「うーん?・・・・」
「・・・・・?」




ひらひらひらと上から暖簾が垂れ下がってくるようなそんな状況に陥っている。
言いたい事言ってしまいたいけれど、赤いその目がそれを拒んでいるようでなかなか言い出せない。 後ろでチルットが「あそこはぼくの場所なのに、なんで!なんで!あいつなに!?」とぐだぐだと フローゼル相手に駄々をこねているのが聞こえるけれど、それに対応できるような 状態でもない。




「あそこで助けたりするから、ちゃんなつかれちゃったんだよ!もう!」
「じゃあ助けなくて良かったってのかよ」
「・・・うう、ぐらえなの意地悪!それを助けちゃうちゃんだからだいすきなの」
「ならいいだろーが、フローゼルに当たるなよ」
「グラエナ・・・!お前、俺の心配をして・・・」
「いや、わりとお前もに迷惑掛ける方だろ?これ以上HP消耗したらあいつ気にするし」
「だぁあああ、お前らは・・・っ!べ、つに気にしてないけど〜」
「こういうところ面倒くさいよね、ふろーぜるって」
「お前の猫かぶりも面倒くさい」
「なんでそういう事いうの!ぼく別にめんどくさいこじゃないもん」
「つーか、あそこでお前がおいうち食らわさなかったら、も別に連れて行かなかったと思うけど」
「・・・・えー・・・だってさぁ・・・」




手持ちの子たちからぐだぐだ言われている噂のこの子は私の頭にぽすっと乗っかったかと思うと、 そのままそこから動かなくなってしまった。
チルットが私の頭の上をいつも定位置にしているのだけれど、そこから動く事をかたくなに拒む。
頭の上ばっかりだと顔がよく見えないよ?と話しかければするりと降りて、肩に乗る。頬に擦りよるしぐさは とてもかわいい。そんなに懐かれる様な事をした覚えもないんだけどなぁ、なんて思いながら、微笑みかける。
しかもこの子はムウマージだ。誰かの手持ちだったんじゃないかなと思う。技が全て高いレベルで そんなこの子のサイコキネシスでくるりと後ろを向かされ、私から引き離されていくチルットはふくれっ面を隠そうとしない。




「チルット、そんなに怒らないで。まだこの子不安なだけだと思うから」
「ふーん・・・・・・・そうなのかなぁ」
「・・・・・・・・」

















差し出されたその手をじっと見つめた。

おびえて、がくがくと震える自分の身体は酷く滑稽に見えたに違いない。 暗闇が苦手なゴーストタイプなんて聞いた事ない。でも聞いた事がない、って言えるのは自分がこの古びた 屋敷から出ていけないから、聞いた事がないだけなのかもしれない。
でもその一歩を踏み出す事がすごくすごく怖くて、いつも扉の前に行ってはうろうろしていた。
昼間は扉の前、夜はぎゅっと目をつぶって暗いのが無くなるまで自分を抱きながら朝を待つ事が普通になった。


そんな時だった、今のマスター、と会ったのは。


日の光を纏って現れたかのように眩しくて、この屋敷に真っ暗闇の中置いて行った前のマスターとは全然違う。 明るい、太陽の様な人。
しばらく見ていなかった太陽を直で見てしまったかのような、そんな感じがして、眩しくて目をぱちぱちとさせれば、 「お目覚めかな?」と柔らかな表情でゆるゆると笑む彼女を見て衝撃が走った。

こんな笑顔知らない。人間ってもっと怖くて、暗闇の様に深い、怖くて暗くてそんな感情しか持っていなかったから。 こんな人間がいる事だって知らなかった。 最後のマスターに置いて行かれた後、どれくらいの時間が経ったかは定かじゃないけど、人間に対するイメージはそんなものだ。 呼ばれて、戦って、勝てればいいけど、負けてひんしになれば叱咤されて、センターに預けられて回復して。
ジョーイさんは優しくて好きだったから、マスターの元にはなるべく帰りたくなかった。
なのに、そんな人間、そんなマスターとは全然違う今のマスター。


後ろには、彼女の仲間だろうか、グラエナとフローゼルがじぃっと見つめていて、上から激しい視線を感じると思えば、 チルットがふわふわと浮いて、それから彼女の頭にのってこちらを睨みつけている。
困惑は激しかったけど、どうやら彼女たちは旅をしている途中に迷ってこの屋敷にたどり着き、大きな屋敷のすみっこに 縮まっている僕を見つけたのだろう。
ふわふわと笑う、その感情がどうにも僕に向けられているとは考えにくくて、ついついまた目を閉じてしまいたくなる。
嫌なものは怖い物はきらい。何時だって僕を傷つけるこの世界はだいきらい。



だけど差し出された手に、おそるおそる、手を置いて感じたのはとってもあったかいということ。差し出した自分も 信じられないけれど、どこかこの人は信じてもいいんじゃないかって直感で感じたのだ。この人に闇はない、 大切に、この笑顔と同じように優しくふわふわと僕を包むんだろう。
と彼女に感化されてちょっとだけふわりとした気持ちになったその時だ、激しい衝撃が当たったのは。




「ちょっとー?!ぼくのちゃんに、さわんないでー!!!」
「・・・・・・・・っ!」
「こら、チルット!君、だいじょう・・・・・ぶ、じゃなーーーい!!は、早くち、治療しないと!!」
「・・・・・あーあ、どうなってもしんないよー、俺。あー怖っ!チルット怖っ!」
「チルット、お前、本当に容赦ねぇな・・・」
「みんな、なにのんびりしてんの!早く、連れてくよ!!」




チルットの攻撃を油断していた僕はがっつりと受けてひんし状態になったけれど、抱えられたその腕の ぬくもりはとてもとても、もう忘れられるものじゃなくて。 そうして僕は、この人について行こうと思ったんだ。










悪夢の色を知らない


「あっ、どうしたの?・・・・モンスターボール?んん?」
「この子、ちゃんの手持ちになりたいんじゃないの?」
「そうなの?フローゼル」
「だって、そいつ自身が言ってる、モンスターボールに入れて欲しっ・・・ぐはっ」
「やだやだ、ふろーぜるってば!そんなことあるないよ〜・・・・ね」
「・・・・・・・!」
「哀れ、フローゼル。安らかに眠れ」
「おい、グラエナ!他人事だと思って・・・!」
「・・・・・・・」
「えっと、騒がしくてごめんね・・・入る?」
「・・・・!」






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