「じゃあこれね。大丈夫かな?道分かるかな?」
「マネージャー、馬鹿にしないでください!なんで初めてのおつかいみたいになってるんですか!」
「だってアポロンうちから1番遠いから、君、道覚えてるかなぁと」
「お、覚えてますよ、任せてください!」
「・・・君、ヒーローよりも雑用の方が合ってるよね」
「・・・自分でもそう思います」
「とにかく気をつけてね。知らない人についていかない、お菓子もらっても良い人だと思わない、分かった?」
「さすがにこの歳になってお菓子にはつられないですよー!」
「お菓子が肉でも駄目だからね」
「・・・・・はい」



肉もらうってどんな状況?なんて心のなかでツッコミを入れつつ、私は 必要な書類をヒーロー事業部に届ける為に、アポロンメディアに足を運んだ。
そこでちょうど会社に入ろうとしていた虎徹さんに出会った。 多分お昼時であったし、昼休憩から帰って来たところなんだろう。 暑い炎天下から、ビルの日陰にダッシュして、虎徹さんを呼び止める。
大きな麦わら帽子を(マネージャーに熱中症にでもなったら困るからかぶって行きなね、と問答無用にかぶらされた)取って挨拶をすれば、 虎徹さんは一瞬驚いた顔をして、お前、ここまで来れたのか〜なんて笑顔で応えたもんだから、 私は上記のやりとりを今度はマネージャーではなく虎徹さんとする羽目になった。
まったく何故、どの人もそれを心配するんだか!私一応立派な大人ですよ!と帽子を振りまわしながらそう抗議するも、 虎徹さんは一向に態度を変えない。まさかマネージャーもたどり着けずに迷う事を想定して麦わら帽子を託したんじゃ ないよね・・・!?なんて変な方向にまで考えが及んでしまう。

とりあえず気分を取り直して、なんやかんやのやり取りの末に、入口で会ったのなら これ幸いと虎徹さんに書類を渡そうとすれば、虎徹さんは頬をかいて言いにくそうに口を開いた。



「・・・あー、俺そういう細かいの分からないからバニーちゃんに聞いてくれない?」
「・・・?いいですけど、虎徹さんだってお仕事できますよね」
ちゃんはほんといい子だなぁ・・・俺の事を出来る先輩って言ってくれるのはお前だけだよ」
「そんな事ありませんよ、先輩」



そう返せば、虎徹さんはいたく感激した様子で、大げさにおいおいと泣く真似をしてみせた。
普段アポロンでどんな扱いを受けているのか、とてもよく分かる図である。 よしよしと虎徹さんの頭をいつも私にしてくれる様に撫でてみれば、笑顔が見えた。
それに笑顔で返しながら、やっぱり笑顔が1番魅力的な人だな、と思った。



バーナビーさんはすでにヒーロー事業所のデスクでお仕事中だと思うと虎徹さんが言うので、私も事業部まで一緒に行く事になった。 虎徹さんの後ろに連れたって、アポロンのビルへと入る。
ザクインハーツのものですと言えば、マネージャーが話を通していてくれたのか、 お疲れ様です、と警備の人がきりりと敬礼をしながらスムーズに通してくれた。















「そんでバニーちゃんがなぁ」
「へぇ。そんな事があったんですね!」
「その時は俺も活躍したんだぜー?だーっとやってばばばっと!」
「あ。おじさん!こんな所にいたんですね、昼休憩から何分経ってると思ってるんですか、早く始末書書いてくだ、」
「あ、バニーちゃん、」



昼休憩が終わっても一向に帰ってくる気配のないおじさんを探して、入口の方へと足を運べば、 前から目標の人物が歩いてくるのを見つけた。
早く仕事に戻ってくださいと、声をかければ、 おじさんの口から漏れたとは思えない位置から自身のあだ名とは到底認められない名称を呼ばれた。



今のは誰だ、誰がその不愉快な名称で僕を呼んだ?とおじさんの後ろを覗き込んだ。
・・・沈黙が訪れたとはまさにこの事だと言えるだろう。
おじさんの顔を見やれば、よくやったろ?褒めろ褒めろ、と言わんばかりの表情で、軽くめまいがした。
まったく この人は、またおせっかいという名の病気である。しかしこの人のおせっかいで僕はロクな目にあった事がない。
怪訝そうに、しかし聞き逃してはいないといった表情を晒して、物凄く嫌な顔をしている自覚をしながら口を開いた。



