「あ!いた!」
「あ、ごめん。呼び出したりして」
「ううん、それはいいけど・・・どうかした?」



お決まりの中庭に呼び出されたのは、まぁ、お決まりの事が待っているということを意識せざるを得ない。
・・・ってなんてね、そんなの あるわけない。マンガじゃあるまいし、好きな人が好きって言ってくれるなんて。 そんなはずもないなと思いながら来てみたのだけれど。
そう思いながらもドキドキと高鳴る胸はちっともおさまりそうにはなく、私は努めてなんでもない顔で彼の 元へと駆け寄った。どうしたの?と聞いてみれば、先に待っていた彼は、 右、左、下、右、と視線を動かして、少し視線を外しながら口を開いた。


「あの・・・・っ、・・・好き、なんだけど・・・」
「えっ、な、・・・なにが?」
さんが」
「・・・・・・」



→え?
→ええ?
→えええ?!
まず脳内に浮かんだのはこの選択肢で、はて、どうしてこうなった? と夏にはまだまだ早いというのに、この照りつける日光を恨めしく思った。ある程度予測していたとは いったけれど、まさか。
この人が私を呼び出す理由が分からなかったので、一瞬息が止まるかと思うくらいびっくりした。
というのも、何故こんな事をしてきたかが、まるでわからないからである。
この想いは自分だけの ものだと思っていたのに、なんで、どうして、どこにそんな要素があったんだろうか、私にも、彼にも。

常々人の機微には疎いところがあるとは思ってはいたものの、まさかそうくるとは、 という感情がぐるぐると頭を回る。
もしや、知っていてからかわれているのか、と思い彼を見れば、 真っ赤な頬がそれはそれは目に焼き付いて離れない。 しかし上からの視線は熱っぽく真剣見に溢れている。
目線を合わすとかぁ、と頬がさらに赤くなるのを見て、これは、と思案してみるものの、 適切な回答は出来そうにもない。張り付いた喉からは声が出てこない。

何を言えば☆が上がるのか、選択肢は難しくていつだってそれが正解なのか分からないけど、 しかしイタズラで済ますにはあまりにも真摯に絞り出すような声色であったから、 私はある事を発見するまでは、うっかり信じてしまいそうになってしまった。
・・・・なんだ罰ゲームとかか・・・、 なんだぁ・・・意外に演技派なんだな、なんて思ってしまったほどだ。だよね、あり得ないよね、なんて 少し心がしゅんとするのを感じながら、問いかける。



「えーと・・・山口くん。なんか、罰ゲームなのかな?」
「こんなこといきなり言われても困るよね、っ、あのごめん、俺・・・!」
「ううん、そうじゃなくて、」
「えっ!?」
「やー、あの・・・後ろに。みんなが」



そっと彼の後ろを指せば、マンガのように頭がササッとひっこめられる。
ひっこめたところでモロばれなのだけれど、彼らからしたらバレてないという事なんだろうな、 と思い自嘲的な笑みがこぼれる。仲が良い事は良いことである。 しかしこんな罰ゲーム考えるのは少し意地悪が過ぎるのではないかな、なんて思ってしまう。 ・・・特にその告白を嬉しいと感じてしまう人にとっては。
自分の前にいる人はサーッと顔色を変化させて、後ろを勢いよく振り返り声を張った。


「ちょっと!なにやってんの、みんな!」
「あ〜・・・・うん、あの山口くん、」
「あっ、ごめんね、さん!あの、そういうつもりじゃなかったんだけど・・・!」



焦ったように山口くんは私にそう言ってから、ずんずんと今、 頭がぴょこっとのぞかせたところまで歩いていく。 みんな、というだけあって、ササッとひっこめられた頭の数はとりあえず3つだ。
バレー部のメンツがなんだかんだ仲が良いのが分かって少し嬉しいけど、 なぜ悪戯の矛先が私に向けられてしまったのかは不明である。
声を掛けてみれば3人が壁から出てきた。 左から仁花ちゃんに日向くんに影山くんである。 気まずそうに出てきてはいるものの、そわそわ具合が隠し切れていない。野次馬根性だろうか。
そして中庭に今来ましたよみたいな感じですまして登場する人が1人。ツッキーくんである。
意外だけれど、なんだかんだ山口くんを放っておけないところがあるし、見に来たというところか。 こんな悪戯を仕組む時点で皆、わりと酷いけど。公開処刑とはこういうことか。もうむしろ処刑 されてしまいたいくらい恥ずかしい。期待した自分も喜んだ自分も体温が上がった自分も、全て全て消えてしまいたいんだけど!



