「今日この街出るって言っておいたよね?集合ここだって、それも言ったよね」 「あー、ごめんー。だって女の子たちの事断れなくてさ」 「はぁ・・・・・・もういい」 「怒らないでよ〜。ね、ちゃーん」 「好きにしていいとは言ったけど約束破るのは別!」 ぷいっと顔を背けるのをへらへらと見つめながら、ぽむ、と頭に置いた手は振り払われた。 くるくると指で自分の首のまわりに掛かっている洋服の装飾をいじれば、目の前の存在はまたこちらを 向いた。眉がぐぐっと寄せられて不機嫌そうな顔のはぐっと腕を組んで仁王立ちだ。 あはは、と笑えば笑い事じゃないでしょ、ときつめの言葉が投げつけられる。かわいい声、かわいい顔で そんな事言われても、かわいいだけだけど。ふわふわな彼女と怒りの感情は酷く似合わない。 「昼には出発するはずだったけど・・もう仕方ないよね。明日朝出発で、ここに集合」 「了解〜」 彼女は西の方角を見て、落ちていく夕日を見つめながらそう言う。 ひらひらと手を振って軽く返事をすれば、じゃあ明日ねと言われるので俺は彼女に背を向けて歩き出す。 昼の約束ではあったけれど、その集合場所目指して出発したはいいものの、 途中で女の子に囲まれてしまい、その子たちの相手をしていたらとの約束の場所に来た時にはもうこの時刻だった。 いつからだったか、街につけば、彼女とは別行動を取るようになったのは。 1人にさせてと言ったのは自分なのに、その実1人になってしまえば寂しくて仕方がなくて女の子と遊び出したのは。 一番大事な女の子には何時まで経っても素直な面を見せれそうにはない。 フローゼルに進化した時はようやくか、と思った、待ちに待った進化だったから。 ようやく逃げるばかりではない自分になれたと思ったから。しかし自分が思っていたよりもずっとタイプの強弱は強かった。 でんきタイプにはみずタイプの自分は不利だ、と思いしらされる事ばかりで、ビリビリとくる電気の痺れで気が遠くなる。 には友好的なでんきタイプもいればかなり険悪的なでんきタイプのやつもいる。 友好的な場合はまだ目を光らせるくらいで済むけれど、突っ掛かってくる奴には必死で立ち向かわなくてはならない。 不利だと分かっている自分は負ける事はないが、勝つという事もない。 その日もでんきタイプにつっかかられたの前に立ちながらそんな事を考えていた。 ゆるゆるとした思考を感じたのか、相手のシママはでんこうせっかを繰り出していた。 思考を取り戻し気がついた時には相手はすでに自分をすり抜けて、へと向かっていた。 止める間もなく、彼女へ体当たりをしたシママとはそのまま後ろへ倒れてしまう。 駆けよってシママを追い払い彼女へ罪悪感を感じながら手を伸ばせば彼女の頬に走る一筋の血が飛び込んできた。 瞬間、自分だけが取り残されたかの様に、存在が刈り取られ、声を失う。怪我をさせてしまった。自分がふがいないから。 が、なにかを話しかけてきているけれど何も聞こえない、なにもかもだ。 ∵ 彼との約束が破棄されてしまった事によって自分の予定も狂いに狂ってしまったわけだけれど、彼のあの性格は 治らないものだとして比較的諦めているのでそこまで悲嘆に暮れているわけでもない。 いつからあんなひねくれた様な性格になったのかさっぱりだけれど、別に彼だけの問題でもない気もするので、 そこまで強くは言えない。 元々持っていたものも大きいのだろうけど、女の子好きのひょうひょうとした顔をしているくせに実は寂しがり屋という とてつもなくめんどくさい性格だ。だけれどだからと言って別れを切りだす訳ではないのに、彼は、それを隠そうとする。 バレバレだよ、と思いながらも彼のメンツというものもあるだろうと、こうして許しているのだけれど。 なにがそう彼に作用しているのかわかんないけど。 「あれお前んとこのフローゼルだろ?」 「え、ああ、はい、まぁそうですけど」 「レベル、釣り合ってねェから従わないんじゃねェの?」 「ああ、そうかもしれないですね、それが?あの子に彼女でも取られたり?」 「・・・・・・だ・・・っ!てめ!馬鹿にしてんのか!違ェよ!」 「わー、あー・・・ごめんなさい。怒らせました?」 そんなことを思いながらポケモンセンターまでを歩いていると、ぐいっと肩を引かれた。 振り返ってみれば、背の高いレントラーがいた。随分不機嫌そうだ。私の周りに現れるのは不機嫌かそれとも適当か、 そんなポケモンしかいないみたいで、はぁ、とため息をはいた。 