相変わらずふりふりひらひらな衣装が大好きな担当さんによって飾られていく私は、まぁ変身と 言ってもいいだろう。 メイクなどはいつも通りでいいわけだし(まぁ猫の被りものしてるからいらないっていう)、 変身は変身でもほかのヒーローのみなさんのようには変わる所は少ない。 だから気合いの入り具合もひとしおである。衣装担当さんのあの目力と押しの強さは一体と思ったけれど、 彼女もまた譲れないところもあるのだろう。 「そうそう!今度ねアリスキャットのドレスコレクションが出せる事になったのよ〜」 「へー、そうなん・・・・・・え??!」 「私の実力が認められたって事ね!うふふ、アリスに何着せようかこれから楽しみね」 「・・・・・・・・え?!ちょっと待って!え!?本当に?!」 「ほんとに決まってるでしょ、やっぱりビジューがたくさんついたドレス!可憐なエンブロイダリー!それに大きいリボン!たっぷりの フリル、繊細なレース!やわらかなシルクシフォン、ふわふわなチュール!ああ・・・可愛いエンパイアライン! シンプルなエンパイアドレス!王道でプリンセスラインでもいいわね!でもでもティアードドレスも外せないわ〜「あの、・・・ちょっと? おねーさん?あの?」 「はぁ!ほんっとうに楽しみ!」 「わ、私の話を、聞いてください・・・・」 語尾全てにハートマークがたっぷりとついたお言葉に私はぴしりと固まる。 ど、ドレスコレクション?しかも衣装さんがプロデュース? これはかなりまずい流れである。そして例のごとくマネージャーからはなにも知らされていない。 何のためのマネージャーだよと思うかもしれないが、うちのマネージャーは私のスケジュール管理を 主として行っているはずなのだが、本当に管理しかしていない。 要するに確認などを取ってくれない為にマネージャーから 仕事内容を知るというよりはこのように他の人から今度よろしく、と言われるまでしらないという事態が 発生してしまうのだ。 マネージャーいわく、話すとその内容によっては私が嫌がって仕事進まないから、という 血も涙もない理由があるのだと言われたけれど。 これって私怒ってもいい、よね・・・?!怒っていいところだよね? ☆ 「ってことがあってね・・・・」 「なに?そんなの出すの!?いつ?!」 「えーと・・・いつだったかな来月の終わりくらいだった気がするけど・・・」 「そういうことは早く言いなさいよ!予約しなきゃいけないんだから!えーとモバイルモバイル・・・」 「そ、そんなことしなくても私会社から適当に持ってくるよ・・・?」 「ダメよ!自分の力で勝ち取ってこその勝利よ!」 「そーゆーものなの?」 「そういうもんなの!」 そんなこんなで会社の内情を愚痴るのだけれど、それとは違うところに注目して、 ぎゅっと拳を握るカリーナは可愛いけれど目がマジである。 なにが彼女を駆り立てるのか分からないけれどなんとなくコレクター魂みたいなものだろうか、と 考えながら返事を返す。 何かに夢中になっているカリーナはかわいいから良しとする、なんて腕を組みながら頷けばカリーナは 怪訝な顔でこちらを見やるけれどそれには気がつかないふりをする。 目下今のところの問題点はその衣装さんとの打ち合わせで初期に送られてきたメールが 冒頭から50〜100着程の衣装を着て撮影などとぶっとんでいた内容だったということだろうか。 いや、むしろ3ケタで収まったことに安堵をおぼえるべきなんだろうか。 どっちにしても操作していたスマートフォンが滑り落ちてしまいそうな気持ちで、頭を抱える羽目になったんだけれど。 うん、メールの文面の裏に衣装さんの輝かんばかりの笑顔が見えたよね・・・・あれは・・・。 「えっ、それに加えて握手会とかやるの?!」 「えっ」 「CDに入っている抽選カードを3枚集めると握手会ご参加、・・・あとはレアカードでアリスキャットサイン入りが封入・・・・・えっ、てなによ。