「・・・・・・暇」
「まぁ、あんまり君働いてないしね。事務仕事も限界があるというか」
「わ!いつから後ろにいたんですか!?」
「今だけど?」



にこり、と笑みを浮かべて私の座る椅子に手を掛けたのはマネージャーだ。
相変わらず笑みを絶やさない所はさすがと言えるべきか。しかしこの人は結構ずばずばと言う容赦のない人物だと言う事も、 私はこの数週間で理解していた。
マネージャーは私の隣のデスクに座り、パソコンをいじり始めた。多分私には処理できない書類を片付けているのだろう。 パチパチというキーボードをたたく音だけが、部屋に響く。


ヒーロー事業部という部屋が私の日中の活動場所だと言う事は十分分かってはいるが、まだまだ駆け出しの身。
特に処理する書類もなく、大抵のものは優秀なマネージャーがやってしまうので、私はいつだって暇なのだ。 やることと言えば、椅子に座って外を眺めて鳥の数を数えたりするこ・・・・・・・、


「鳥?!!!?」
「・・・・・・・」
「わっ、ちょ、ま、マネージャー!!!!そ、外!外に」
「なに?あんまり暇だからって騒がしくしないでね。はいはい、気分転換にお外に行ってもいいから」
「ちょ、そうじゃなくって!てゆうか子ども扱いしすぎです!私だって成人してるんですからね!」
「はいはい、」



無反応を決め込むマネージャーの肩をバシバシ叩いてはみるものの、反応は鈍い。
ひらひらと手を振って、これは1人で遊んでなさい、と親が子どもに言う時みたいな反応だ。 でも、今、本当にすごいものを私は確かに見たのだ。
もう一度窓を見れば、その鳥は下の方に降りていく。


「私、ちょっと出てきますね!また何かあれば呼んでください!」
「はーい、いってらっしゃい。6時までには戻ってくるように」
「親ですか!もう!」
「はいはい、」



都合が悪くなるとさーっと流すマネージャーに噛みつくように声を返したけど、やっぱり反応は悪かった。
気分転換してきても良いと言ったし、 仕事の邪魔をしてはいけないし、と私はヒーロー事業部から飛び出して、エレベーターのボタンを押したのだった。












「この辺・・・かな・・・?」



ザクインハーツ社のビルを出て、その後ろにある会社の管理下にあるバラ園に足を運ぶ。
鳥が降り立った場所は位置的にもここくらいしか知らなかったからである。
見事なバラばかりが咲き誇るバラ園をきょろきょろとあたりを見回しながら踏みいれば、 ベンチがぽつぽつと置いてある所に腰かけて鳥たちに餌をやっている人を見つけた。 ・・・・・・鳥。・・・・・というか人間。さっきビルの外を飛んでいた鳥人間だ・・・・。



「ん?君も欲しいのかい?」
「・・・・!」



じ、と様子を伺っていると、その人はこちらへハンバーガーを差しだしてきた。
いや、私は鳥じゃないですし・・・というかハンバーガー・・・うん。 微妙な空気を読みとったのか、その人は少し残念そうな顔をして、ゆっくりとハンバーガーを引っ込めた。
何故悪い事していないのに、悪い事をしたような気分にさせられるのだろうか。 あの人の頭にへたれた耳が見えるのはきっと気のせいなのに。
おいでおいで、と手招きをされたので、その人の掛けているベンチまでいって隣に座る。



「たまにここに来て鳥たちに餌をやっているんだ!君は?」
「そうなんですか・・・私はビル内からあなたの姿を見かけてびっくりしてつい・・・、」
「そうだったのか、驚かせてしまったね。すまない、そして申し訳ない」
「いやいや!勝手に追いかけてきてしまったのは私の方ですから」
「君は・・・私が怖くないのかい?」
「怖い・・・?ああ、NEXTだからってことですか?」



首を傾げてみれば、目の前の頭は頷く。
一般人はあまりNEXTに関わらない。にもかかわらず追いかけてきたと言った私に何故?と思ったのだろう。
そのまっすぐな眼差しは、とても悪い人の様には見えなかった。 良い人にNEXTも一般人もない。しかも私だって一応NEXTの端くれでもあるのだし。
そう言うと、その人はパァっと顔を明るくして、今にも抱きついてきそうな姿勢で一時停止した。
近い、とても近いぞ。なんだか相手の人の口癖が移ってしまった気がするが、今はそれは置いておく事にする。



「そうか!それはとても嬉しい、そして嬉しい!」
「あ、ありがとうございます・・・」



私より年上であろうその人は無邪気な微笑みを浮かべて、そう言う。
あまりの近さに少し気恥ずかしくなり、俯くと、肩にがしっと相手の手が掛かる。
思わず反射的に顔を上げると、にっこにこな笑顔が私を待ち受けていた。なんだか嫌な予感がする、なんて こんな笑顔を見て思う事ではないのに、相手との距離を取ろうとしてしまう。


「な、なん・・?」
「空は好きかい?」
「空・・・?好きですけど、そ」


れが何です?と続けようとした言葉は続かなかった。
にっこりという言葉が一番良く似合う表情でその人は、私の 肩に掛けた腕を私の腰に回して、がっちりと掴むと、上へと飛び上がったからだ。 重力にひっぱられた感じがして、私は思わず目を瞑った。もうこの際恥ずかしいお姫様だっことかそういうのは 本当にどうでもいい。重要なのは私が今空にいるか、それとも地面にいるのか、ただそれだけだ!



