とすっという軽い音がして、自分の頭の上に着地するのはいつもの事だ。
かわいい、ふわふわすぎてかわいい。と思わず意識せずに表情が緩む。 ふわふわという言葉、ふわふわという感触に弱い私は、上から聞こえる鳴き声に合わせて、頭をゆらゆらと揺らす。
軽いとは言っても多少の重みは感じるので、その暖かさにほんわかな気持ちになる。
モンスターボールから出してあげれば頭に乗るのが定位置なチルットはいつもこの場所が好きらしい。


そのままゆらゆらとしながら、歩いていると美しい高い声で一声鳴いて、頭の重みが先ほどよりもどすっと増える。
いきなりの重みに思わずつんのめって、よろけたけれど、 ぎゅうっという圧迫を身体の後ろから感じて、どうにかこうにか踏みとどまる。
ぎゅっとしていた腕をほどきながら、チルットの方へ向く。




「もう!急に人型にならないで!危ないでしょー!」
「わー!ごめんね、ごめんね!!でも、だってさー、ちゃんかわいすぎてつい!えへへ」
「なっ・・・・・・」
「だめだった?ごめんね・・・・」
「・・・・っ、うっ・・・・かわ・・・・もう!!チルット可愛すぎ!大好きー!!」
「ほんとー?ぼくもちゃんすきー!だいすきー!」




ぎゃああああ、かわいいよう、とついつい心の声も駄々漏れで抱きついてしまう。
嫌な顔一つせず、同じような動作で、ぎゅっと抱きついてくるチルットはとってもかわいい。さっきから可愛い以外の 形容を言っていないのだけれど、でも仕方がない、可愛すぎるのだ・・・!!
アホか、とベルトにぶら下げたほかのモンスターボールがイライラと揺れるけれど、それにもお構いなしだ。 チルットはそれを見てこてっ、と首を傾げた。




「ねぇねぇ、ちゃん。なんか、みんなうらやましいって言ってるよ」
「え?だっ・・・わっ!!」




チルットが発言した途端に激しく揺れ出すモンスターボール達はなにやら抗議しているようだけれど、 いや、これはきっと呆れているのだ、と自分では答えが分かっているので、あえてチルットの発言に応えはしない。
モンスターボールが揺れるのを見ながらチルットは私の腰の辺りにさらにきつく抱きつく。
頭をくしゃりと混ぜ返してやれば、にこりっと最強の笑顔を私へ向けてくる。上目使いもやばいよ・・かわいいんだよ・・・。
はぁ、幸せ〜なんて思いながらわしゃわしゃとしていれば、あれ?と言うようにチルットが口を開く。




ちゃん、顔のとこ、汚れてるよ?」
「え?ほんと?さっき洞窟通ったからそのせいかなぁ?」
「わーん、洞窟でもぼくがちゃんの事守って上げれたら、泥なんて付かせずに済んだのに、ごめんねぇ、ちゃん・・・!」
「チルットには他で頑張ってほしいの。適所適材ってやつだよ。その気持ちだけで十分!ありがとう」
「てきしょてきざい?でもでもちゃんの事は僕が守りたいのー!あいつじゃだめなのー!やなのー!」
「駄々っ子さんだなぁ、チルットは」
ちゃんのいちばんはぼくだよね?」




またしても上目使いと首を傾げるしぐさで、私の方を見てくる。
みんな大好きだし、みんな一番だよと言って笑えば、ぷくーっと頬をふくらましてそっぽを向く。
だけれど腰に回わされた手は離れないままだ。
「そういうのいちばんじゃないもん」と言いながらお腹に 顔を埋めるしぐさが、可愛くってくすぐったくて、私はぽんぽんとチルットの背中を撫でる。 よしよし、とすれば、ひゃーっ!と可愛い声を上げるチルットに癒されてばかりだなぁ、なんて考える。
そんな事を考えていればチルットはかがんで、かがんで!と催促する。
歩みを止めてチルットと目線を合わせるようにしゃがめば、チルットのふわふわの袖が私の頬を ぐしぐしと移動する。どうやら汚れをふき取ってくれたようだ。



「これでちゃんきれい!きれいきれい!」
「ありがとう!ほんっとチルットは良い子!」
「えへ、ほんと〜?ぼく、いいこ?」




わぁい!と無邪気な顔で微笑みながら、チルットは私の首の後ろへと手を回して抱きついてきた。
ふわふわな袖が私の耳に当たるのを感じながら私もチルットを同じようにぎゅっとする。
よくできました!と言えば、チルットははにかみながら、さらにぎゅっと抱きついてくる。はにかんだ顔も 可愛すぎてたまらない。本当に嬉しそうに懐いてきてくれるから、ついつい私もチルットには甘い 対応になってしまう。






「・・・・・・・あともうちょっと・・・かなぁ?」
「ん?チルット何か言った〜?」
「んーん、なんでもないよ、ちゃん!」
「そう?じゃあ今日は次の街まではりきっていこうか!ね!」
「うん!ねぇねぇ、ちゃん、手つないでつないで〜!」










ひみつは落とし穴の中


「お前のふわふわ猫っかぶり、イライラするんだよっ!」
「ぼくねこじゃないもん〜。わたどりポケモンだもん〜。こわいなぁ」
「だぁあああ、イラつくぅうう!なんであいつ分かんねぇんだよ・・・!!」
「ぐらえなもわりとふわふわだから抱きしめてもらってるよね〜」
「なっ・・・・・・・!」
「ほー・・・・へぇー・・・ちゃんにそんな事を・・・へー」
「おい、ちょ、フローゼル?!な、にを・・・!!」
「・・・あーあ、ぐらえな、流されてっちゃった〜」






(120313)