普段の授業だってまじめに聞いてるということでもないのに、暑い授業なんてなおさらやる気なんて出るわけがない。 かろうじて顔は黒板に向けてはいるものの、意識はこのうだるような暑さによってすべて持っていかれてしまいそうだ。 教室にはただ黒板に書かれる規則的なチョークの音だけが響いている。 黒板からふっと目をはずすと、自分の机と隣の机の間に白いものがころんと転がってくるのが見えた。 疑問に思って身を乗り出してみれば、それは小さい消しゴムだった。 ぱっ、と拾い上げてまた視線を戻すと、俺の隣の席のが俺のその行動に気付いたようで、目を少し見開いてから 口を開いた。 「阿部くん、それ私の・・・・」 「ああ・・・はい」 一応、授業中ということで大きな声を出してはマズい、と考えたのだろう声は聞こえては来なかったが、 の口の動きからしてありがとう、と言っているようだった。 大丈夫、気にすんなと軽く手をひらひらと振ってそれに応える。 それを見てはまた小さくひょこっとおじぎをしてから前を向いて黒板の文字を律儀にノートに写し始めた。(この授業だれもノートを 取っているようには見えないが) そんなを見た俺は多少、授業を聞かなくてはと言う気分にされながらも、集中力はすでに切れかけていたので シャーペンをくるくると手元で回しながら教師の話しを聞き流していた。 しかしさっきからどうもなんとなく視界の隅に入るが気になって仕方がない。 に気付かれないようにちらりと横目で俺は、視線を動かしてみる。 ノートを写すたびにゆれる黒髪が柔らかそうで、俺のツンツンとした髪とは正反対だ。 教師が説明を始めると、頬杖をついてシャーペンの先をノートにとんとんと叩きながらリズムを取っている。 それに白い肌。全然日に焼けていないといえばそれは違うみたいだが、それでも袖からみえる二の腕は白くて 滑らかに見える。視線はさっきから黒板とノートをいったりきたりしていて俺のほうを向くことはないが、 さっき見た限りではの目は、日の光に反射して少し茶色っぽくみえた。 ・・・・えー、ちょっと待て、俺。危ない危ない。これじゃ真夏にちょっと頭がいっちゃって変態行為働く人の予兆みたいだ。 危険危険。俺は無理やり黒板の方に視線を向けなおす。 「あ、」 「(うわ、目ェ合っちまった!)」 逸らそうとした瞬間にタイミング悪く、ずっと前を向いていたの目と俺の目が交差する。 見てたのがバレたか?!と内心冷や汗をかく俺だったが、それに反しては不思議そうな表情のままだ。 の光に反射して茶色っぽく見える瞳がまぶしそうに細められる。 すこしの間があってからさっきのありがとう、の要領で俺の名前がの口から発せられる。 「なに」と自分でもそっけないかなと思うくらいの返事を返せば、は急に がさごそとポケットをあさりはじめた。 予想もつかない展開に俺が疑問符を浮かべているうちに、どうやら何かを見つけ出したらしい。 「ん、」とにっこりの笑顔と一緒に差し出されたその手の平を見てみれば、夏色に染められた包み紙に 入った小さな飴がひとつころん、と乗っていた。 の顔を見れば、やっぱり嬉しそうな顔のままでにっこりと笑っていてそれを見た俺の心臓は、自分でもまったく予期せぬ うちにとくん、と跳ねた。 もう君しか見えない 「え?これ俺に?」 「うん、さっきのお礼!私、その飴好きなんだよねー、阿部くんにも是非!」 「ありがとな」 「ううん!こっちこそ。じゃあ私行くね!」 「え、なになに?阿部なにもらってんのー?」 「飴」 「これ俺見たことある!栄養バランスはすっげーいいんだけど味がマズいって評判の!」 「(いやがらせか・・・それとも天然なだけなのか・・・・?!)」 |