私がこちらの世界に落されたのは少し前の話。 そこは私が住んでいた日本という国はなく、さらにイギリスへと私の身体は移動していた。 もちろん言葉は通じないし、生活様式もまるで違った。 暗くて、気が滅入ってしまいそうで、でも戻れる見込みなんて到底なくて、絶望の底にいながら私は日々を過ごしていた。 そうして何日かを過ごしていて、道に座り込んでいた私に手を差し伸べる人がいた。 その人は笑顔浮かべ、私が顔を上げて目線を合わせるとゆっくりと微笑んだ。 その眼鏡のレンズの奥に少し泣きそうな瞳を見つけてしまったけれど。 私には理解できないなにか不思議な力が存在していたようで、その人の後を付いて行けば、悪の巣窟の様な場所に連れて行かれた。 変な生物に掴まれて、気持ち悪い感覚を体感し、その生物に降ろされた時には、もう私の生きる道は決まっていたように思う。 詳しく説明をしてくれようとしていたけれど、やっぱりさっぱり分からなかった。 ただwarやfightという単語から、何かと戦うという事だけは読みとれた為、つまり、私この人は戦えと言っているのだなと理解した。 刀をひとつ渡されて、私は困惑したけれど、戦わなければ生きられない世界なんだろう、ここは。 衣食住の為にはどうしたってここを離れる事は出来そうにもなく、また、出してくれる事もないのだろうと思った。 * 「〜〜??・・・・?ーーーーーー!・・・?」 「・・・・・」 ツインテールの可愛らしい女の子が話し掛けてくれるが、まったく分からなかった。 笑顔の彼女を見て、 力なく首を振って、割り当てられた部屋へと向かう。このところ食堂と部屋の行き来しかしていない。 しかしそれも仕方がない事なのだ、まったくもって事態が飲み込めていない以上、とりあえずの生命維持活動しか していないから。 振り払ったはずの女の子がまだ私に着いてきて何かをいう。もちろん分からない。 何も分からないのだ。発音が流暢過ぎる、皆英語をしゃべっているんだ、なんて事を考えながら よくわからない事を言う女の子を振り払って部屋へ戻る。 ばたんと閉じたドアにもたれかかって、ずるずると崩れ落ちる。 本当に・・・・分からない、言葉が、というより何故ここにいるのか、ここでなにをしろというのか。早く私の居場所へ 帰して・・・・・・戻してほしい。 * 「〜〜〜〜〜っ、〜〜・・・っ!」 「・・・・・・・・・・」 なにか怒られて、罵られているのは分かるのだけれど、言葉が分からないせいでそれらの単語は意味を成さないものになっていた。 じっと、それを耐えて、耐えて、耐えて。その嵐が過ぎるのをただただ待つ。 こうしていれば、相手はだんだん面倒になって言うのを止めて立ち去る。 反撃の言葉も持ち合わせていない私にとってはそれが唯一の手段だった。 英語は分からないけど、毎日同じ言葉を聞かせられればどういう意味かは分からないけど覚えていく。私がここに来てからの日にち分、 積もり積もっていく。 「おい、邪魔だ」 「へ、・・・・・・に、」 日本語とつい口に出してしまいそうなのを押さえる。彼が日本語を話すと言う事は、彼は日本人だと言う事だ。 私が、彼を通じて話せてしまえばきっとあの上の人達はなんやかんやと言ってくるだろう。 今は大まかな事をボディランゲージで伝えてくるが、日本語でのやりとりだったら詳しい所まで 分かり、きっと私にとって知りたくない情報まで伝えてくるに違いない。 黙っているのが得策だ、と口を閉ざして端によれば、さっきまでなんやかんやと喚いていた人たちも いっきに散らばる。 この人、私と同じなのかな、戦う人なのかな。そんな事を考えたけど、まぁ今の自分には必要のない情報だ。 