「さっぶううう!毎度毎度思うけど、ビルの上は止めましょうよ!怖い!寒い!」
「そこからが1番登場目立つし、アリスは穴に落ちて落下するもんだから大丈夫」
「落下!!????止めてくださいよ!縁起でもないっ!!」




ぎゅっとスカートの裾を握りしめながら、ヘリからのマネージャーの声に反論する。
ただでさえ、最近急激に寒くなった気温と合わせて背筋がぞくっとする。 登場シーンは上であれば上であればいい、なんて、目立つ、なんて、そんなもんくそくらえ!!なんて 思ってしまうけれど、所詮社会人なんて上のいいなりになるしかない。
涙目になるものの、毎回登場はビルの上からが固定化されてきている。ううう・・・!
落下とは言うものの、能力はヒーローを始めたばっかりの頃よりは安定して使えるけれど、 それでもまだ自分を支えながら屋上から飛び降りるのは無理だ。 どっちかっていうと能力うんぬんより私の気持ち的に無理だ。
そんな事が脳裏を掠めたけれど、毎度毎度のボンジュールヒーロー!というアニエスさんの麗しい声で、 今夜もまた私はヒーローとしてこの街を守るために屋上へ立つのだった。

「あ、じゃあこれ上からのプレゼント」
「は?!・・・・わ!!」

私の声は上から振って来たなにかによってかき消されたのだった。













「ういー、お疲れ」
「お疲れ様です」
「アラ、お疲れ」
「ネイサン、・・・・・・それ、なんだ」
「くっついて取れないのよ。困ったもんだわ」
「うううう、ネイサンさんまで私を放りだすんですか!」
「やぁね、そんな事言ってないわ。甘えてくれて嬉しいわよ」
「ううう、ネイサンさんすてきーだいすきー!」
「なっ!その塊、さんですか?!」
「はい・・・・先程はお疲れ様でした」




ヒーローTVの中継も終わり、その場はほっとした緩やかな時間が流れる。
私はと言えば、この夜の気温も落ちたこの空気に耐えられずネイサンさんにしがみついている。 塊、もとい、冬装備の私はそこから首を出して、虎徹さんと目を合わせる。
虎徹さんは苦笑とも取れる笑顔で、私の頭をくしゃりと撫でた。・・・まぁ今日は帽子によってその体温は感じる事は出来ない でいるけど。虎徹さんはそのままネイサンさんに話しかける。




「おいおい、ブルジョワ直火焼きも形無しだな、こりゃ」
「まぁ、でも役得かしらね、これは」
「ネイサンさんの能力があって、ほんと助かりました。もう寒くて寒くて」
「これなのよ、最近急に冷え込んだでしょ?寒いみたいで」
「そうなんです、で、急遽上から冬装備くれたんですけどそれにしても寒くて」
「なにやってんの、集まって。は・・・・?」
「うっわ、カリーナ!カリーーーーナ!!」
「な、なによ、ここにいたのね。名前連呼しなくても今そっち行くわよ」




上の方から声が掛けられたと思ってそっちに目をやれば、ビルの上からブルーローズもとい、カリーナが いつも通りの格好でそこに立っていた。もう一度言う、いつも通りのあのヒーロースーツだ・・・!かたや装備万端で もこもこな私・・・!
カリーナは能力を使って、私たちの所まで降りてくる。何度見てもいつも通りのヒーロースーツで、見ているこちらが寒くて堪らない気持ちになってしまう。
それっ、寒くないの!!??とまくしたてれば、カリーナは、目を少し見開いてから口を開いた。




「寒くないと言えばうそになるけど、別にそこまでは寒くないわ。は冬用のヒーロースーツにしたの?それもかわいいわね」
「あ、ありがと!寒いって言ってたらマネージャーがくれて。あのでもこれ秋仕様だよ」
「は?!!秋からそれなら冬どうするんです?!」
「いつも冬は極力出ないようにしてるから、分かりませんけど」
「そんなに着こんでるのに秋ってことは冬はどうなるのよ・・・」
「バニー、カリーナ、そんなに言ってやるなよ、寒いモンは寒いよなー?」
「そうなんですよ、虎徹さんさすが・・・!」
「くっ・・・おじさんの場合は怠けてるだけでしょう?」
「タイガ―に言われなくても分かってるわよ!」




