マネージャーに、ジムに行って鍛えてはどうか?と言われてジムに行くというと、俺はジムからの帰り道に会った。
ちなみに同じ方向に歩いていた後ろ姿を見て声を掛けたので、まったくもって検討違いの所を歩いていたである。
ちなみにお前が今行こうとしているのは違うビルだ。と正しい道筋を教えてやると、今度は間違えません、と彼女はマネージャーに 渡されたのであろう恐ろしく簡易な地図をぎゅっと握った。おいおいあのマネージャー容赦ねぇな。
・・・営業時間内に着けるといいな。 いや、俺が迎えに行って一緒に行った方が何百倍も早いな。
そんな事を考えていると、地図をカバンにしまってどうやら今日はジムに行く事は諦めたらしい彼女が口を開く。



「鏑木さんはお仕事帰りですか?」
「おう、今ジムに行って鍛えてきた所だ。おじさん、疲れちゃったよ」
「今日は出動なかったですからねー・・・私も色々会社で事務仕事やりましたよ」



本当言うと、まぁ腹筋しなければいけないところで横でランニングするバニーちゃんを眺めながらごろりとしていたのが 大半だったが、後輩ヒーローの手前、そう答える事にする。
そうなんですか、やっぱりヒーローは毎日鍛えるものなんですね・・・とは素直に頷いた。



「それよりお前今から暇?メシ行くか?」
「ごはん・・・・!!い、行きます!お供させてください!あ、安い所で!」
「俺とバニーを一緒にするなよ。安心しろ、俺が行くところは安い」
「良かった。いやぁまだ給料振り込まれてないから、ちょっとキツくて・・・毎日きゅうりですよ」
「お前、ほんと極貧だな・・・バニーちゃんにいいもん食わせて貰ったら?あ、俺も一緒に奢ってもらおうかなー」
「え?!バーナビーさんにはカツ丼おごってもらいましたし・・・あのカツ丼、ほんと美味しくて・・・!」



じゃあ、行くか。と横に並んで歩きだした俺たちだったが、そこまで会話してあることを思い出す。
そうそう、聞かなきゃいけねー事があったんだったとばかりに下に目線をやると、 今からご飯ということでうきうきなが見えて、微笑ましい気持ちになる。
だからこそ聞いておきたい事があった。俺は、ガラにもなく少し緊張しながら言葉を紡ぐ。



「あー、ちゃん?」
「なんですか?鏑木さん」
「・・・・・」
「・・・・?」
「ずっと気になってたんだけど、なんで俺は”鏑木さん”でバニーちゃんは”バーナビーさん”なワケ?」
「えっ、鏑木さん・・・名前で呼んでもいいんですか?あの出会ったばっかりでずうずうしいかな、と思ってたんですけど・・・」




いいですか?と聞かれて、否とは到底答えられそうにもない。
下から見上げられる瞳は、日本人特有の漆黒の瞳で、その漆黒の中にきらきらと光が散っていた。
とまどいながらもなんとか是と返事を返せば、はきゅっと胸の前で組んだ手をようやくゆるめて、 華が舞う様な笑顔で視線を合わせてそっと俺の名前を口に出す。


「虎徹、さん」



あーーーーーだめだ、これはかわいい。
ヒーローの中でも年下の折紙サイクロンやドラゴンキッドに名前を呼ばれた時も、なんだか自分の子供の様に 感じてしまって、ほんわかとしてしまったものだが、も負けず劣らず可愛い。楓と張るくらい、いやいやいや 楓が一番だ、いや、でもも、なんて脳内で天秤にかけてしまったが、結局のところどちらにも傾く事が出来ずに、 その考えは頭から放り出す。



「ようやく呼んでくれたな。バニーは最初から名前だったのになんで俺はって思ってたんだよ」
「・・・・・・あ、バーナビーさんってそういや名前ですよね。こっちの人は名前、苗字の順番ですもんね・・・」
「ま、さかお前苗字と名前間違えてたとか言わないよな・・・?」



いつだったかのバニーの勝ち誇った顔が脳裏に浮かんだが、まさか苗字と名前の順番を忘れてたから名前で呼んでいる事になっていた、なんて バニーが知ってしまったらあいつ・・・・、なんて考えてしまって、 嫌な予感が現実にならない事をひたすらに祈った。
いやいや、だってもう子供じゃない、それくらいは・・・



「あの、虎徹さん。・・・私バーナビーさんの苗字知りませんでした・・・バーナビーなにさんでしたっけ」
「・・・・・・」



眉を下げながら、しまったという表情で聞いてくるをまじまじと見てしまう。
予想以上だった。なぜ、年齢は把握してるのに、苗字知らないんだ。 ツッコミを入れたくなったが、彼女は変な所で抜けている場合が多々あるので、こういう事があってもおかしくはなさそうだなぁ、なんて考えてしまって納得する。
しかし相手は、ここシュテルンビルトで知らないものはいないと言ってもいいくらいの有名人、 バーナビー・ブルックスJr. だ。
多分フルネーム言えないのお前だけだから、と言うと は目を大きく見開いた。いや、驚きましたって顔されても、俺の方が驚いたから。


「認めたくないけどバニーちゃんは今をときめくシュテルンビルトのヒーローだぞ?」
「いやぁ、私あんまり先輩ヒーローの事を知らなくて。越してきたばっかりでしたし」
「俺の事は最初から分かってただろ?」
「虎徹さんの事は、移動中の車の中でヒーロー大百科で見たので」
「・・・・前から思ってたんだけどヒーロー大百科ってなんだよ、怪しすぎるぞ」
「マネージャーが渡してくれたんですけど・・・なかなかぶ厚くって、ワイルドタイガ―項からまだ抜けれないんですよ」
「どんだけぶ厚いの!?」
「大まかなヒーローのステータスとかは最初の6ページでまとめてあるんですけど、それ以降はかなりマニアックな・・・」