知らないの?」 「初耳なんですが・・・・というか商法がえげつないんだけど・・・」 「まぁ会社も必死ってことよね」 「ハイ、辛いところです・・・」 ☆ 「はい、つぎこれね・・・・うーんもう少しフリル足してもいいわね」 「・・・これ以上足すんです・・・?もー重くて一歩も踏み出せないんですけど・・・」 「ドレスコレクションだーかーらー!いいの」 目がキラキラ―っとした衣装さんに勝てるはずもなく、ただアンティークな椅子に座り、そのまわりを 衣装さんのアシスタントが囲む。あーでもないこーでもない、という衣装さんは普段の100倍は 張り切っている。それだけは分かる。 うぬぬ、これいつまで続くのか。というかなんだかんだいいながらバージョン変えての撮影ってことで、 猫の被りものじゃなくて目元だけを隠すマスクみたいなのになってるし・・なんとなく 仮面舞踏会的なものになってるんだけど・・・恥ずかしい・・・。 なんて自分でも動けないような感じになっている状態をどうにか脱出して休憩に入った。 恐ろしいのはこの時間の経過だ。朝イチで撮影所に入ったはずなのにもう時計を見ればもう午後の6時を回っている。 うううーなんて言って机にぐったりと顔をつけて手を伸ばし体をほぐしてみたりするものの、 限界も近い。おなかもすいた・・・はぁ・・・。 腕を前に伸ばして、顎だけ付けた状態で休憩していると目の前にビニール袋がとす、と音を立てて置かれた。 とてもいいにおいがする!マネージャーがさすがに、と思って買ってきてくれたのだろうか、 この芳醇な香り、食欲をそそるこの香り、これは、 「梅屋の牛丼!!!!!」 「よくわかりましたね、においで分かるんですか?」 「・・・・・・・・え?な、なんでここに・・・」 「僕も同じ撮影所で雑誌の取材と撮影がありまして、隣でさんも撮影してるって聞いて差し入れでも、と。お好きでしたよねUMEYAの牛丼」 いつもキラキラしているけれどこの時ばかりは本当に後光が差して見えた。 キラキラの金髪にまぁいつも通りの派手な(撮影用かもしれないけど)服装のバーナビーさんが そこには立っていた。 梅屋の牛丼だなんてバーナビーさんには到底似合わない代物をここまで持ってこさせたという 罪悪感もあるけれどそれをふっとばすくらいの衝撃だ。 梅屋で牛丼買うバーナビーさんなんてイメージぶっとばされる・・・。 「あの!すみません、それでありがとうございます!!!!バーナビーさんが梅屋に・・そうですか・・・」 「・・・なに想像してるか分からないですけど、これはここの撮影所のスタッフの方が買ってきてくれた物で あって、僕が買いに行ったわけじゃないですからね」 「そうですか!良かった!バーナビーさんのイメージが梅屋で固定されたらどうしようかって思ってたんです」 「はぁ・・・・」 「あ、でもバーナビーさん、私が梅屋の牛丼がすきだってよく知ってましたね」 「は?!そ、それはどうでもいいじゃないですか。たまたまですよ」 「ですよね、ありがとうございます!」 ふいっとそらした視線をメガネを戻すのと同じくこちらへ向けてじろりと見られる。 こ、これは睨まれているのだろうか・・・緑のきれいな色がこちらを射抜くのはとても 居心地が悪い。牛丼なんて持ってこさせやがってちきしょー、一番下っ端だろ!ということだろうか。 すみませんすみません下っ端なのに持ってこさせて!!! 「・・・またなんか違う方に考えてますね」 「・・・・」 バーナビーさんは長い足を組みつつ私の前のパイプ椅子に座った。 ここまでパイプ椅子が似合わない御仁もいるんかい、なんてすこしやさぐれもするけれどこれは人種の違い だ。仕方がない事だって世の中あるさ。 というかパイプ椅子に座らせること自体がもう申し訳なくなってきたんだけど。