それに私はどうやら、彼のような水タイプよりも電気タイプに好かれる性質らしい、さきほどから絡んでくるレントラーも 多分それのせいだろう、彼女を取られたのもまぁ・・・図星ではあるみたいだけれど。 ベルトにぶら下げたモンスターボールが出させろと言うように震えるけれど、それをそっと押さえる。 心配そうな視線を感じながら、ガバイトが出てきたらまたややこしいことになるから、と思いながら、にっこりと笑う。 レントラーがぐっと赤くなって黙り込むので、あーこれがうちのフローゼルさんにも効いたら良かったのになぁ、 なんて考えてしまう。まぁ、彼が私みたいなのに興味を持つとは到底今のままじゃ思わないけれど。 「おい・・・・おい!!聞いてんのかよ、テメェ」 「聞いてますよ、はいはい。えっとなんでしたっけ?」 「適っ当な事言ってんな!!その・・・・、名前、」 「名前?えっと、」 「あー、・・・おにーさん、ちょっとそこまでにしといてくんないかなー?ちゃん困ってるし」 「あァ?ああ・・・さっきのフローゼルかよ。なんだ?今更マスターが恋しくなったってか?」 「・・・・ッ!」 「図星かぁーはっ、女々しいこって!」 「はいはい!もう終わり、さっフローゼル行こうか〜。またね、レントラーくん」 1回手は出たものの軽い小競り合いのみくらいで済んで良かった。間に入って止めれば、 案外引き際はさっぱりしたもので(当社比)フローゼルを引っ張ってその場を後にすれば、追いかけてくるような事は なかった。そのまま大通りを通り、当初の目的地のポケモンセンターに着いた。 中に入ろうとすれば、かすかにひっぱる感触。振り返ってみれば、情けない顔をしたフローゼルがそこにはいた。 そういえば私がでんきタイプに絡まれている時に助け舟を出してくるのはとっても久しぶりだ。 確か進化する前くらいは頻繁に助けようとしていてくれた気がするけれど、フローゼルになってからは数えるくらい で、初めのほうの数回くらいだったっけ、なんて考える。 「なぁに?・・・ああ、手、ごめんね。じゃあ、今日はポケセンで泊まる?久々だよね、私たち街で一緒にいるの」 「や・・・それは、」 「それとも今夜も約束ある?なら仕方ないけど」 「あの、さー・・・、」 「なに?」 「ねぇ、もういらないでしょ」 「なにが?」 「だーからー、俺じゃちゃんしっかり守れないし・・だから、まぁ・・・いらないでしょ、ガバイトもゲットしてたじゃん、俺、 もっといらないでしょ。俺はみずタイプだし、ガバイトじめんタイプじゃん」 「・・・・・・・・・・・はぁ、」 大きくため息を吐けば、フローゼルの肩は大きくびくりと跳ねた。 だから、そういうところがばかなのだと何で気が付かないのか、と顔を伏せてみれば、彼らしくなく慌てた様な 雰囲気が感じ取れた。 ぐっと顔を上げて身長を詰めようと背伸びして詰め寄る。いーい?と前置きをすると、フローゼルは目を見開く。 さっきの小競り合いでどこかにひっかけたのだろうか、彼の頬に走った一つの傷の血を拭いとりながら、私は言う。 「あのね、いらないとかそういう事言わないの!別にフローゼルが使えないとかそういう事でガバイトゲットしたんじゃないし、 みずポケモンが劣ってるとかそういう事はないの!どーしてずっと一緒にいたのに、そういうことはわっかんないかなぁ」 「・・・・・・・・は」 「捨てられるって思って飄々としてた振りしてたのか知らないけど、捨てないし、ずっと一緒にいるから。ここまで 言わないと分かんないの?本当におバカ。平気な振りしてても分かるんだから、」 本当にどうしてこんな簡単な事がわからないのかと頭を抱えてしまいそうだ。 目の前に立っているフローゼルが居心地悪そうに身体を揺らす。揺れた影が自分を覆う。 「それとももう私に甘えるのは嫌なのかな?」 「はぁ?!甘え、・・・・はぁぁああ?!!別に、ちゃんに甘えたいなんて思ってないし〜」 「いつも私が他の子と遊んでると羨ましそうに見てなかった?」 「だぁあああ、違うし!!別にそんな羨ましげに見てない!」 「あっ、そうなの?まぁ、フローゼル他に女の子いっぱいいるもんね。そっちに甘えればいっかぁ」 「えっ、あ・・・・あ、そ、そうなんだよね〜はは、・・・・・・・・ははは、」 彼女のベルトにぶら下がった、他の仲間たちからの視線が痛い。 あーあ、と言いたげなのは、俺の劣等感を一番刺激するガバイトからのものだ。 くそ、もうほっておいて〜と嘆きたくなっても、おかしくないだろう。 (120310) |