「ボンジュール!やっと来てくれたわね、HEROTVプロデューサーのアニエス・ジュベールよ」
「ぼ、ぼんじゅーる。こんにちは、アニエスさん。アリスキャットです、はじめまして」



ジムでトレーニングしようとしたら、いきなり腕に付けているブレスレット?みたいのから呼び出しをくらった。
CALLと表示されるそれにあたふたしていれば、ここを押して応答するの、とカリーナさんが教えてくれた。 出てみればマネージャーで、なんでもHEROTVのプロデューサーからお話があるとのことだった。 どんな事を言われるのかと、覚悟を決めてカリーナさんの見送りと共にジムを出て、 待ち合わせの場所に向かったのだが、そこにはかなり美人な女性プロデューサーが待っていた。 ふぇ、フェロモン・・半端ない・・・。
あまりにぼやっとしていたからだろうか、若干厳しめにアニエスさんの目がつり上がった。



「アリス、来てもらったのは他でもないの、あなたの視聴率についての事。単刀直入に言うけれど・・・」
「は、はい!」



きらりと目が光った気がして、私は後ずさりたくなる気持ちを必死で押さえてアニエスさんの目を見返す。
私が出ている所は視聴率が下がったとか、人命救助もっとしろとか、活躍しろよ、とか能力ヘボ過ぎるとかそういうことだろうか。 上げたらキリがないけど、私の武器がフォークなのはアリスのティータイムからってマネージャーとか上層部の人が勝手に 決めたことなんだよ、しょうがないんだよ。そしてたまにナイフもスプーンも入ってたりもするんだよ。
まぁなんのかんのと言った所で、私のサイコキネシスがヘボサイコキネシスじゃなかったら、もっと良い攻撃が考えられたんだけれどね・・・。
そんな事を一気にぐるぐると考えてしまい、その口からどんな叱責が飛び出すかと、私は待ち構えていたのだけれども、 出てきたのは予想外の単語だった。



「す、スカイハイさんですか・・・?」
「そう!あなたと、スカイハイが一緒にいると視聴率が上がるのよ!だからこれからはなるべく一緒に写ってほしいの」
「は?・・・・・え?あの、アニエスさん?」
「分かるでしょ?今まで女性ヒーローはブルーローズ、ドラゴンキッドだけ。ブルーローズは女王様キャラだし、」



ドラゴンキッドも女性ヒーローと言えばそうだけど、あの子強いし。と顎に手を掛けながら言うアニエスさん。
それ遠まわしに私が強くなくて足手まといだと言っているんですか・・いや本当の事だけど、面と向かって言われると、 ちょっとへこむ。確かにさっき自分でヘボサイコキネシスとか言ったけれども。いや、事実なんだけど。うん。
しかしアニエスさんはへこんでいる私のことなど気にも留めず言葉を繋げる。



「やっぱりスカイハイは、ナイトっぽいでしょ?」
「え、そうなんですか・・・?」
「そのKOHと貴女が組むととっても良く見えるの、だから一緒にいて」
「え、ちょっと意味分からないですよ!私、スカイハイさんは、というか高い所が駄目なんです!」
「知ってるわ。でもそれで視聴率が上がるのよ!?あなたも頑張らなきゃ」
「駄目です、無理、高いの怖い無理すみません」
「そんな即答で・・・。そうねぇ・・・あ、じゃあ、」



まだ続くのか、というかスカイハイはナイトで、ってことは私が弱く見えるからいいってことか?
ううう、筋トレ続けてるけど、まだそこまでのNEXT能力強化には至ってはいないし。



「バーナビーはどう?彼、単品でも優秀だし、貴女と一緒にいても視聴率結構取れるのよ〜ほら、この前のとか」
「こ、この前・・・・いやいやバーナビーさんも駄目です!犯人倒す前に私がお陀仏しちゃいます」
「彼も駄目?あとは・・・あ、大穴でワイルドタイガ―とかもあるけど・・・これは没ね」
「没なんですか・・・。と、とにかく飛んだり跳ねたりしない人がいいです!」
「仕方がないわね・・まぁマニア層ってのもあるし・・・」
「あ、アニエスさん・・・?あのお手柔らかにお願いします・・・」















