「犯人が逃げた、追うぞ!」
「分かってますよ、おじさん」
「はい!了解です!!」



そういってハンドレットパワーを発動し、犯人を追うワイルドタイガーとバーナビー。そして他のヒーローたちもそれぞれ駆けだす。 が、横目にちらつくものがある。ドレープをたくしあげて、走ろうとしているけれど とてつもなく遅い。
返事は抜群に良いのだが、その返事とは裏腹にとろくさい動きをしているのは1人だけ、そう、最近入った新人のみだ。
もたもたっ、もたもたもたっという擬音で全てを察せてしまうくらいのとろさだ。

「・・・・・・・・・・・・・はぁ」

ため息をひとつ吐いて、バーナビーはそのもたもたな新人の元へ駆けた。
放っておけばいいのに、と自分でも思うのだけれど、どうしても視界の隅に入る。
こうなる衝動は自分ではとても止められやしないのだと思いながら。








「ぎゃーーーーーっ!!!は、はやい早いはやい、速い!ばばばばばばーなびーさん!」
「黙ってないと舌噛みますよ」



どうしても気になって仕方なかったので横抱きにして犯人を追って街を飛びまわれば、 横から聞こえてくるのは、悲鳴ばかり。 ちなみに自分の名前を呼ばれた気もするが悲鳴に紛れてしまって判別できないレベルである。
ようやく犯人が逃走を止めて、ヒーローで囲むと、観念したのか犯人はあっさりと投降した。 投降するくらいなら逃げなければいいのに、と言うと、隣からも同意の声が聞こえた。 飛びまわったせいで大分疲弊しているらしい。声が暗い。



「バーナビーさん、別に私を連れていってくれなくていいんですよ、タイガ―さんとスカイハイさんで捕まえれば」
「あなたを1人にしたらどうなるか分からないでしょう?」
「もう!バーナビーさん!私に構ってたらポイント取れませんよ〜」
「そうでしょうね・・・このままだとアリスさん、この前のポイントと初登場ポイントで今期は終わりですよ」
「うっ・・そ、そうですね、 私の方が危ういですもんね。それは・・・その、まぁ、その通りなんですけど・・・」



どんよりとした空気を出し始めた隣の猫頭はぐでんと首を下にして、俯いたままだ。
これからのヒーロー生命に思いを馳せているのだろうか、しっぽもだらんと下がったままだ。
そして、 「でもポイントとバーナビーさんが助けてくれるのはちょっと違うんじゃないかな」などとぐだぐだと蚊の泣くような 声でぼそぼそと言い、食い下がる。くどい。
その頭にぽんっと手を置けば、アリスさんははっとしたように顔を上げる。 そこで輝かんばかりの笑顔で言い放ってやる。



「あなたを見ているととろくさくてイライラするんですよ」
「・・・カメラまわってるからって、そんな営業スマイルで言わないでください、余計怖いです」
「バーナビーくん!アリスくんは、私が運ぼう!そして運ぼう!」
「スカイハイさんは嫌です!」
「そんなはっきり言わなくてもいいと思うんだ・・・そしてショックだ・・・」
「KOHにそんなこと言えるのはお前だけだなー」
「今のは高いのが嫌だって事ですよ?!」
「うう・・・・」
「おいスカイハイの機嫌が急降下してんぞ、アリス」
「わ、私は別に・・・!あの、そのお気持は有難いのですが!別にスカイハイさんが嫌なんじゃないんですよ」
「・・・・本当かい?安心したよ!」
「はい、本当ですよ!」




にこにことした笑顔の会話の隣で苛々とする自分は酷く滑稽だと思える。
こんなことに苛々としたってしょうがないし、むしろ何故苛々するのかも分からない。虫の居所が悪いのだろうか、なんて 考えて俯く。 ぱっと視線を感じて顔を上げれば、アリスの(いや着ぐるみからの目線なのだけれど)目と合い、反射的に 視線を外してしまう。表情こそ分からないものの、とまどった空気がこちらまで流れてきた。
知ったことか、とその場を後にして歩き出し、スーツを脱ぎに斎藤さんへと呼びかける。
反応して返事を返す斎藤さんの声はスピーカー越しに大きく反響して頭が、痛い。 がんがんと頭を打ち付けるような鈍い痛みが走る。
顔をしかめながらも返事をして、その場を去る。いや、去ろうとした。