いつものドレスの上にポンチョ、ポンチョの上からマフラーをぐるぐる。 そして頭は猫の着ぐるみの中に帽子をかぶって、耳あて。手袋にもふもふした素材のブーツ。
今は中継も終わったので猫の頭部着ぐるみは会話がくぐもるので外しているけれど、本当は被っていた方が寒くないから、そっちの方が好きだ。
冬はもっともっと中に着こまないと寒くて動けないだろう、とくに上空は寒くってたまらない。 いつもスカイハイさんがあのヒーロースーツなのも頷ける。まぁ、私の場合寒いのもあるけど、ただ単に 高い所は怖いっていうのが前提だったから、そこまでそれについては言及しないでおく。
ヒーロースーツがロボみたいな、虎徹さんバーナビーさん、キースさん、アントニオさん、イワンさんには分からない 悩みでもある。




「おいおいロボってなんだよ」
「ロボはロボですよ。そのロボ仕様だと寒くなさそうですよね。いいなぁ、私もマネージャーにロボ仕様にして貰おうかな」
「それは駄目よ。アリスだって分からなくなるじゃない」
「ううう、そうかー。でもあれじゃない?バーナビーさんとか虎徹さんみたいに顔の部分だけ出すとかは?」
「だめよ、アンタのウリの一つでもあるじゃない、そのヒーロースーツ」
「はぁ・・・そうですか・・・なんかいい案ありませんかね?」
「確かに女子組みはやっぱりヒーロースーツは寒いし、困るわよね〜」
「おい、1人女子じゃないの混じって・・・、」
「あぁん?!うるさいわね!!」




ネイサンさんの声で、虎徹さんは不用意な発言をしたとばかりに、身をすくませた。 バーナビーさんはその隣で呆れ顔だ。ちょっといつも通りのその光景に少し笑ってしまうと、バーナビーさんと目が合う。 こちらの視線に気が付いたバーナビーさんは私の背丈まで少し屈んでみせると、少し手をこちらに延ばしつつ口を開く。



「でもさん、もう夜も遅いですし、本当に寒いなら無理せず帰った方がいいですよ」
「あ、ありがとうございます」
「明日もありますしね、日々の体調管理は大切です。バイトもあるんでしょう?」
「はい、・・・・・・・あの、バーナビーさん?」
「なんですか」
「ちょっと・・・その、恥ずかしいんですけど」
「え?」
「ひゅー、バニーやるなぁ!」
「ちょ、なにやってるのよ!!〜!」
「いや、心配してくれてるのかな?と思って。それは嬉しいですし」
「アラ、案外やるのねー、ハンサムったら」




虎徹さんの声に、はっ、と気が付いたようだったから多分無意識なんだろうけど、なんでか延ばされた手は私の頬に行き着き、 結果、 バーナビーさんの手が添えられながらの会話になっていた。
多分寒くて少し赤くなっているから、それを心配してくれての行動なんだろうけど、あまりそういった外国スキンシップに慣れていない私にとっては、やっぱりまだ少し 恥ずかしい。こういったスキンシップが私にも出来る日がくるんだろうか・・・・ううむ、考えにくい事ではある。
虎徹さんにそう言われて初めて相手が慣れていない私と言う事に気が付いたのか、バーナビーさんは素早くぱっと手を私の頬 から外した。
心なしかバーナビーさんの頬も少し赤くなっているけれど、やっぱりロボ仕様なヒーロースーツといえど、寒いのかな?
首を傾げた私だったけれど、カリーナの背後からのホールドでそちらに意識を向ける。




「やっぱり寒くなって来たわね!さぁ、帰りましょ、送るわ!」
「えっ、それじゃカリーナが危ないでしょ?」
「なに言ってるの、私はヒーローよ。そこらの奴は氷漬けすればいいし」
「私も一応ヒーローなんだけど・・・・」
「はいはい、アンタたちまとめて送ってくから車乗んなさい、ほら」
「わー!ありがとうネイサン!」
「あ、ありがとうございます、ネイサンさん。明日から早朝バイト始まるんで助かります」
「またアンタバイトするの?たまには休んで女磨かなきゃダメよ〜」
「はい、また色々教えてください!あ、虎徹さん、バーナビーさんおやすみなさい、失礼します!」
「お、おー、気を付けて帰れよー!おやすみ」
「おやすみなさい、また明日」
「はーい!」







正義の星はいずこ ☆14

「・・・・あー。バニー?そろそろ俺らも解散とするか」
「・・・・・・」
「いや、いつもの事だろ?そんな落ち込むなって!いやむしろ今日は進展しただろ、絶対うん!」
「おじさんが何故結婚できたのか、僕には心底不思議でなりませんよ・・・はぁ」
「んだとう?!俺がバニーくらいの時にはなぁ!」
「はいはい、じゃあまた明日。あ、始末書の締め切り明日の午後までですからね」
「はい・・・・」
「「はぁ・・・・・」」