「今日一緒に行動する事になったロックバイソンだ、よろしくな」
「あ!よ、よろしくお願いします・・・!」
「飛ばない跳ねないとか、よく分からんが、プロデューサーの言う事だからな、」
「多分私が弱くてとろいからだと思いますが・・・色々ご迷惑かけます!」
「そんな事ないだろ?お前頑張ってると思うぞ?」
「ありがとうございます・・・あ、あの私アリスキャットと言います!よろしくおねがいます」
「・・・知ってる。ニューヒーロー」



ばっと頭を下げれば、上から感じる苦笑の雰囲気に、差し出した物を引っ込めようとする。
しかしその前にそのごつい手が動いて、私の手から彼の手へと移動する。 ちなみに今日のは私のお勧めの一品だ。



「乾物3点詰め合わせ・・・?」
「私のお勧めなんです、切干大根、鰹節、わかめ!」
「?良く分からないがありがとう、虎徹の言っていた通り良い子だな」
「こ・・・こちらこそ、ありがとうございます?」



虎徹さんがなにを言ったのか非常に気になる所だが、それはぐっと押さえる。
とりあえず出動要請を受けたのだからと、現場に向かう事にする。 ちなみに今日のドレスの色はロックバイソンさんに合わせたカラーリングなのか、シトロングリーンのドレスである。 というかヒーローがその日その日でドレス色変えるってのもどうなんだろうか?と思ったけれどそれをマネージャーに 言った所で変わるとも思えない。せいぜい「アニエスがそう言ったならそうすればいいよ」といつも通りの御返事を 頂くぐらいのものだろう。
そしてドレスのカラーを変更する時もアニエスさんは「ああ、スカイハイならそのままのアリスのドレスで完璧なのに・・・、」と 小さな声で言っていたのを私は聞き逃さなかった。確かにいつもはスカイブルーの明るいドレスだから、 余計にそうなるんだろうけど。
アニエスさんの押しは強くて、私は逃げるだけで 精いっぱいだ。・・・今度からドレスはホワイトにしてもらおうかなぁ・・・、なんて、アニエスさんの情報を聞きながら そんな事を遠い目をしながら思ってしまう。
あ、でもホワイトだとウエディングドレスになっちゃうか。



「アリス。その悪いんだが・・・担ぎあげてもいいか?」
「えっ、あ、やっやっぱり遅いですよね・・・!」
「いや、そうじゃない。俺のスーツはあまり下が見えなくてな。踏んでしまいそうなんだ」
「な、なるほど。ロックバイソンさんの邪魔になるのは嫌なので、じゃあお願いします」



出動場所まで行くのは各自な為、私とロックバイソンさんは道路を走るしかない。
最初とろとろだった私の 走りは少し経った今、とろ・・・とろくらいになっていた。あまりの遅さに目も当てられない状態なのに、 ロックバイソンさんは努めて優しく私に切りだしてくれた。良い人だロックバイソンさん・・・。
失礼するぞ、と言って腕の下に力強い手が入り、視界が広くなる。肩車状態だ。ロックバイソンさんの 片方の肩にちょこんと乗って、しがみつく。しがみつくところが角の部分しかない・・・!
こ、怖いけれど、でもまだ前回(バーナビーさん:アクロバティック)や前々回(スカイハイさん:同じくアクロバティックな上高度が半端ない)よりは大分、高度は低い。 まだ安心できる、とほっと息をつく。



「現場に着いたら降ろすから、それまで辛抱してくれ」
「いえ、逆に助かります、ごめんなさ、」
「謝らなくていい、俺の視界が悪いだけだからな」
「・・・ありがとうございます」

