「あの、」
「・・・・・・」
「・・・・・?」
「・・・・・夜分遅く申し訳ありません。麗しい貴方の貴重なお時間をつぶしてしまうとは」
「了解です、ではお仕事お疲れ様。私は寝る」
「え、ちょっ」




あっけらかんと彼を眼中に入れない態度にびっくりしたのか、化けの皮が剥がれたと言えば分かりやすいのか彼の 口元が若干引き攣ったような気もしたけれど、彼の仕事モードに付き合うというそういう気分ではまったくない。
疲れているとは言い難いけれど、いざ話の中に組み込まれてしまうと面倒なことこの上ない。 ただでさえ、さっき営業スマイル&トークを繰り広げてしまった所だ。
その上このやけに丁寧で気障な台詞を聞かされると思うとぐったりしてしまう。




とにかく私は探偵でも警察でも ない平凡な人間なのだから、これ以上関わりたくないというのが大部分を占める。捕まえる義理もないし。 そもそもなぜ私はここにいて、この部屋にいて、そしてなぜ彼がやってきたのかも分からないけれど、とりあえず 面倒くさい事にならないうちに、彼にはご退場願いたいものだ。
ちゃっ、とふざけたように軽く敬礼のポーズをして、寝室へのドアを開けて去ろうとすれば、とまどった気障でも何でもない声が 思わず、といったように彼から洩れた。


寝室へのドアノブを掴んだまま振り返りもせずにばんっ!と彼を締め出せば(というか私がこの部屋の主なのだから、 閉めだすって表現はおかしい)静寂がまた部屋を覆う。
ふぅ、と息をついて、ベットに潜り込めば、その数秒後にばんっ!とさっきと同様大きな音を出して、 ドアは開かれた。




「ちょ、あまりに無防備すぎませんか?私の事を不審だとか、通報するとか!」
「・・・・・・・うん・・・今現在不審、というか迷惑。眠いの」
「・・・・・・・・・・だから、・・・すみません、夜分遅くに」
「それさっき聞きましたし。もういいでしょ、出て行ってください」




ベットから身を起こさずにそう言えば、怪盗はひるんだのか、すみません、とまたもう1回小さく謝ってドアを静かに 閉めた。
私はといえば、この世界の住人でもなんでもないのだから、どうなってもいいやーという心持だったのだけれど、 それが彼の目には不審に見えてしまったのだろう。まぁ・・・普通に考えたら無理もないよね。
普通に住居侵入してきてるし、どうみても格好は不審者だし、通報しない方がおかしい。うん。
いやでもまぁ、彼がどういう人間かと言う事はおおまかにだけれど知っているし、危害を加えてくるような 人間でも(私が犯罪者だったら別だけれど、私は清く平凡な一般市民である)ないので、放っておいた訳でしたけれど。
一気に巻き込まれて、一気に色んな事が起こってとっても眠い。
私はつらつらとそんな事を考えながら深い眠りに落ちていった。









すっきりとした目覚めとは到底言えないけれど、ぐだぐだとしながらも一応朝と呼べる時間帯に起き出す私は寝室の ドアを開けてリビングへ行こうとする。
ドアをいつものように開けて、いつもと変わらない風景が広がっていると思ったのだ、が・・・・・・。



「やられた・・・・はぁぁ、どうしよこれ」



目の前のいつも朝ごはんを食べるテーブルは真っ赤なバラで埋め尽くされていた。
これは・・・いやがらせなのか?と疑ってしまっても仕方がないくらいの大量のバラがそこにはあった。 なんなのだ、いやがらせでも、それとも感謝でもこんな極端な事するのか、怪盗ってやつは。
目をこすってみてもこの現実は変わらない、最近こんなことばっかりだな、なんてまだ起き抜けの頭はそう考える。 とりあえずは朝ごはんだ、とばかりにテレビのチャンネルを探してテレビを付ける。
バラを端へ避けて自分の朝ごはんスペースを作る。2、3束床に落ちたけれど、拾うのも考えるのもめんどくさいし、後回しに しよう、と思いながら。コーンフレークに牛乳を入れて口へと運ぶ。
バラに埋もれながらも何か白いものを見つけてコンフレークを食べながら引っ張り出して見れば1枚のカードが。
そこに書いてある文字を読みとる為に目を滑らすけれど、思わずコンフレークを噴き出しかけた。危ない危ない。



『今宵、貴女の心頂きに参上いたします。怪盗キッド』



「やば、キザ過ぎて鳥肌・・・本当にこんな文面使う奴いるのね・・・・はぁ・・・」




1回はその文面を頭に取り込んだものの、しばしの間が空いてしまった。
なにがどうなって彼の興味を引いたのかまったくわかる訳もないけれど、私のニートに近いようなこの生活は 一夜にして波乱万丈の幕開けになってしまったのだと思ってしまうくらいには衝撃だった。
KIDって確か高校生じゃなかったか?ここまで行くともはやストー・・・・・うん、彼の名誉の為にもここまで 名言する事は良しとしておくこととしよう。
世間一般で言えばニートな私と怪盗高校生がどう転ぶ訳もないけれど。今夜の事を思うととても気が重いのは確か。 探偵に相談するしかないのかしら〜なんて現実逃避も考えたくなってしまうのも無理はないのだ。
・・・・・・・とりあえず言いたい事は、朝から疲れた。はぁあ。












要件なんて聞きたくない!