誰かふかふかのソファーを 用意してくださいと叫びたい気持ちだ。 「こんな調子で朝から缶詰で、おなかもすいちゃって・・・、本当に助かりました」 「構いませんよ、冷める前に食べてください」 「〜っ、ありがとうございます!いただきます!」 せっかく来ていただいたのに、私だけご飯を頂くわけにはと思って我慢していたけれど、 バーナビーさんから、気を遣ってくれたのかどうぞ、とお許しを頂いた。 がさごそと袋を漁ればお目当ての牛丼! 暖かさが手に伝わり、じーんと感動を覚えてしまうのも大げさではないだろう。 はぁあ、ステキである。お箸をもっていただきますといってから食べ始める。 口の中に広がるお肉のジューシーさとたまねぎの相性が抜群である。 「それにしても今日は・・・・いえ、大変そうですね」 「ん?あ、ああ。うちの衣装さんってこだわり強くてすごい今日張り切っちゃって・・・あはは」 「アリスー!そろそろ再開するわよー・・・ってあら、バーナビーじゃない」 「こんにちは、お邪魔してます」 「アリス、劇的に今の服装とその牛丼似合ってないわね、こぼさないでよ。それにバーナビー・・・・」 「な、なんですか、」 「はっ、いけませんバーナビーさん!早く逃げてぇええええ」 「えっ?!な、なんですか急に、」 「バーナビー貴方、参加しない?!このあとのスケジュールは?どう?少しの間だけでも!ああ、マネージャーを 通さないとダメかしら」 「ぐあああ、衣装さーん、ダメですよ!バーナビーさんもスケジュールぎっちぎっちですから、っ、ねっ!ねね!」 私が立ちあがり衣装さんの腰に抱きついて、阻止しようとするも良い素材を見つけた!とばかりにキランキランの 目を輝かせる衣装さんの勢いを止めることはできない。 ね?そうですよね!?とバーナビーさんを逃そうと後ろからアイコンタクトするとバーナビーさんは手首にはめた 時計を見やってから少しなら、と口にしてしまった。 な、なんてことだ・・・・。まったくアイコンタクト通じてない! 「ありがとうバーナビー!感謝するわっ、じゃあこっち来て!アリスはそこで牛丼食べてて」 「あ、あ。ああ〜ば、バーナビーさぁん・・・な、なぜ・・・・」 「少しなら時間に余裕がありますし、女性の頼みは断れないですから」 「いやそんなキラッキラのスマイルで言われてもですね、言っときますけど衣装さんすごいですよ」 「大丈夫です。僕には構わず牛丼でも食べていてください」 「は、はい・・・」 大丈夫かなぁ、とバーナビーさんを見やるも自信満々といった様子なので、いいのかなぁと衣装さんに半ば 引きずられるようにして連れて行かれるバーナビーさんを見送る。たぶん少しじゃおさまらなくなりそうだけど。 大丈夫かなぁと何度も何度も頭のなかでぐるぐるとしてしまう。 とんでもない格好させられないといいけど。 でもバーナビーさんわりとすんなりなんでも着こなせるから大丈夫かな。特に苦手なこともなさそうだし。 牛丼をこぼさないように完食してお茶までゆっくりと飲んだ後、バーナビーさんがタイミング良く 戻ってきた。 もしかして私の休息時間を伸ばすために引き受けてくれたのかな、なんて思ったりもしたけれど、まさかねと その考えを打ち消す。女性には優しくなバーナビーさんのことだから彼の言う通り衣装さんのお願いが 断れなかったのだろう。 「お疲れさまです、バーナビーさん・・・」 「ええ・・・・・お疲れ様です」 「大丈夫ですか?衣装さん大変でした?」 「まぁ・・そうですね・・・もみくちゃになりましたよ」 多少疲れは見えていたものの、着こなしはビシッと完璧である。 もみくちゃにされたとは言いつつ、笑顔を失わない所はさすがだなぁと思わずにはいられない。 格好も衣装さんのこだわりが所々に表れている素敵な衣装に身を包んでいる。 衣装さんの好みから言って王子路線でくるのかな、と思いきやどうやらコンセプトは騎士のようである。 