ジムでのトレーニングはちょっときつい時もある。
そう給料日前なんて特にそう。朝ごはんをしっかり食べなくては、というのもあるのだけれど、 いかんせんお金が限られている中でのものなのであまりいいものは食べられない。 なぜ私だけこんな空腹感に溢れているんだろうって思った事は何度でもあったけれど、まぁお金がないのは仕方がない。 今日はきゅうりとトマトだったから、まだ栄養素的にはいいものだと思う。ええ、えーと、リコピンとか?
多分そんなような栄養素が入ってるはず。うん。たぶんきゅうりと塩だった時よりは、はるかに栄養素は高いと思う。

そんな事を考えつつ、いやいや邪念を払え!なんて1人で考えながら ひたすらバイクをこいだ後に、ジムに設置してあるイスに座れば、疲れと共にどっと眠気が襲ってくる。
眠くて、そしてお腹がすきすぎて、私はとりあえずその欲望のままに目を閉じたのだった。















「・・・・・・ん、」
「・・・・・き、気が付いたでござ、っいっだぁあああ!!!!」
「折紙さん!!!その人、目、覚めた??!!」



再び目を開けると、上から見てくる目と合った。 と思った瞬間に、それは瞬く間に視界から消えて別の目と会う。イエローグリーン掛かった綺麗な目だ。
目をぱちくりとさせると相手はに、っと笑った。 大丈夫?と問いかける声がして、あ、私、もしかして貧血かなんかで倒れてたのかな、なんて 今更ながらに思う。眠いのもくらくらしたのもきっとそのせいだ。 きっと鉄分が足りてないんだ、そうだ。そうに違いない。ええっと今日は帰りにホウレンソウ買って帰ろうかなぁ・・・。
ぼやっとしている私を、ゆっくりと彼女が起こしてくれる。と、起こした視線の先には、椅子から転げ落ちたイワンさんがいた。 な、なにを・・・しているんだろうか、MANZAIとか・・・?
大丈夫かな?と思いながら見つめていれば、イワンさんは自力で起き上がった。うん、さすがヒーローちょっとの事では へこたれない精神をお持ちの様だ。でもあの体当たり結構衝撃が大きかったように見えたけどね・・・。



「ホァン殿・・・痛い・・・・!」
「ごめんごめん、目が覚めたって思ったらつい・・・!」
「・・・・?イワンさん・・・・?ええと・・・・」
「あっ、さん・・・あの、お恥ずかしい所を・・・」
「いいえ、大丈夫ですか?」
「は、はい!」
「・・・・ふーん、」
「なっ、ホァン殿これは違っ・・・!」



目の前の女の子と、イワンくんはとても仲良さそうにこそこそと内緒話を始めた。
笑顔の女の子とは対照的にイワンくんはあたふたとして、落ちつきがない。 かわいいなぁ、微笑ましいなぁ・・・しかしこの子、どこの子だろうか、私とは初対面だ、よね。
はっ、ま、ままままさか、ヒーロー?!っていうかこのジムヒーロー専用だからヒーロー以外の人がいるとは考えにくい。 もしかして、という気持ちのまま口を開く。



「あの・・・もしかしてヒーローさん?」
「ん?ボク?そうだよ、ドラゴンキッド、ホァン・パオリン」
「ドラゴンキッドさん・・・?!電撃の?!」
「うん」
「こんにちは、私ヒーロー新入りのアリスキャット、と言います、よろしければこれ・・・」
「わぁ、なに?見た事ないのばっかり・・・おもしろーい!」
「私の故郷のお菓子で、和菓子っていうんです。羊羹とか最中、あとは水まんじゅうとか桜餅とか」
「YOUKAN?!!初めて本物みたでござる!うわぁああ、これが和菓子・・・!」
「ちょっとー、折紙さん、これボクがもらったものなんだけど」
「イワンさん和菓子好きなんですか?あ、じゃあお勧めの和菓子屋さんに今度食べに行きませんか?」
「えっ・・・・!」
「ほら、折紙さんってば、」
「ええと・・・その、あの、さん!」
「あと良ければ、ホァンさんも一緒に!」
「・・・・・うう、」
「もう、もたもたしてるからこうなるんだよ!男は度胸!まったくもう」