きゅっと片腕をまわして抱きつくと、ロックバイソンさんは先ほどよりも早く駆けだした。
一歩が大きい分、景色がどんどん後ろへ後ろへと流れていく。 風を感じながら、私はもう一方の手でぎゅうっとドレスのすそを掴んだ。









『おおっとここでロックバイソンと・・・あれあれ、その肩に乗ってアリスキャットの登場だぁああ!今日は装いも新た!』
「は?ちょ、お前肩にアリス乗せてなにやってんの?」
「プロデューサー命令だ。状況はどうだ?」
「おはようございます、タイガーさん」


大音量のレポーターの声が着ぐるみの中の耳にまできぃいんと響く。
ゆっくりと降ろしてもらってドレスの皺を直してタイガ―さんへと向き直る。おはようございます、とぺこっと 頭を下げれば、まだ事態を把握できていないのかスーツを着ているにも関わらずその動揺っぷりがこちらにまで伝わってくる。 その様子がなんだか可愛くて、笑ってしまう。



「なぁなぁどういう事だよ、詳しく説明しろ」
「それは後だ」
「みなさんいないんですか?」
「ああ犯人追ってタワーの方にいっちまったからな」
「タイガーさんは?追わなかったんです?」
「俺?俺は・・・、」
「どうせ、バーナビーに言われたんだろ、おじさんは大人しくしてろって。まったく」
「なっ、違えよ!まぁ、ちょっと壊した所もあるけどよ・・・住民避難も大事だって気が付いたんだ」
「そうですよね、もちろん犯人確保も大事ですけど、一番は住民のみんなですもんね」
「そう、そうだ!アリスはいい子だなーよしよし」
「おい、なごんでる場合か!ここは皆避難したし、行くぞ」
「へいへい」
「あっ、はい!」




またしても肩の上に移動である。
そっと扱ってくれようとしているのがその手から伝わってきて、嬉しくなる。 たしかにフルアーマーとは言いにくい為に、その気遣いはとてもありがたいのだけれど。でもとっても子ども扱いされているような そんな気も漂ってくるけれど。
なにか言いたげなタイガ―さんに笑いかけると、タイガ―さんは了解した、と言うように 一度だけ頷いた。そして言いにくそうにロックバイソンさんに声を掛ける。



「あー、お前知らないと思うから言っとくけどな」
「なんだ、早く行かなきゃいけないだろ?無駄口叩いてる暇があったら、」
「アリスちゃんはバニーと同い年だからな」
「は???!!」
「わっ、」
「ちょ危ね!お前アリス落とすなよ〜気をつけろ」
「だっ、お前、バーナビーと同い年とかいうから・・・本当なのか」
「・・・まぁ、同い年です・・・ね。そんなに見えませんか・・・?」



そっと仮面を覗き込んで肯定の意を伝えると、ロックバイソンさんは驚いたというしかない状況で、 声を失くしていたけれど、タイガ―さんに促されてまた道路を走りだした。 現場までは近いみたいなので、タイガ―さんも走りだ。というかバニーちゃんにバイク持ってかれちまって、と 言っていた。相変わらずタイガ―さんに容赦ないバーナビーさんである。


「てかアリスは俺と組んだ方がいいんじゃねぇか?ほら一番最初に助けたの俺だし」
「いや、お前はないだろう。俺以上にない」
「酷ぇな!なんでだよ、なぁアリス、俺の事はなんか言ってた?」
「ええと、あの私からは・・・」
「なに?アニエスに何言われたんだよ?」
「あ、あの・・・スカイハイさんかバーナビーさんかで選べと言われたんですけど、遠慮したんです主に高度的な意味で」
「だから俺のところに来たんだな・・なるほど。いきなりプロデューサーから言われた時は驚いたが」
「そ、それでどうして俺の名前が出ないんだよ!」
「大穴でタイガ―さんとも言われましたけど、答えを言う前にアニエスさんに没って言われました」
「ぼ、没?!アニエス、あいつぅう!!」



