「いらっしゃいませー、あ、ありがとうございます」

ピコンピコンと鳴る自動ドアに目をやり、いらっしゃいませとまた声を出す。
レジにやって来たお客さんに頭を下げて、バーコードを読み取る。 値段を言って、お金をもらって、それでありがとうございます。これが今の私の現時刻の仕事だ。
次の方どうぞーと言ってお客さんを促せば、ミネラルウォーターと歯ブラシが目に入ってきた。 誰だコンビニで歯ブラシなんか買うの、と思って人を見れば、マネージャーだった。
いや、水は分かるけど、何故歯ブラシ?という私の思考を読んで、マネージャーは私が聞くより先に口を開いた。




「ちょうど切れてたことを思い出してさ」
「コンビニ店員な私が言うのもなんですけど、コンビニで歯ブラシ買うなんてセレブだけですよ?!」
「じゃあ言わせてもらうけど、君はもっと人並みな暮らしをした方がいいよ」
「うっ・・・だ、だから仕事してるじゃないですか!」
「うんうん、似合ってるよコンビニ店員」
「本当ですか!ありがとうございます。450円になります」
「別に褒めてないけどね。はい、おつりちょうだい」




バーコードを読み取る為に、まぁやや乱雑に歯ブラシを掴んでピッと読みとる。
合計金額を言いながら、マネージャーを見やればやれやれといった表情でお金を渡す。 そもそも何故私がここでバイトを始めたのかと言うと、手っ取り早く言えば、まぁお金が無く、さらにヒーロー以外の 時間は暇だったからだ。ただしヒーローの出動要請が出ればすぐに現場に向かえる様にはマネージャーが説明 してくれて出来るようになっている。
コンビニ店長も私が特別な職業に就いていてその事については理解を示してくれているし、恵まれた 職場環境には頭が下がるばかりだ。
仕事内容はごくごく一般のコンビニアルバイトと同じである。
あとは仕出しや商品整理などもやっている。この前はブルーローズさんの会社のコーラを並べたりもした。やっぱり ランキングでも常に上位にいるせいか、売り上げはすさまじい。さすがブルーローズさん・・・! ちょっと知り合いなのが誇らしかったりして。
あとは全国どこでもいる店内にたむろする方々の排除である。いつまでも店内にいる人には目を光らせている。 それの割合が結構この店舗は多い気がする。そして大抵同じ人がたむろしている。なんの為にそんなに長時間いるんだろうか。と 疑問を抱きつつも観察する。
そして主に接客。笑顔は忘れずに、ここは大事な点である。


「じゃあね、頑張って。出動の時はちゃんと戻ってくるんだよ」
「了解です!はい、頑張ります〜」


そんな事を考えつつ、マネージャーを見送る。・・・何しにきたんだろマネージャー。仕事いいのかなぁ、なんて事を 思いながら手を振る。
するとマネージャーとすれ違って入って来たお客さんと目が合う。慌てていらっしゃいませ、と言えば、にっこり笑って 店内に入ってくる。あ、良い人だ。
にっこりどころか無愛想に入ってくる人もコンビニにはいるから、そういう対応されると私も嬉しくなってしまう。
ただその人まで店内をぐるっと一周してレジに持って来たものが、あれだとは思わなかったのだ。




「(ま、また歯ブラシ・・・なんなの、今日は、歯ブラシ売れる日なのかな)」
「どうかした?店員さん」
「はっ、す、すみません、いやあの、歯ブラシ・・・いや、なんでもな、」
「ああ、それね、コンビニで歯ブラシ買うなんてどうかと思うわよねぇ。止めろって言ったんだけど」
「え、ええ。そうですね・・・?」
「ああ、歯ブラシはアタシじゃなくて頼まれ物なの」
「・・・っ、おーいネイサン!歯磨き粉も切れてたんだったっ!」
「あんたねぇ・・・」




大声を出しながらコンビニに飛び込んできたのは、とても見覚えがあるワイルドタイガ―・・・もとい、虎徹さんだった。
日常でも結構せわしない虎徹さんはぐるっとコンビニを回ってから、レジの前に立っている、ネイサン?さんの元までやってくると 悪いな、と言いながら店内で発見したであろう歯磨き粉を片手にレジへ置く。



