「うっわ、すご、もふもふ〜!やばい!!ほーら、わしゃわしゃー!きゃー!!」

 ふわっふわな髪にふにゃふにゃな白い手、お前の方がよほどふわふわでやばいというのに、 目の前の人物はそれに気が付かないで夢中で俺の毛並みを撫でる。
確かに自分の毛並みはわしゃわしゃと出来るレベルだけれど、あまりに無防備に笑顔を見せられるものだから、少し 気恥ずかしくもある。抱きついてくる本人はまったくそんなことを考えてもいないのが、悔しいけれど事実だ。


小さな手は俺の毛並みをわさわさとして、ぎゅーっと抱きつき、その毛並みに顔を埋めてくる。
ふわふわなこの小さな身体からはなんだか甘い匂いがするようで、俺は知らず知らずのうちに、 口元が緩くなるのを感じた。
原型のままでは彼女を抱きしめられないけれど、原型でなければそれは可能だ。
するするっと自分の身体が変わっていくのを感じる。



「なんで人になっちゃうの」
「・・・・・別に、俺の勝手だろ」



残念そうに眉を下げて、すすっと身体を引く自身のマスターを見て、とってもおもしろくない気持ちになるのは仕方がない。
人型に興味はねぇっていうのかよ、とぶすっと口を曲げて見せれば、今度はその不機嫌オーラに気がついたのか、 抱きついてはくれないものの、まぁまぁ機嫌直して?と 頭をぐしゃっと撫でてくる。
そっちの機嫌も下がっているし、こっちの機嫌だって直滑降だというのに、どこか困った様な笑顔は俺を掴んで離さない。
ポチエナだった頃からそれは変わらない、あの頃よりもずっと強く大きくなったはずなのに、どうしてもこの距離は 縮まらない気がして、焦ってしまうのだ。
でもポチエナだった時は俺が人型を取ってもかわいいねなんて言ってぎゅっと・・・いや、可愛いくはなくていい。
そうしながら、頭に延ばされた手を払うように、頭を振る。名残惜しいのはそうだけれど、このような子供扱いも 不満には違いない。
彼女にとっての俺が、頼れるような強い立派なものに思えていたらこの関係はまた 違ったものになってるはずだ、などと考えるけれどそれは口には出せそうにもない。
どう頑張ったってそんな事言えるほど、大人でもないし、まだまだまだ大人への道のりは遠く果てしないのだ。



「もう、本当にいじっぱりなんだから」
「意地、張ってねぇし」
「はいはい、」




だからもう少しは彼女の優しい甘さに浸っていられたら、なんて苦笑交じりの彼女の笑顔を見ながら、俺は思うのだ。
いつか俺が大人になって彼女に反逆出来るような絶好のタイミングがもし現れたとしたら、その時は、まぁ・・・、


「覚えてろよ・・・!」
「なにその3流の悪役みたいな台詞」
「本当に覚えてろよ・・・!!」
「良く分かんないけど、まぁ、待ってるね」
「・・・・!!」



なんかやっぱり勝てねぇかもなんて思ってしまった自分に喝を入れた。






おとこのこのじかん