彼が味方なのか敵なのかなんて私にとってはどうでもよい事だからだ。 軽く頭を下げて、その場を去った。 「頭下げるなんて、日本人ぐらいだろうが・・・馬鹿か」 彼の落した言葉は私には届かなかった。 * そんな事を繰り返して、どうにか私の戦闘力もマシと言える様になった時、私にはある任務が言い渡された。 言い渡された、とは言っても言葉は通じないので、ただ呼ばれて地図を渡され、goと言われただけだけれど。 とうとう役立たずのただ飯食らいも働くのか、と言いたげな周りの視線に見送られて私は列車に揺られた。 もちろんいつもの人達もサポートという役回りなのか、酷く重たげな機材を持ちながら憂鬱そうな表情で私の前に座っている。 そりゃそうだろうな、めんどくさいだろうし、嫌だろう。私は気付かれないようにそっと溜息を付いた。 「だからこいつについて行くなんて嫌だったんだ、別動隊のブックマンJr.の方に行きたかったぜ」 「仕方ないだろうが、普通に考えて誰がこんな役立たずのエクソシストと一緒に行くかよ」 「はぁあ、上も何考えてんだろうな、つーか、こいつ戦えんの?」 「一定の訓練は受けてるだろ、それくらいしてもらわなきゃこっちが割に合わねーっての!」 「ま、別動隊がいるしこっちはハズレっぽいから大丈夫だろ」 閑散とした街には私が戦うべき対象は見当たらなかったけど、でも空気がおかしいのは感じた。 普通の廃れた街とはまた違うこの空気が、何故か私をそう思わせた。 好き勝手にたるそうな様子の周りの人を見て、やっぱりそんな対象はいないのかも、とも思うが、 念には念をだ。 街の奥へ奥へと私たちは進んでいく、そこに緊張の色は変わらずない。 遠足気分かのような気軽さで、周りは進んでいく。時折なにかの気配を感じるけれど、それがなにかは分からない。 おそらく、私が見た事もないような者が、この街には潜んでいるのだろう。 そしてとうとう街の奥の広場まで来た。 意味は聞きとれやしないけれど、不平や不満を漏らしているのであろう人たちを視界に入れながら広場をひとつ見回す。 すると気配が大きくなった、気持ち悪いような、闇を凝縮したような。そんなものが私たちの前に 、 いつもいつも言葉を荒げる人たちが、そのモンスターの様なものがぽぽぽっという少し可愛らしいとも言える 音と共に現れた瞬間、黙り、私の背後に逃げるのを滑稽だとも感じていた。 これか、AKUMAと言うものは。ここにきて早幾年だが、始めてみた。確かに邪悪な微笑みを浮かべてはいる。 それにしたって後ろで隠れている人はAKUMAではないのだろうか。 散々人を虐め抜いておいて、今は助けてもらおうっていうのは虫が良すぎる話だと思わないのだろうか。 それに私にとってAKUMAはAKUMAではない。むしろ私を助けてくれる存在だ。後ろで震えている人たちから、 そして仲間と言えるような存在ではない人たちばかりのあの場所、そしてこのひいてはこの世界から。 すべてを引き抜いて欲しい。 一歩踏み出す。 私の手には似合わない大きな刀をぶらりと持って。 後ろから早くやれ、だのなんだの聞こえる。あ、私英語少し分かる様になってる。 なんて、凄く今に合わない事を考えてまた一歩踏み出す。 誰かが私を呼ぶ声がした。 それに私は微笑んで思う。誰も私の名前なんて知らないのに何故そんな事を。 そしてこのとき死ぬと言う事に抗い、生きたとして、私の前に道はあるのだろうか、いやないだろう。 いつだって私の前に道はなく、底なしに暗い奈落の底が待っているだけなのだから。 ・・・・・・・・・・・さぁ、行こうか。 私は眼を瞑った。この時を、この時だけを、ずっと待っていたのだから。 心待ちにした滅亡の瞬間 |