「あっ!お〜つ〜か〜れ〜!!潔子ちゃーん!!」
、お待たせ」
「なんだまだ残ってたのか?」
「あ、澤村くんもお疲れ様」
「ん、もな」
「ううん、私はまだまだ元気だよ〜」



ひらひらひら〜っと大きく手を振ってこちらへ駆け寄ってくる姿を目の端でとらえる。
ジャージから制服に着替えて、泥もすべて落としたその姿は、最初の時から見掛けていた時のものだった。
やっぱりこうしているとイメージが全然違う。 不覚にも見てしまったものは、まぁ、まぁ酷いイメージ崩壊なものであったけれど、 それも恐ろしいものでだんだんと慣れてくるのであった。
慣れたくはないが、人間とはそういうふうに出来ているらしい。まったく恐ろしい。 僕はまたため息をひとつついた。 3年生に囲まれたまま帰宅するのだろう、と思って僕も帰る支度をする。


「なんかあの先輩っていつも体育館の前にいるよね」
「おれたまに野菜とか貰う。トマトとか。うまいよ!」
「へぇ、園芸部とかなのかな、あの人」
「らしー!おれも良くわかんないけど」


隣で日向と山口が話すのを聞いて、何かをもらったりするのは僕だけじゃないんだなとか思う。
僕がもらったのはきゅうりだけど。・・・・・・張り合うにもビミョー過ぎる。 そう思っていれば体育館に戻ってきた王様に先輩が話しかけていた。



「あっ、飛雄くん!これあげる〜!」
「・・・あ、あざっす・・・」
「またお前は変なもんばっかり後輩にあげて・・・・」
「変じゃないよ、美味しいよ、いちごみるく豆乳」
「それ牛乳なのか豆乳なのか分からない・・・」
「潔子ちゃん飲む?おいしいよ!常備してるの」
「はいはい、馬鹿言ってないで帰るぞ。鍵閉める」
「えええ、澤村くん・・・いちごみるく豆乳あげるから〜」
「いらない」
「なんてツレナイ言葉・・・」
、行こ」
「はいは〜い」



そのまま清水先輩に首ねっこ掴まれて体育館を後にする姿はさながら、猫のようだった。
3年生の中に入ればこんな扱いなのか、とぼんやり思いながら、王様の手元のいちごみるく豆乳を見ていた。



「いーないーな!センパイに何もらったんだ!?影山うらやましー!!」
「ハァ?!だっ、やらねえぞ」
「えー!少しだけくれよー!ケチッ、影山のケチッ」
「てゆか何もらったの?野菜ジュースとか?」
「・・・っ、・・いちごみるく豆乳・・・・!」
「・・・それ自販の中で一番売れ残ってるやつじゃない・・・?」
「マジ?!マジか影山!!!レア〜!良かったな、センパイにもらえて!!」
「王様はいつも違うの飲んでるんデショ。日向にあげてもいーんじゃない」
「そーだそーだツッキーの言うとおりー!」
「ビミョーだけどレアってすげー!影山いいなー!」

・・・・別に羨ましくはない。・・・本当に。









坂ノ下商店まで一緒に帰る流れで、烏野排球部はわいわいと盛り上がっている。
私と田中くんと西谷くんが並ぶと話題は大抵潔子ちゃんのことになる。わりとFC会員だからね。 清水潔子ファンクラブですからね。 この2人といるとついつい潔子ちゃんに関する事で同意が多くなってしまい、 頷くのを止められなくなってしまうのだ。
いつだったか菅原くんに「ほんと清水の事好きだなー」ってしみじみと言われてしまったけれど 「うん!!!」としか答えられないのだった。どこが、とか上げ続けるとキリがないし、細かいしで、 菅原くんをドン引かせてしまったけれど、とにかく好きなのだ。理由などない!好きなのだ!キリッ!
大音量で音楽を聞くと注意してくるけど。グロい小説読んでると眉をしかめられるけど。アッ、これは澤村くんにも言えるけど。



「うんうん、分かるよ」
「ですよね!!!潔子さんの美しさったら」
「だよね〜!隣にいるとほんと神々しいっていうの?眩しいの」
「分かります!近づくのもおこがましい・・・!」
「たまに笑顔見せてくれるとことか超かわいいの〜!!」
「エッ、めっちゃ羨ましいさん・・・!」
「いやでも至近距離で見たら心臓が持たないかもしれないッ!」
「そうそう、西谷くんも田中くんも話し分っかる〜!」
「なに盛り上がってるの」
「「き、潔子さん・・・!」」
「潔子ちゃんのこと誉めてた!ね、ふたりとも!」

「・・・・・・」
「無視でもシビレるっス、潔子さん・・・!」
「堪らね〜〜〜っ!」

「アイス半分こしよ、
「わーい!だから潔子ちゃんってすきー!」




半分こにするアイスを手に持ちながら近づいてきた潔子ちゃんに隠しようのない満面の笑みを浮かべつつ駆け寄る。潔子ちゃんもわずかながら微笑を浮かべていてまさに女神!! そして後ろで緩んだ顔面をさらしている2年生ズがいる。こうなってしまうのも仕方がない、分かるよ・・うんうん、分かるよ・・・至っていつも通りの光景である。

続いて坂ノ下商店から出てきた澤村くんと菅原くんと東峰くんはそれをみてほほえましく見守っている。
清水が笑う所なんてほとんどないからなぁ〜なんて事を考えているに違いない。 確かに潔子ちゃんはそんなに笑わないけれど感情が乏しいということではない。ちゃんと嬉しい時にはそういう感情をちゃんと見せてくれる。 それが嬉しくて嬉しくて、ついつい私も笑顔になってしまうのだ。
いかんこのままだとずーっと潔子ちゃんの自慢話になってしまう。 ぱきんと、割ってくれたアイスを口に運びちゅーと吸えば、冷たさと甘さがが口の中いっぱいに広がる。 野菜もお花もデスメタもホラー小説も大好きだけど、この瞬間、仲間と共有する何かがあって、青春だなぁ、 なんて感じてしまって、私は吹きぬける風と共に自宅への帰路に着くのだった。






爽快青春カカオ

「・・・・・・・・・・」
「あっ、ツッキーなに飲むの?俺も買おうかな〜アッ、いちごみるく豆乳気になるよね」
「うるさい山口」
「ごめん、ツッキー!でもほんとこれレアだよ、あんまりに微妙な味だからたまにしか入れてないって・・・」
「へー、そうなんだ・・・」
「あーっ!いちごみるく豆乳入ってる!レア!レアだー!!」
「はぁ・・・1番煩くて小さい奴がきた」
「小さいってなんだよ!?今から伸びるんだよ!!!」
「あははーじゃあいちごみるく豆乳より、このぐんぐん牛乳がいいんじゃない」
「それはいつも買ってる!!!」
「あっ、そー」