同じクラスだからって、近いわけじゃない。これは物的距離じゃなくて、心の距離という意味でだけど。 俺のクラスである7組はとりあえずはクラスメイト全員平均的に仲が良いと、思う。 ノートを集めたりする時には、男女問わず仲良く話しているところがよく見られるし、体育祭では一致団結で 応援合戦なんてしてみたり、教室で盛り上がる時にも皆で盛り上がれる。 とにかく中の上くらいの交流はクラスメイト全員にあるはずなんだ。 なのに、何故! 「何故だ・・・花井。俺の何が悪いっていうんだ」 「え、別に悪くはないと思うんだが、お、おお落ち着け?」 「俺はすごく落ち着いている。だけどどうしてだ?!」 「な、何がだよ」 「どうして、この少ない36人のクラス編成で話をしたことのない奴がいるんだ!?」 「(そんなこと言われても・・・)た、タイミングとかじゃないのか」 「タイミング?積極的にタイミングは図ってるはずだ・・・でも駄目なんだ・・・・」 「(落ち込まれても・・・)誰とタイミングを図ってるんだ?」 「はぁ?花井知らなかったのかよ、 だよ。 」 んなもん知るか!という花井の心の声が聞こえてきそうだったが、軽くスルーして の方を見る。 今まで満足に喋ったことがないのだが、俺以外のやつには積極的に話しかけているにぎやかな奴だから、 話をしても問題はないと思うんだが。しかし、その機会は訪れたことがない。どうにか話しとかできないものだろうか。 もんもん、として考えていると4時間目が終わり、昼飯の時間になった。 花井と水谷と机をくっつけて、いただきますと手を合わせてから弁当を開けると、そこにはいつも通りの弁当のメニュー。 ウインナーに春巻き、ブロッコリーにからあげ、 「卵焼き!」 自分の心の中にツッコまれたような気がした。驚いて振り返れば、そこには見るからにるんるん、とした機嫌の良い雰囲気を まとっている が立っていた。花井はどうだかしらないが、水谷はそれにも気付かないようでもくもくと弁当を 食している。というか、花井!見たか!? が俺に、話しかけた!今までの苦労が実ったんだな!ナイス、俺! 花井の方を見てそうアイコンタクトをすると「あ、ああ・・・良かったな」と言いたげな視線が返ってきた。 でも、いつも苦労してタイミングを図ろうとしているのに何故、卵焼きなんぞに・・・・。 「その卵焼き、誰が作ったの?!阿部くんのおかーさん?おかーさんなのかな?!」 「そうだけど」 「私、卵焼きが好きでね!このクラスのお弁当に卵焼きが入っている時は必ずチェックしてるんだ!」 「(話しかけてくれたのは良かったけど、 ・・・卵焼きって・・・)」 「花井、黙れ」 「(え、なんで聞こえて・・・?)」 「いやぁ、これはいい卵焼きだよ!おいしそうだもん!ねぇ、仲良くしてくれないかな?」 「え、いいけど」 「是非、阿部家のおかーさんと!」 「あーっはっはっは!阿部、フラれたー!!」 「(ちょ!水谷!!殺されるぞ!!)」 水谷、あとで覚えておけよ・・・。 恨んでやりたいどころではなく夜中に五寸釘をもってカーンカーンとやりたい気分だったが、 ににっこり、と笑いかけられて俺の全身の血液は巡り巡っている。たとえその仲良くしたい相手っつうのが俺じゃなくても。 ああ、せっかく話しかけてくれたってのに、卵焼きの製作者かよ!そっちかよ! い、いや、きっとこれは神様が与えてくれたチャンスに違いない!これを逃したら、仲良くなるどころか ますます遠くなってしまう。それはマズい。ぜひとも避けたい。 「・・・是非、俺とも仲良くしてくれ」 「は?」 「(阿部、唐突すぎる、しかも超笑顔!)」 「阿部くんてさ、」 「・・・・・なに?」 「笑ったりとか・・・するんだ。しかもそんな友好的な言葉を吐いたりする人だったんだ」 「( ・・・ちょっといい感じじゃねぇの?良かったな阿部!)」 「そりゃ、俺だって笑うくらいするさ」 「ははっ、そっか!でも笑ってる阿部くんってなんか変!」 「(ぬあぁぁああああにぃぃぃいいいいい!)」 「(ひいいいいいい! 、地雷踏んだぁぁああああ!!!!)」 一気にひきつった俺の顔を見て、花井がひぃ、と声を漏らしたのを俺は聞き逃さなかった。 確かに聞いたぞ・・・花井。あとでお前も水谷と同等の処罰をくだしてやる・・・! 俺が、そう思ったときにふとなにか俺の弁当箱の中に放り込まれたものが目に映った、卵焼きだ。 そして横には箸と弁当箱を持って立っている 。いつのまに、弁当持ってきてたんだ・・・? 「はい、交換!」 「え?は?なに、卵焼き?」 「うん!阿部家の卵焼きと 家の卵焼きの交換!」 「(よっしゃ! の卵焼きぃぃいいいい!!!!)・・・ありがとな」 「ん?いいよいいよ!こっちこそおいしそうな卵焼きありがと!感想はまた後日」 「おう」 「(良かった、阿部の機嫌が戻った・・・!)」 感想は後日、ということはまた と話せるということだ。 俺はめったにないこのチャンスを逃すことのないようにしよう、と固く誓ったのだった。 まぁ・・・今は機嫌がいいから、水谷と花井の処罰はまだ後日、ということにしておく。 あーまた後日が楽しみだ。俺はしまりのない顔つきになるのを必死でこらえながら、からもらった卵焼きをじっと見ていた。 (花井あたりがまた引きつった顔をして俺のほうを見ている)(やっぱアイツシメる) 後日、が待ち遠しい 「あ、花井!花井んとこの卵焼きもおいしかったよ!」 「 ・・・阿部んとこの卵焼きと交換してくれてありがとな、助かったよ」 「は?何で?まぁ別にいいけど。あれお母さんが作ってくれたやつだし」 「あああああああ! 、それ阿部には絶対言うなよ!(せっかく今機嫌良いんだから!)」 「何、そんな真剣な顔しちゃって、花井って面白いなぁ!あはは!」 「(こっちはあはは、どころじゃねーよ・・・)」 |