「・・・今聞き違いじゃなければ僕の事、」
「は!つい虎徹さんにつられて…!すみませ・・・!う。こ、ここ、虎徹さーん!」
「よしよし怖いなーバニーちゃんは鬼だなー」
「・・・なんでおじさんの後ろに隠れるんです」
「・・・ええと・・・なんとなく・・・です」






怒った?怒った?と右往左往してからおじさんの後ろに隠れる彼女を見て、胸にもやもやと引っ掛かるものを覚える。
それに戸惑いながらも彼女の様子を見やれば、彼女もこちらの様子を伺いながら首を傾げている。 普段おじさんが僕をバニーと呼んだ時の不機嫌さを知っているだけあって、彼女もそれに怯えているのだろう。

・・・・しかしこれで本当に僕と同い年か?と疑ってしまうほどの行動と表情である。
彼女なら、お菓子か、なにか食べ物で釣れば、簡単に操れる様な気がする。それくらい 危うい気がする。事実、ドラゴンキッドやロックバイソンを見れば、その通りで、ジムで見かけるたびになにか 食べ物を与えている気がする。まだ彼女は空腹から逃れられてはいないのだろうか。・・・まぁ、おいしそうに食べ物を 食べている時の彼女は幸せそうで、癒される事は確かなのだけれど。

話が逸れに逸れた。 気を取り直して、そんなに露骨に態度に出されると、少し悲しい気持ちにもなるのだが。 まぁ、きつい言葉でいつも反論しているので、仕方ないと言えば仕方ないし、自業自得と言えるのだけど。
それに気が付いた僕は、努めて優しく、笑顔を浮かべて穏便に切りだした。



「まぁ・・・訂正してもらえれば構いませんよ、さん」
「あの!ほ、ほんとすみませんでした!バーナビーさん」
「いえ、正しく呼んでもらえれば、僕は気にしないですよ」
「はい!ありがとうございます、バーナビーさん!」
「いえいえ」



おどおどとしていた表情が安堵の為かにこにこの表情に変わった。
そのふざけた名称じゃなく、名前を呼んでもらえればそれでいい。 そんな事を考えて、自分のいつもの笑顔が営業用から素直な笑みに変わった事に気が付いて、あれ、と胸の中で、 再びひっかかりを覚える。
いや、気のせいだろうと言う事にして、彼女から仕事の書類だという封筒を預かる。 おじさんには分からない書類でもないのに、素直に「バーナビーさんにしか分からないと虎徹さんに聞いたので!」なんて いう彼女を微笑ましく思いながら、僕は・・・・・・、



「さっきはごめんなさい、どうも虎徹さんといると口調が移ってしまうみたいで」
「ええ。・・・・・・・・ええ、そうでしょうね」
「あ、あれ?バーナビーさん?ちょ、あれ!?あの!」
「あーあ。バニーちゃんって急に怒りだすんだよな、俺もよくやられるけどまったく意味分かんねぇよ」



今までの笑顔をもったいないとばかりに、びたんっと閉められたドアの様なスピードで引っ込めて、 代わりに無表情を引っ張り出す。 青筋が立ちそうになるが、それはどうにかこうにか押さえて、その場をくるっとターンし、自分のデスクへと早足で 立ち去る事にした。

意味が2人して全く分からないなんて本当にあの2人は基本的な所が似ている気がして、それにいらつく自分がいて。 なんだというんだ、と頭を左右に振って、僕は角を曲がり、2人の前から姿を消したのだった。













正義の星はいずこ ☆13

「バーナビーさん、疲れてるんですかね・・・?」
「あれだ、バニーちゃん腹でも減ってたんじゃねぇかな?昼休憩あったのに、またご飯食べなかったのか」
「あっ、それあり得ますね!やっぱり人間お腹すくと人が変わりますもんねー」
「近くのカフェからデリバリしてもらったサンドイッチ、デスクに置いてあったのになぁ」
「なんて事でしょう・・・!ご飯が食べられるのに、食べないなんて・・・!」
「お前、本当にいつもひもじそうだな・・・」
「・・・はい・・・まぁ。この前なんて何にも言ってないのにアントニオさんが焼肉連れてってくれたんですよ!」
「あいつ・・・・」