ホァンさんがイワンさんをどつくと、イワンさんはまたもやふらふらっと倒れ込みそうになる。
強い女の子だなぁ、なんて微笑ましく思っていると、イワンさんの方を見ていたホァンさんがこちらを向く。 じっと私を見つめるその強い眼差しにどっきりして、身体を固くすると、ホァンさんはなにやら後ろを向いてごそごそし出した。 なにかを取りだしているらしい。そうして振りかえりざまに何かを私に差し出した。



「これ、お返し!桃まんだよ」
「えっ」
さん、お腹すいてるんでしょ?ちゃんと食べなきゃダメ!ヒーローは健康じゃなきゃ!」
「ご、ごめんなさい」
「ホァン殿、そんなに言わなくても」
「じゃあ、折紙さんはさんがさっきみたいに倒れてもいーんだ?!あんなに焦ってボクのとこ来たくせに」
「なっ、ちょ、ホァン殿っ」
「あ、あのー、2人とも喧嘩しないで・・・!桃まんありがとう、ホァンさん」
さん・・・」
「うん!えへへ、」



つい手を伸ばして、 よしよしと頭を撫でるとホァンさんはにこにこと笑って身体を委ねてくれた。
そういえばこの街に来て、撫でられる事はあっても撫でる事はなかったなぁ、なんて考えて目を細めて 笑うホァンさんを見つめる。
と、視線を感じる、ホァンさんから目線を外して、その視界を広げれば、後ろでなんとなく居心地悪そうなイワンさん を見つける。もしかして寂しいのかな?と思ってちょいちょいっと手招きすればおずおずとこちらへイワンさんは寄ってくる。
そうしてホァンさんの横までやってくる。するとホァンさんは私のもう一つの空いている右手をイワンさんの頭に乗っけた。



「もー、折紙さんもさんに撫でて欲しいなら、素直に言えばいいのに!」
「ホァン殿、ち、ちが、これは、別に違う、あっ、あの・・・殿・・・っ!」



そうなのかな、と思って頭を撫でてみれば、イワンさんは黙ってしまった。
けれど、 にっこりと笑うホァンさんに、おどおどとしながらも嬉しそうなイワンさんを見ているとほのぼのとした気持ちになる。 かわいいなぁ、なんて私までにこにこしてしまう。
ヒーロー大百科には私よりも随分年下であるのに、しっかりと活躍を残している旨が書かれていた。
私もいつまでものほほんとしている訳にはいかないよね、そう、年上として、しっかりしなくては!
KOHであるスカイハイさんほどにはいかないとしても、とりあえず手助けがいらないくらいには成長しなくちゃなぁ。



「ボクたち、さんより年下だし、もっとくだけて喋ってくれていいんだよ、ね、折紙さん!」
「そ、そうでござる、その・・・その方が嬉しいです・・・」
「そっかぁ・・・じゃあ、お言葉に甘えるね、ありがとう。ホァンちゃん、イワンくん」



そうすると上目遣いにホァンちゃんが私を見つめてきて、少しの間そうしてから口を開く。
なにかな?なんて思っていると、頬に軽い感触。慌てて、ホァンちゃんを見れば、にこ、とこれまた可愛らしい 笑顔で迎えられる。隣には茫然としているイワンくんの顔が私の視界に入っていた。



「よろしくね、後輩!なにかあったらボクが守ってあげる」



その頼もしすぎるお言葉に、私はいたく感動して、うん、と頷いてホァンちゃんに飛び付いたのだった。








正義の星はいずこ ☆12

「虎徹、すさまじくトレーニングルームに入りにくいんだが・・・」
「そんなの、俺だって一緒だよ!どうしろってんだ」
「ドラゴンキッドのあの男前な所はどこからくるんだ」
「折紙ぃーがんばれー!」