「・・・ええ、お願いします、はい」
「バニー!」
「はぁ・・・なんですか、おじさん」
「どうしたんだよ急に。アリスも困ってただろ」
「スカイハイと仲良くしていたので、僕がここにいてもと思っただけですよ。他意はありません」
「・・・他意ありまくりだろ、それ・・・」
「なんです、おじさんに呆れた顔されると酷く腹立たしいんですが」
「いやぁ鈍感というか・・・若者は難しいねぇ・・・」
「蹴り飛ばされたいんですか、おじさん」




はぁ?とは言わないけれど、心の中ではぁ?と1回言ってからおじさんにそう言えば、 1歩後ずさっておじさんもう年だから、とか訳の分からない言い訳を並べて手を前に突き出す。
それでもそれ以上の言葉を発しない所を見ると おじさんへと向けた冷たい視線で僕の言いたい事は分かったらしい。
まぁ今ので分からなければ本当に蹴っ飛ばしていたところだったけれど。
今度ははぁ、とおじさんにも分かる様にため息を深く着いてからおじさんを背にして歩き出す。
こんなにも苛々としてぐったりするのは出動後で、疲れているせいなのかもしれないしと思い、頭を軽く振る。
すると後ろからパタパタと駆けてくる足音が聞こえた。振り向けば追いかけてきたのであろう、アリスの姿があった。



「あっ、あの・・・!今日はありがとうございました!バーナビーさん」
「いえ、お気になさらず」
「私まだ能力も微妙だし、移動も遅くて迷惑をお掛けする事も多々あるとは思うのですが、」
「理解力や判断力はおじさんよりはありそうで、安心しました」
「おいっ、それどういうことだよ!?まるでオレが理解力と判断力がないみたいじゃねーかっ!」
「違うんですか?それは初耳です」
「あーー!あの、その!ですね、ありがとうございました」
「それさっきも聞きましたよ・・・まったく、・・・はぁ、」
「・・・・はい。えっとそれだけなんです。・・・・・・・あれ、バーナビーさん」
「・・・・なんですか、・・・・?!」
「大丈夫です?なんか顔色が・・・」




前触れもなくつ、と彼女は背伸びをして、自分の方に寄った。
そして唐突もなくふっとこちらへ伸ばされる彼女の手を見つめていると、それはそのまま僕の額へと到達した。
ひやり、とした手が僕の髪を掻き分けて額に触れる。
ぴとりと密着した手に、かぁ、っと頭に血が上るのを感じて、ああ、マスクを被っておけば良かったと、その時心底 後悔した。
後ろに立ったままだったおじさんが茶化してくる声もあまり聞こえない。やっぱり疲れているんだろうか。



「ひゅーやるなぁ、アリスちゃん」
「何がです?調子が悪いなら病院に行った方がいいですよ?」
「けっ・・こうです!構わないでくださいっ!!」
「無理は駄目ですよー」



くらくらとする意識の中で、 彼女の声が聞こえた僕はますます早足でその場を去りたい衝動に駆られた。
今まで頼りなく見えていて大人でも全然ない彼女が急に大人びて見えて動揺したというのもある。
言葉に出来ない声だけがちらちらと口から洩れるばかりで、一向に文にはなりそうにもない。

にやにやと笑うおじさんの顔だけが飛び込んできて、またしても飛び蹴りをかましてやりたい気持ちでいっぱいになる。
それと同時に彼女への理由もない腹立だしさも沸き上がってきて、僕は今度こそ完璧に背を向けて歩き出した。













正義の星はいずこ ☆08
「あっ、もー虎徹さんが色々絡むから・・・。疲れてるのかな、バーナビーさん」
「うんうん、まぁそうだな、うん。いやーっ、若いってのはいいねぇ!」
「虎徹さん、おじさんくさいですよ」
「うっお前までそんな事・・・!おーいスカイハイ!」
「ぎゃあ、スカイハイさん呼ばないでくださいってば!」
「・・・・呼ばれて早々、嫌がられる私・・・」
「ああっ、またブルーモードに!」
「なに、アリス。呼んだ?」
「いや、ブルーローズさんではなくて、」
「なによ、呼びつけといてどういうつもり?」
「ほんとお前可愛がられてんなー。ま、1番可愛がってるのはオレだけどな!」
「はいはい、おじさんは放っておいて行きましょ、アリス」
「あ、うん!」