「今、この世の中を騒がせている平成のルパンこと、怪盗キッドがまたもや現れました〜」


テレビからそんな夜のニュースが流れ出す。なんて世の中だ。怪盗?そんなものはとっくの昔に 絶滅した輩ではないのだろうか。そんなことを考えてソファーにふんぞり返ってコーヒーを飲む。 いや、待て待て。今のこのニュースで私が今どんな状況に置かれたのかはっきりしたんじゃないの? 自分の頭のなかではじきだされた答えをもう一度吟味してみる。私はコーヒーをテーブルにガツンと 置いて、立ち上がった。ここは・・・、コナンの世界だ。
いや、そんなまさか!というタイミングは 当に逃していたので、もう今更言う事もあるまい。


ここの世界に来たのは数週間前。家から帰ってきて、疲れのせいかなにもしないでベットにダイブに したら、なんと身体が縮んでしまっていた!・・・とはならなかったが、知らない場所にいた。
でもベットは同じ物で、部屋だけ変わっていた。つまり私はかなり間抜けなことに、寝ている間に この世界にベットと共に飛ばされたと言うわけである。ははっ、間抜けすぎてため息しか出てこない。 ・・・はぁ。なんでこんなことに、これは私がここの世界に来てから何百回も呟いた言葉である。 ちなみに独り言。寂しいことこの上ない。


始めはおそるおそる行動していた私であったが、普通の町である。スーパーもあり、コンビニもあり、 なんでもある便利な世の中。つまり私が前に暮らしていた町といたってなんの変わりもない町で あった。
かといってここがなんなのかまったくさっぱりもって検討もつかなかった私は、 ニートのような生活をしていた。朝起きて、ご飯食べて、本でも読んで、そのうち暗くなって、 寝て、といった感じだ。
しかしあえて言おう、ニートになりたくてニートになったわけ ではないと。お金は何故か困ることはなかった。だって勝手に財布の中にたまっていくのである。 なんの心配もない。これが前の私の生活の中で存在していれば、と願ったが、それは無理な 話である。つーか、私が帰れるのか、それが一番の問題である。うむ。


そんな中での朗報である。なんとこの町には怪盗キッドが参上したらしいではないか!
まぁ、自分でも気分を盛り上げようと思って言ってみたが特に世界が分かったからと言って、 帰る方法が分かったわけでもない。特に進展はしてない。残念ながら。
それともなにか、まさか私VS黒の組織とかやるんじゃないだろーな。勘弁してくれよ、私は一般人で、 こういう話にありがちな強い女性といったものじゃない。蘭ちゃんみたいに空手が強いわけでなし、 コナンくんのように頭が良いわけでなし、博士みたいに発明品を作るでなし、ましてや 怪盗キッドのように盗みが得意というわけでもない、何も出来ない本当にただの一般人 である。そこのところを理解しておいてもらいたい。平々凡々と生きてきた人間にそんな凄い 設定求められても・・・ねぇ?こんなことになると分かっていたら、逃げ足が速い、とかそういう 特技でも作っておくんだった。


そこまであれこれ考えていたら、突然ピンポーンっとドアホンが鳴った。そっと覗いてみると 女の人だった。私に女の人の知り合いなんてこっちの世界ではいない。
つーか知り合いなんて誰もいない。・・・現実ではいるけどね!ここはちゃんと言っておくけどね! 不思議に思っていると、もう一度急くように鳴った。 そのドアホンの響きには何故か開けてくれ、といった切実な願いが込められているように思えた。
・・・まぁ、訪問販売くらいだったら話ぐらいしてやるか。どうせ暇だし、構ってやっても良い ように思えた。この時間帯にくる訪問販売も可笑しい気がするけど、ここは私のいた世界じゃない、 ちょっとくらい無茶しても大丈夫な気がした。
カチャリ、と錠をはずすと向こうの女の人はガッとドアを開けた。おいおい、礼儀くらいわきまえても よさそうなものなのに。こんなに強引じゃ何も買ってくれないよ。新聞もおたくのやつは取りません!


私が呆れ果てていると、その人は何故かドアを閉め、鍵も掛け、私の方に勢いよく振り向いた。 そしてしーっと言う様に人差し指を口の前に持っていき、それから靴を脱いで部屋に上がった。
何が、しーっなのだろうか、まったくよくわからない。人の部屋に無断で入ってしーっはないだろ。 仮にも部屋の主だろ、私。え、そうだよね?
押し売りではないようなものの、まったくわけのわからない奴らが この世界でも増えているのだろうか。疑問符が飛び交うばかりである。


疑問が頂点に達し、女の人に説明を求めようとした時、またもやピンポーンっとドアホンが鳴った。
覗いてみると警察みたいである。待て待て、ニートまがいなことはしてきたけど、犯罪には 何も手を染めていないはずだ。その時、ふとニュースのアナウンサーの声が耳に飛び込んできた。


「現在怪盗キッドは市街地を逃走中。ただいま中継が繋がっております」

見れば、その市街地は自分の近所。・・・・なるほど、どうやっても私をこの物語に組み込むつもりか。 だから一般人だって言ってるのに、本当にどうしようもない世界だ。
ふぅ、とため息をひとつ吐けば、何を思ったか、立ち尽くしたままの女の人は窓の方に寄った。 逃げるつもりなら、何故我が家に来る。2度目のため息をついて、私は玄関に向かった。まずは一人目。


「こんばんは、すみません忙しい時間に」
「いえいえ、大丈夫ですよ。それより何かあったんですか?」
「いえね、今怪盗キッドがこの周辺に潜伏してるようで」
「そうなんですか?怖いですねー」
「ええ、それでこうやって聞いてるわけなんですが・・・」
「見てのとおり、私は大丈夫ですよ。それよりこんな寒い中ご苦労様です」
「あ、いいえ!皆さんの安全を守るのが私の役目ですから!」
「まぁ、そうですか。そう言って頂けると心強いですね!それでは頑張ってください」





パタン、とドアを閉める。駄目だ・・・人を相手にすると無意識に出てくる営業スマイル、 営業トーク。1人になった時に余計に疲れるから、嫌なんだけどまぁ、言う事を大体の人は聞いてくれる から便利といえば便利だね、うん。
んで、2人目を相手にしなければいけない。部屋に戻る時にずきずきと頭が痛み出した。はぁ。 よーし、関わらないぞ。つーか関わろうとしたら警察呼ぶ。絶対呼ぶ。
私が怪盗と関わった所で、元の世界に戻れる可能性は0に近い。楽しそうではあるんだけど、 もう冒険を楽しむのは嫌だ。元の世界でエンジョイライフしたい、こんなところでうさんくさい怪盗と 関わった所でなんだっていうんだ。恨むぞ、神様。





「えっと・・・こんばんは、怪盗さん?」
「・・・・!」







いいからそれで要件は?




まったくかかわってないですが、とりあえずあげてみます。(090719)