「・・・蚊にやられた・・こんな所で告白なんてしようとするから・・・」
「別に来なきゃいいだろーが!なんでお前まで来てるんだよ!!」
「ハァ?別に僕がどこにいて何してよ―が王様には関係ないんですケド〜」
「はぁ?こっちの台詞だボケ!お前だって気になったんだろーが!」
「なにが気になるって?王様の思考回路って意味わかんないよね」

「ちょ、言い争うのは止めろよ!!山口の視線が珍しく痛い!」
「もとはと言えば日向、お前のせいだろ、チョロチョロするから」
「確かにそれは言える。いつも素早い癖に見つかるとか笑える」
「お前らなんでそういう時だけ息ピッタリなんだよ!」
「ひええ、あの喧嘩やめましょうよ!?ねっ!ねっ!!」




あの、とかその、とか言葉は断片的にしか出てこず、喉まで出かかった言葉は発せられることなく消えていく。 消えたいくらいさらに恥ずかしくなってきて、いつまでもぎゃんぎゃん言うこの4人を見守ることに徹してしまうのは なぜだろうか。
あっ、山口くんがぶるぶると震えている。いつも笑顔な山口くんにしては珍しい、 怒る事なんて大体が影山くんにツッキーくんの悪口言われた時くらいだしなぁ〜。
や、ほんと相当山口くんはツッキーの事が好きだ。これまで何回その現場を見てきたことだろうか・・・。 罰ゲームとはいえ、私の事を好きと言ったけれど、その100倍はツッキーくんの事が好きだろうな、山口くんは。

ぼさっと突っ立っていれば、ツッキーくんがすたすたとこちらへ歩いてきた。早々にあの激戦区から 抜け出してきたらしい。要領が良い人だ。
ヘッドフォンは肩にのっけたままで、近くにくると余計に大きい。日差しが全て彼に注ぎ込んでいるようで、 壁のようだ。日陰が出来るのは嬉しいけど、じっと傍で私のつむじに視線がじぃ〜っと向いているのを見ると 無駄に緊張してしまう。何よりフレームの奥の涼しげな瞳が私の気持ちまで抜き取られるように分かって しまうのでは、なんて不安に駆られてしまう。

先ほどの衝撃と相まって、熱が冷めることはなさそうだ。パタパタと気休め程度に火照って しまった顔を冷ますために手を動かす。罰ゲームの告白で、私があたふたするのが見たかったんだろうか。悪趣味すぎるよ。
ええ、まぁあたふたしましたよ!したよ!めっちゃしたよ!!!!!!!!悪いか―!くそぉお!と叫んで 中庭から、ここから立ち去りたい気持ちなのを必死で止めて、スカートをぎゅっと握る。
皺になってしまいそうだったけれど、そうでもしていないと堪え切れないほどの悔しさというか、惨めさというか そういうものを抑えられなかったからだ。



「あのさぁ・・・、」
「えっ、ハイ!」
「・・・・・・」
「えっ、なに、ちょ、ツッキーくん?」




ポンと肩を叩かれて、そのまま中庭を後にするツッキーくんを呆然と見送ることしかできなかった。 意味がわからない。
けれど、言葉にしないまでもツッキーくんの僅かな励まし、(なのかは分からないが勝手にエールと思う事に する)に一か八かやってみようかと思ってしまう。言わないまでもツッキーくんには私の 想いなんてお見通しっぽかった。山口くんとあんなに一緒にいるんだし、私の視線にも気が付くのも まぁ・・・気が付くよね。ふぅ。
すぅっと大きな深呼吸をひとつ、ふたつ。スカートから手を離して、握りこぶしを作る。やる、やってやる、 結局どのみち踏み出さなければいけないのだし、ここで玉砕するなり、なんなりしてしまおう。


向こうで言い争っている中に飛び込んで行った山口くんの背中めがけて私は声を、想いを投げつける。
たとえ公開処刑であったとしても、罰ゲームだとしても、確かに山口くんからの言葉を聞いてこの気持ちは さらに膨れてしまったのだから、さぁ、飛び出せ、この心の想いよ、






わたしも好きだよ、

「「「「えっ・・・・・」」」」
「あっ、違うよ、山口くんが好き!」
「お、俺!?」
「罰ゲームかもしれないけど!私・・・・っ」
「お、おれも「えっええええええええええええ山口やったじゃ、おいなにすんだよ影山ッ」
「おい日向ボケェ!!行くぞ、」
「お邪魔しましたァアア〜!ほんとごめんねちゃん!」

「えっ、え??どゆこと皆で私を笑いに来たんじゃ・・・」
「違う!お、俺が告白しようと思って相談したら皆に広まって・・・多分陰で見守ろうと思ったみたい・・・」
「な、なんだぁ〜よかった!」
「あの勘違いさせちゃったからもう1回言うけど、」
「返事聞きたくないよ!!」
「えっ、なんでそうなるの!?俺もさんが好きだよ!」
「えっ?!え、ええ?!ほ、本気・・・!?」
「本気だよ、もちろん!」