とは到底見えない。おじさんなりのジョークとかそういうのだろうか。ちっとも 笑えないが。
少々じっと見過ぎていたらしい、ちょっと戸惑った表情の彼女がこちらを伺っていた。


「あの?バーナビーさん・・・?」
「・・・・」
「バニーちゃんはな、お前が」
「おじさんは黙っていてください」
「酷っ!」
「私、なにかしましたか?」
「その・・・女性に年齢を聞くのはマナー違反だと分かってはいますが、アリスキャット、貴方はいくつなんでしょうか?」
「はい・・・・?」



眼鏡を押し上げながら、俯きがちにそう言えば、予想外だと言わんばかりの抜けた声が響いた。
やっぱりほとんど初対面の女の人に年齢を聞くのは、駄目だったんじゃないか、なんて八つ当たりをしたくなる 衝動に駆られた。いくら日本人が童顔であると聞いてはいても実際の所はどうかなんて分からない。
彼女はこんなことを聞いてくるなんて、思っても見なかったと言わんばかりの表情で僕を見た。 そして、真面目な顔から一変して、にこやかにこう答えたのだった。



「私、バーナビーさんと同い年です、ヒーロー大百科で見ました!」















正義の星はいずこ ☆05
「ほらなー、言った通りだったろーが」
「あれで、僕と同い年・・・日本人って・・・」
「ま、同い年同士上手くやれよー、」
「な、なにを上手くやれって言うんです!」
「なにって・・・現場でのフォローとか、仲良くするとか・・・」
「慣れ合いは御免です、それに彼女の思考は僕には付いていけない事が多い」
「違うもん同士ってのも面白いんじゃないか?」
「ふん・・・」