ぎゅぅうっと握りしめる拳が震えている。それを私は見下ろしながら、そっと笑う。
けれど、それが一気にひきつり笑いになるのは一瞬だった。 う、浮いてる。浮いてるんだけどぉお?!?ぶらり、とつり下げられる様に浮いていた身体はふわっと浮いて、 2本の腕に支えられてつかまった。そして私の視界は埋められる。
いや、というかまぁ視線を逸らしたら、地面と空がちらちらと移りこんでくる訳で、どうにか下に降りたいけれど、 それは無理で。彼はいつも通りの様子で、爽やかに挨拶だ。
若干、声が震える。いや、うそ、本当はめっちゃくちゃ震えている、うん。



『今期一番の活躍を見せてくれたのは我らがKOH、スカイハイ!今日も見事な飛びっぷりです!』
「やぁ、今日はスーツの色違うんだね、もちろんとても似合ってるけど」
「ひ・・・・、こ、こんにちはスカイハイサン・・・いたんですね」
「私がいない日などないよ、なぜならこの街を守るのは私だからだ!」
「・・・・はい。出来れば私の心の平穏も守ってほしいものです」
『アリスキャットとの2ショットも決まっております!』
「≪スカイハイ、そのままお願いするわ!≫」
「了解、そして了解だ!」
「アニエスさん・・・!なにが了解なんですか、無理無理スカイハイさん無理!」
「≪無理じゃないわよ、アリスキャット、成せばなる!我慢して!視聴率の為よ≫」
「アニエスさん!?酷い、無理、無理ですって怖いの、高い所が怖いんですって!!」



ぎゅっとスカイハイさんの腕を握って首を激しく左右に振って抗議するも、すまない、プロデューサーが言う事なんだ、すまないと 謝罪で挟んだアニエスさんの企みがここで発覚した。
しかもすまないって言っている割に、スカイハイさんちょっと遊んでるよね、無駄に空中でくるくる回ったり 完璧に遊んでるよね、そして抵抗出来ずに遊ばれている私である。
犯人はどうしたの、放り出してきたのか?と思った疑問もアニエスさんからの通信で全て無事に終わったと 知った。無事でないのは私だけで、中継が切れるまでこのままとか死ぬ、死んでしまう、高い。
もう視聴率とか知った事かぁああ!飛んだり跳ねたりは嫌だって言ったのに!嫌とかで通じる世界じゃないのは 十分分かっている事だけれど、怖い物は怖い。とにかく怖い。



「君は空が怖いというけれど・・・私の事は?」
「怖くないですよ?た、ただ・・・高い所が駄目なだけなんです」
「そうか。君は変わっていない、安心したよ。ならば君の為により一層高く空を舞おう!」
「スカイハイさん・・・話を聞いてくださいってば、舞わなくていいんです!地面、地面に着陸!」
「≪OK、いい感じよスカイハイ≫」
「・・・・?なにがだい?」
「≪はぁ・・・いいわ、そのままの貴方でいてちょうだい≫」





助けてほしかったというか降ろして欲しかったけれど、スカイハイさん以上に高く飛べる人間は存在していない。
多分この下には茫然としたロックバイソンさんとタイガ―さんがいるのだろう。
私はぎゅっと目を瞑る。 ふわっふわとして身体が安定しない感じがどうにも居心地が悪くて、安定する為にぎゅっとスカイハイさんを掴めば、 スカイハイさんはそのシルバーのスーツの下でくすりと小さく笑った気がした。

悪気のない純粋さは時として悪になる、そんな事を思い知った今日の出動だった。










正義の星はいずこ ☆11

「おーこりゃ高く飛んだなぁ。大丈夫か?後で慰めてやんなきゃいけないな」
「取られた・・・」
「ん?なんか言ったか?」
「・・・なんでもない!」
「・・・おじさん、何故ここに?」
「あ、バニーちゃんおつかれ」
「思ったよりも、犯人引き渡しに時間が掛かってしまって・・・・ん?!」
「アリスなら上だぞ」
「???!!??!!?」
「あーバニーちゃん?言いたい事は分かるんだが、少し落ちつけ?」