「見てごらん!夕日がとてもきれいだ」
「・・・・?!!?」



まぁ・・・・・空だった。私、いや私たちは今、空にいた。 時間帯からいってもそろそろ太陽が沈む時間だ。
夕日もとても美しいのだろうと思う。 そう、きっと美しいに違いないのだ。でも私は目を開けられない。
優しさからこの美しい景色を見せてくれようとした人の期待に満ちた声が私の耳に届く。
しかし、私は空にいるということを実感しているにも関わらず、どうにか落ちつかせようと目を瞑ったまま、彼の 首に手を回して叫ぶ。



「こ、こわい、高い!ここ高いですよね!!??」
「ん?私は風使いだからね、空を飛ぶ事が出来るんだ」
「そうなんですか!明確な答えをどうもありがとうございます!」



やけくそになってそう叫べば嬉しそうな笑い声が耳元で聞こえた。 笑っている場合ではないのです!私にとっては死活問題なのに! ぎゅっと抱きつけば、安定のあるがっしりとした腕が私の背に回る。
完全ホールドされてもこの無重力な感じと、目を開けた瞬間に下を見てしまった時の恐怖感を 想像してしまう為、怖さは紛れない。
なのに、彼は私に嬉しそうに話しかける。


「高い所が怖いのかい?でも大丈夫、目を開けて、」
「む、っ、む、無理です!高いのは本当に無理!むりむりむり!!」
「残念だ・・・せっかくきれいなのに」
「私にはいきなりハードル高すぎますよ・・・!ゆっくり降ろしてください・・・、」
「仕方がない、だが私は諦めないそしてネバーギブアップ!」
「いやギブアップしていただいても私は一向に構わないんですけど・・・」



疲れ切った様に口を開く私を見て、無理だと判断したのか、ゆっくりと降下していく。
安心して、彼の首に回していた手を緩める。そして口からは安堵のため息が出る。 と、安堵したと同時に急上昇を彼は繰り返して、なかなか地面へと降り立ってはくれなかった。

そんな事を繰り返したもんだから、ようやく降ろしてくれた時には太陽なんてとっくに沈んでしまっていた。
ひ、酷い目に・・いや、彼自身はきっと喜んでほしくてやってくれたのだろうと信じたいけど。
そして人の話を最後まで聞けと、私は声を大にして言いたい。



「おお、もうこんな時間か!実に楽しかった、またやろう!」
「話を聞いてください!そして聞いてくださーーーい!」



ぷんぷんと全身で怒りを示す私に対して、彼はまたしても笑顔だった。
突き抜けるような青空がとても似合う人だ、と私は思った。 そして青空ゆえ、何もかも包み込んでしまってまったく人の話を聞かない。 この人が近づいてきたら空に飛ばされる危険性がある!

そんな事を思いながら、私は彼に別れを告げた。彼は「また会おう、そして会おう!」と同じ事を二度繰り返すあの 口癖を言いながら大きく手を振って、来た時と同じように空へと姿を消した。
・・・・・・・・・あんまり会いたくないけど。いや、人柄はすごく良いんだけど、あの隙さえあれば私を抱えて空に飛ばそうと してくるのがどうにも頂けない。



そして バラ園で出会った彼が、KOHのスカイハイ、キース・グッドマンである事をヒーロー事業部のデスクに戻ったと 同時にマネージャーの一言で知ったのだった。











正義の星はいずこ ☆07
「ぎゃぁああああスカイハイィィイイイイ!」
、お前のそれは喜んでるのか?」
「まぁKOHですからね、おじさんよりはいいでしょうよ」
「うわぁああん!虎徹さんんん!!!」
「??!!さん?!」
「うおっ、どうした?」
「やぁ、タイガ―くんにバーナビーくん!」
「ぎゃあああスカイハイィィイイ!」
「お前嬉しいなら嬉しいって言えよ。スカイハイもその方が嬉しいと思うぞー?」
「ちが、違う、違うんです!ちが・・・!うわぁあああやだやだ、やだっや、うわぁあああ!!」
「さぁ、アリスくん!行くぞ!」
「おーーー、こりゃまた高く飛んだなぁ」
「・・・さん。高い所駄目って言ってませんでしたか?」
「・・・・・・あ。だからか」