「せわしなくてごめんなさいね」
「い、いえ・・・。600円になります」
「悪かったって、・・・・ってあれ?」



謝罪の言葉を受け取りつつも、その謝罪の対象となる人物が知り合いな為、微妙な心持である。
ピッとかざせば、合計金額がレジに表示される。 合計金額を口に出せば、ようやくコンビニ店員が私だと言う事に気が付いたのだろう、虎徹さんが声を上げる。



「あーっ!お前なんでこんな所にいるんだよ!」
「虎徹さん・・あの、仕事っていうかバイトです・・・」
「そうか、そうかぁ。頑張ってんなぁ」
「なによ、知り合い?こんな可愛らしい子と?・・・大丈夫?」
「その不審な顔止めろよ。違うんだ・・・まだ顔合わせしてなかったか?・・・こいつもヒーローだよ」
「ヒーロー・・・・あ、この前ハンサムに横抱きされてたあの子?羨ましいと思って見てたのよ。覚えてるわぁ」
「横抱き・・・というか、あれかなり苦しかったんですが・・・ハンサム?」
「ああ、バニーのことだよ」
「なるほど、あっあの、私、新入りのと申します。以後よろしくお願いします。これつまらないものですが、」
「まだそれ持ってたのかよ・・・」
「まだ顔合わせが済んでない方が多いので・・・」
「あら、まぁ。ご丁寧にどうも。ネイサン・シーモアよ」



レジの下からバックを取り出し、その中から菓子折りを出す。
ネイサンさんは面食らった顔で、虎徹さんは呆れ笑いをしているけれど、なんとか受け取ってもらった。 というかおネェなヒーローとかもいるんだなぁ・・まじまじと見てしまう。
でも体系もモデルの様にいいし、筋肉もついて引きしまった身体をしている。羨ましいなぁ・・・。
あまりに羨望の眼差しを注ぎ過ぎた為だろうか、ネイサンさんは微妙に居心地悪げに身体を揺らした。
はっ、ついじぃっと見入ってしまった・・・!



「ご、ごめんなさい、あまりに綺麗な身体のラインでしたので、つい・・・!」
「お前混乱と一緒に、変態くさい事言ってんぞ」
「へ、変態・・・?!ちょ、そんな、違いますよ!」
「ふふ、可笑しな子。でもごめんなさいね、私の身体はもう別の人のものなの・・・」
「おいおい!何言ってんだよ!それにアントニオは・・・」
「やだ、こんな所で恥ずかしいわねぇ。デリカシーない男は嫌われるわよ」
「こ、虎徹さんのせいで笑われちゃいましたよ・・・うう、」
「よしよし、ごめんな」



ぼすぼすと、レジ越しに拳を振れば、それを受け止めながら、虎徹さんは笑う。
そうしてネイサンさんに悩ましげな視線を投げかけられながら、虎徹さんは私の頭を嬉しそうに撫でる。
あまりに嬉しそうだから、ついつい髪の毛ぐしゃぐしゃになってしまうのも忘れてそのままそのあったかい手に 頭をゆだねてしまうのだ。
それを見ていたネイサンさんはしみじみとして口を開いた。



「あんた、本当に役得ねぇ・・・そのうち後ろから刺されるんじゃない?嫉妬で」
「こっわい事言ってんなよ!誰、誰にだよ・・・!」




こちらに来てからというものの、人に頭を撫でられる回数が多くなった気がする。あれかアリスキャットで 猫頭を被っているからペットみたいな感覚でつい頭に手が伸びてしまうのだろうか・・・・。
?が飛び交う私に向かって、大人2人はまた柔らかに微笑んでレジ袋を受け取る。




「じゃ、もう行くわ。あんまり邪魔してても悪いしな」
「またね。頑張んなさいよ」
「はい、ありがとうございました!」



ありがとうございました、ともう一度言って頭を下げる。
また間抜けな音を響かせてコンビニの自動ドアが開き、そこを通って出ていく2人を 見送る。視線に気が付いてにかっと笑った虎徹さんは大きく私に向かって手を振った。
それに小さく振り返して、私は最高の笑顔で接客に戻ったのだった。









正義の星はいずこ ☆09
「ネイサンさーん!今日も麗しいですね、美容法教えてください!」
「あらっ、嬉しい事いってくれるじゃなーい、ブルーローズと一緒にエステ行くんだけど、あんたもどう?」
も行きましょうよ、ネイサン御用達だから期待できるわよ〜」
「い、行きます!お供させてくださいー!」

「あいつら、仲良くなるの早いな・・・」
「おじさん、動きが止まってますよ、」
「お前だってそうだろうが、」