「バーナビーさん本当にお似合いですね〜キラキラ〜でかっこいいですね」 「まぁ、そうですね」 「自信たっぷりなところもさすがです」 「やっぱりいいわねー、素材がいいとやりがいもあるわ!どーお、アリス?」 「やっぱりおねーさんの腕は確かだなって思いましたよ、ステキですもん」 「あら〜ありがとう!バーナビーもやったわね!」 「いえ、この方いつもこんな感じで僕のこと誉めるので」 「え?な、なにか私不味いこと言いました?」 「うふふ〜別に気にしないでアリス、こっちの話だから」 「・・・?はい・・・?」 ふぅ、と悩ましげなため息とともに金髪を手で払うそのしぐさだけで撮影所に入っていた女性のスタッフさんを 虜にするのは本当にすごい技だと思う。 語彙が少なくて申し訳ないけれど、輝いているのだなぁと思って自分との違いを顕著に表わされたようで ほんの少しだけ苦笑いしてしまう。 そう思っていれば衣装のおねーさんが私の背後に立ち、肩を持ってにっこりとバーナビーさんへ向かって笑顔をつくる。 「でもうちのアリスだって全然負けてないわよ、輝いてるでしょ」 「な、なんですか・・いいんですよフォローしてくださらなくても」 「そ、そんなことはないですよ、もちろん、さんも輝いていますよ。かわいら、」 「ほ、本当ですか!自分より美しい人に言われても正直実感沸かないんですけどありがとうございます」 「まっ・・まぁそうでしょうね、」 「ですよね!分かってますよ〜!なんか逆に気を遣わせてしまったみたいですみません」 「・・・・・い、いいんですよ・・・・」 「・・・・・落ち込んでなんていないんで大丈夫ですよ、バーナビーさん」 「そうですか・・・」 「・・・・・・あー、えーと・・・〜そろそろアリス戻ろうか?」 「はい!続きもよろしくお願いします!」 「バーナビーも気持ち落ち着いたら、あとで来てね〜」 「・・・・・・・・・はい」 衣装さんに手伝われながら重いドレスを引きずりながら撮影の場所へと向かう。 ちらりと振り返ればバーナビーさんはきゅっと拳を握って今にもそれを振りおろしそうになっていたのが 心配だったけれど、衣装さんはなにかを分かっているのか「大丈夫よ」とだけ言う。 この2人の間になにか芽生えて、分かりあえたのだろうか。 そのあとになにかをふっ切ったのか撮影所に入ってきたバーナビーさんを衣装さんはひっつかまえて、 私の撮影の相方を頼んだのだった。 「えーー!い、いいんですか?うわぁ、バーナビーさんが入ってくれたら私、影薄くなっちゃいますねぇ」 「え、ええ、彼女がどうしてもと言うので・・・」 「というかバーナビーさんのファンに殺されるんじゃ・・・大丈夫かな」 「いいえ、僕の方こそ、さんを独り占めできるなんて、アリスキャットのファンに殺されてしまいそうです」 「なっ・・・・・!」 ウインクを華麗に決めたバーナビーさんの言葉に思わず赤面してしまい、バーナビーさんに怪訝そう な表情を浮かべさせてしまったのはとんだ失態だったな、なんて思いながら撮影は続けられたのだった。 正義の星はいずこ ☆18 「はい、身体こっちね、目線はまっすぐ向いて!」 「はい!」 「ちがーう!そうじゃなくてね!こうよ!こう!!」 「・・・・これって厳しくないですか・・・」 「や、やっぱり普通の撮影こんな感じじゃないんですね」 「そ、そうですね・・・僕も初めてですね・・・衣装の方、体育会系なんですね」 「そうなんですよふわふわ系かと思いきやって感じですよね・・・」 「ちっがーーう!もっと甘く!甘いの!バーナビーいつもやってるやつよ!今こそ発揮してちょうだい!」 「は、はい!」 「いやぁ、すみません、私がお相手だと甘いのなんて無理ですよねぇ」 「(なんでさっき赤面したりするんだ・・・!調子狂うな・・・)」 (131016) |