新しく入るエクソシストの女の子、と聞いて胸が躍ったことはまぁ認める。 日々殺伐としたこの環境に華が添えられることはまったくもって賛成であるからだ。 辛く厳しいこの黒の教団だけれど、連れてこられてしまえばもう馴染むしか道はない。 真っ黒の髪に真っ黒な目の平凡で地味な特に特筆すべき事もないその子は教団の大多数の人間に埋もれて しまうのかと思われたのだが、そうではなかったらしい。 ・・・・ある意味目立っていた。いろんな意味で。悪い意味で。 「はぁ〜〜」 「どうしたの、ラビ」 「や、あの子ほんと喋らないなぁと」 「喋らない、んじゃなくて喋れないのよ」 リナリーがファイルを胸の前できゅっと持ちながらそう言う。かたくなにそう信じてるような口調で 言うけれど、オレからすれば、それもどうだかな、なんて思う。 喋らない、という意志ではなくて、喋れない。 ここにきてからずいぶん経ったようにも思えるけれど依然としてあの子は人とのかかわりを持とうとは せずひきこもってばかりらしい。 ことさら女の子同士ということもあって興味津々なリナリーのお誘いにも断りまくっているという彼女は一体。 見た目は押しにも弱そうで平凡な自分の意見も言えないようなそんな雰囲気なのだけれど、言葉が通じない 割に、彼女はどこか強情な面を持っているような気さえしてくる。 彼女には俺たちに伝えきれていない感情を持ち過ぎているように思う。 まぁ言葉も通じていない現在では、彼女の 心情を推しはかることすらできないのだけれど。 「うーん、ちゃんねぇ・・・」 「ぶっちゃけ名前しかわからないって異常さ〜」 「イノセンス反応があって迎えにいったのは僕なんだけどね、その時からなーんにも喋らないの」 「へー」 「唯一分かったのは名前だけ。どこにいたのかもどこからきたのかも全然さっぱり」 「・・・」 「ただシンクロ率はまぁまぁ良いみたいだね。武器も最近は安定して使えるようになってきたみたいだし。神田 くんもいろいろ面倒みてあげてるんでしょ〜いやぁ、人はみかけによらないよねぇ」 「ユウもかなり邪険には扱ってるけどね〜、他の人との絡みに比べたら優しいほうさぁ。でもコムイ、」 「・・・・そうだね、あの”死にたがり”だけは止めさせたいんだけどねぇ。ラビくん、なんか良い手はないかなぁ〜」 「俺から見ても自分の命の執着があそこまで薄い奴って見たことないさ〜ここでは特に」 「・・・だろうねぇ・・」 コムイに聞いてもこのありさま、ということは本当に詳細がつかめない人間ということになる。 加えてあの執着の薄さ。なんなんだろうか。 任務には最近出るようになったとは聞くが、戦闘の態度はそれは酷いものだと ファインダーたちが噂をしているのを聞いたことがある。聞けばまったくもって防御をせずアクマたちを 切り裂いていき、返り血と自分の血で真っ赤に染まるらしい。悪魔の血は毒であるから、消耗も激しいと 手当をする婦長からもため息交じりにそう言われてしまった。 謎は深まるばかりである。む、と考え込んでいればコムイがポンっと手を叩く。 なんだ、と思い顔を上げれば、それを待ってましたとばかりにコムイは口を開いた。 「そんなに気になるならラビくん。君とちゃんに任務、まかせようか。」 -----------------: 「はいはい、今度の任務は2人で行ってもらうね。ちょっと時間推してるから 列車の中で資料読んで!あと詳しいことはファインダーに聞いてね。そんなに強いアクマではないと 思うから2人なら大丈夫だと思うけど」 「ずいぶんと急な任務なん?・・・あ。よろしくさぁ〜」 呼び出しはいつだって急に、だ。 いつものことである。それがあるまでは自室待機という形である。が、現状人が足りていないのかほとんどの エクソシストは外に飛びまわっていることが多い。 ガチャリ、と重く大きな扉を開けばコムイさんがくるりとこちらを向いてそう話しかけてきた。 いつもよりさらに早口すぎて何も聞き取れない。 コムイさんの机の前に立っているのはいつぞやの橙色の髪を持つ彼だ。 この人の髪の色を見るたびに、あの絶望した瞬間をふと沸き起こさせるから苦手だ。内心そんなことを考えて ぼけっと突っ立ったままコムイさんがなにかを喋っているのを見ている。 ぶっちゃけ何を喋っているのかは全く分からないので、この橙色の、ええとラビさんと言ったか、その方に 全て任せる。私にできるのは英語聞き取りではなく、情けなくも戦うことだけであるので。 隣に立つ彼がふむふむ、とか頷いているのを見ると、まぁ、そんなに難しくもない戦いなのだろうな、 と漠然と思う。 悪い心がダメなんて誰が決めたんだ。 死にたくない、生きたいと願うことが良い心だなんてちっとも思わない。 こんな私を生かそうとするこの 世界は残酷で、どう考えたって生きたいと思うことなんてなかったから。 この世界は、私じゃないなにか別のものにこの心臓の力が宿っていたのなら、絶対にそちらを取るに決まっている。 むしろそうであってほしかった。守るものなどなにもないこの私に、神の力と言われるものを与えられたとしても、 戦いたくもなく、また生きたくもない奴がもっていてもどうしようもないのだから。 ぐだぐだと戦い、生きることを諦めている私をここの人間がなんて呼んでいるかなんてもうとっくに分かっている。 ”死にたがりのエクソシスト” ・・・・・・・・・黙れ。死ぬことは私にとってすべてのしがらみから抜き取ってくれる行為だと。 戦うことに関しては麻痺していく自分が怖くもある。最後にはなにも感じなくなってしまうんじゃないかって そう思ったから。 考えなくても身体が動いてしまうのは本当に参る。 やっかいなアクマということもなくてスムーズに頭と胴を切り離す作業を永遠とする。 刀を振れば一瞬でアクマは死んでしまうし、手ごたえもなにもあったもんじゃない。つまんないな、 これでは私はいつ死ねるんだろ、なんて考えていた時だった。 ファインダーが襲われているのが視界の隅に入った。ラビさんは・・・・ずいぶん遠くまでいってしまっている。 好機である。 なんて私は思った。すばやく彼とアクマの間に入る。刀を交えてみて分かった。このアクマだけ 別格っぽいな、と。弱いものから始末するという頭も働いているのだろうか、私が気がつかなかったらこの ファインダーは死んでいたのだろうけど。 頭はまるで動かないのに腕は動く。不思議なことである。 そこまで考えて、しかしこのレベルのアクマなら私を殺せないなぁ、なんてぼんやりと考えた時だ。 であったのに。 震える声で後ろからエクソシストさまなどと呼ばれたため、私の意識はぱっと浮上した。 ・・・・エクソシスト? エクソシスト、エクソシストエクソシストエクソシストエクソシストエクソシスト エクソシストエクソシストエクソシスト エクソシストエクソシストエクソシストエクソシストエクソシスト エクソシストエクソシストエクソシストエクソシストエクソシスト エクソシストエクソシストエクソシストエクソシストエクソシスト エクソシストエクソシストエクソシスト エクソシストエクソシストエクソシストエクソシストエクソシスト エクソシストエクソシストエクソシストエクソシストエクソシスト エクソシストエクソシストエクソシストエクソシストエクソシスト エクソシストエクソシストエクソシスト エクソシストエクソシストエクソシストエクソシストエクソシスト エクソシストエクソシストエクソシストエクソシストエクソシスト エクソシストエクソシストエクソシストエクソシスト エクソシスト エクソシストエクソシストエクソシストエクソシストエクソシストすくってくださいこの世界を! 「はぁ・・・・?救うわけないでしょう」 その言葉を皮切りに、冷水がさぁああっと私の頭を流れるように急速に冷えていくのを感じた。 何故、私が?なんて掴んでいた刀をゆるく持つ。バカではないアクマはその瞬間を好機と取り、 私は勢いよくふっとばされて、アクマにめった刺しにされた。私にとっても好機である。 さすがにこれは力を持っていようともう無理じゃないか、うふふ、なんて少し笑みを浮かべても見せる。 エクソシストは2人、ファインダーが1人の少数人数で臨んだ任務は失敗に終わるのだろうな、エクソシスト 、つまり2人のうちの1人である私は瀕死の状態であるのだし。 やれエクソシスト様、やれエクソシストだから、なぜ、なぜ私が救わねばならないのかと問いかけても それは応えられることはない。 至るところで聞かれるエクソシスト様という呼称が私にとっては酷く煩わしく重たく思えた。 誰でもいい誰かになすりつけているだけのそんな世界は私にとってはいらない。 早く返して、還して、帰して、私の、ほんとうの世界に。 ファインダーの恐怖に染まった顔を見ながら、私はさらにアクマの攻撃を受け続けている。 こいつ本当に気持ち悪い、もう私が戦える身体ではないのを分かって、さらにその鋭利な切っ先を私の 身体に突き刺してくるのだから。 ファインダーが狙われていたらもう一瞬で死んでいただろうな、エクソシストだからこそのこの生命力 なんだろうか。私が刺されるたびに後ろに見えるファインダーの表情がさらに恐怖の色に染まる。 そんなところで腰を抜かしているくらいならば、早くラビさんでも呼びに行けばいいのに。 それは生きたいと願うエクソシストの場合、だけれど。 私の場合は当てはまらない。呼ばなくていいし、ちょうどこちらも死にたいと願っていたところだ。 あの集団は私を生かそうとするけれど、私は絶対に思い通りになんてならない。なってやるものか。 「劫火灰燼 火判ッッッ!!!!!」 「・・・・!え、エクソシスト様・・・!」 一瞬暖かくなる。その温度に私はついに温度感覚まで壊れてしまったんだろうか、なんて考える。 誰かが、こちらに駆け寄り,私は乱暴に抱き起こされたけれど、誰だろうとかろうじて開けた瞳には、必死そうな表情を 浮かべるラビさんであった。 あーあ、別にいいのに。なんて顔をしてるんだろう。私、本当に死にたかったんだから、 そんな顔しなくていいのに。 あ、そうかホームとかいってエクソシストの繋がりは強いんだったかな、私はその環には入らないけれど。 少し笑って見せる、ここでは初めて笑った気がする。 愉快で仕方がないから、笑いがこみあげてくるのだ。ようやく、ようやくだ。 微笑めばラビさんは私の名前を呼んだ。知っていたの、私の名前。 薄れゆく意識の中で見た彼の、また鮮やかな橙色の髪色に吐き気がして、目を閉じた。 おしまい、これでおしまいだよ。 「・・・・bye,」 ただ一つの言葉を残して伸ばした手は地に落ちた。 散るときに 明かされる名を (140207) |