が肩に掛けていたカバンから取り出したものは、大百科と言う名にふさわしい重量級の書物だった。
シュテルンビルトには現在8人のヒーローがいるが、それにしたってぶ厚い。どんだけ調べ上げられてるんだ・・・。
持ち歩きにも一苦労なので、トレーニングを兼ねて少しサイコキネシスで浮かせているらしいが、それにしたって幅は取るし、 持ち歩きにはとことん向かない。なんでもマネージャーに持ち歩くようにと言われているらしく、顔合わせの時の資料という 事らしい。
覗きこんでみれば、かなりびっちりと文字が敷き詰められている。一体どんな事が書いてあるのか、少し恐ろしい。
もっと良く見ようと距離を詰めれば、隣で少し焦った様にわたわたとするに気が付いた。



「あの、虎徹さん。ちょっと・・・ち、近いです・・・!」
「あ!、わ、悪ィ・・・!・・・いってぇっ!!!」



僅かに頬を赤くして、呟くに、焦って距離を取ろうとすれば、その前に涙が出るかと思うくらいの衝撃が足に走った。
ピンヒールで踏まれるってかなりの大ダメージ、骨折れたんじゃないか?!と慌てて足を見る。 そしてそのまま、俺の靴の上からどこうとしないその足の持ち主の顔を見る。目が合えばぴんと張った、冷たい声が耳に届いた。



「セクハラは犯罪ですけど、おじさん」
「だ、誰だ・・・お前か、ブルー・・・」
「カリーナ」
「・・・カリーナ。勘弁してくれよ、おじさんの足粉々になっちまうよ」
「あなた、大丈夫?このおじさんに変な事されなかった?」
「おーい、カリーナちゃーん、無視か?無視なのかー?」
「あ、大丈夫です・・・あ、あの!虎徹さんはそのそんなつもりじゃなかったと・・・!」
「は?だって迫られてたじゃない。調子乗ってる奴は思い知ればいいのよ」
「だーかーらーセクハラじゃねぇっての!」
「おじさんの言う事なんて信用出来る訳ないじゃない」



カリーナの冷たい言葉を必死に否定するも、彼女の強気な態度は一向に失われる事はなさそうだ。
へとへとになって、その場にしゃがむと上から不思議そうな声が振って来た。



「・・・お友達ですか?」
「あーそんなもんだ、そうだカリーナ、お前会うの初めてだろ?」
「ただの知り合いよ。友達なんかじゃないわ」
「え、じゃあもしかしてあなたがブルー、」
「えっ、な、なんで私の事知ってるのよ?!おじさんが話したの?!」
「落ちつけって、こいつは同業者だよ」
「同業者・・・あぁ!最近入ったって言う・・・えーとアリス・・・、アリスキャットだった?」
「は、はい!あのよろしくお願いします! と申します。・・あの、これお近づきの印に」
「あ、ありがとう」
「お前それいつも持ってんのかよ!菓子折り!」
「ヒーローは皆多忙だからいつ会えるか分からないってマネージャーに言われて、いつも菓子折り持ち歩いてるんです」
「なんだその微妙なプロ根性は・・・」
「ふーん、ま、よろしく」
「現場でもよろしくお願いします」



きっちり45度の角度で綺麗にお辞儀をしたアリスは輝かんばかりの笑顔でカリーナと握手を交わした。
あの輝く笑顔は、ヒーロー時は猫の着ぐるみを被ってしまうので、意味がなくなってしまう為、もったいない様な 気もする。
カリーナもそこは同意らしく、腕を組んで頷いている。



「礼儀正しいのは良い事ね。経験を積めばあなたももすぐに人気ヒーローになれるわ」
「はい!ありがとうございます」
「あ、ただ私よりも人気になるのは難しいと思うけど」
「そうですよね・・・ブルーローズさんはすっごいかわいいですもんね!」
「えっ、あ、ありがとう・・・・!」
「お、お前・・・自分で言っといて照れんなよ」
「うるっさいわね!あんまり言われ慣れないからびっくりしただけよ、可愛いなんて・・・」
「ふふん、照れんな照れんな、可愛いぞー」 「馬鹿!煩い!!」



辛辣な事を言い捨て俺に二度目のピンヒールアタックを食らわせたカリーナはにこり、とに笑う。
お前の方が年下なんだけどなぁ、なんて思いながら、まぁヒーロー歴でいえばブルーローズの方が上かと 思い直しつつ、こいつの年齢をバラしたら、さぞかしびっくりするのだろうな、なんて思う。
さてメシはいつものとこにするかなー、なんて考えながら、仲良く会話する2人を見守ったのだった。












正義の星はいずこ ☆06
「ま、現場で会ったらまた声掛けてね、。サポートくらいはしてあげるから」
「えっ、ありがとうございます!でもとりあえず犯人つかまえるの優先してくださいね」
「分かってるわ。犯人も捕まえて、あなたもサポート、これで完全ホールド!」
「わっ、生ホールド!!」
「お前ら・・・急に仲良くなったな。おじさんの事も忘れないでほしいなー」
「なに、おじさんはなんとも思わないの、こんな小さくて可愛い子が戦うなんて」
「あ、あの・・・!カリーナさん!」
「カリーナ、はお前より年上だぞ」
「・・・・・・・・・え、うそ」
「バーナビーさんと同い年です」
「・・・・・・」
「こりゃ駄目だ、フリーズしてる」