「1番好きなヒーロー?なにそれっ・・・聞いてどうするんです!?」
「いえ、ただの興味本位の問いかけですが」
ちゃんは、もちろん、俺だよなー?なー?うんうん」
「おじさんは黙っててください、話がややこしい事になりますから」
「んだよーったくバニ―ちゃんはほんっと短気だよなぁー」
「短気じゃありません」




トレーニングルームでバイクをこいでいると、隣からバーナビーさんが話しかけてきた。
今はトレーニング中なので、言葉を発するのもやっとな私に対し、ランニングマシーンで走っているはずのバーナビーさんは 正反対の涼しげな顔で聞いてくる。 そしてそのバーナビーさんの横にいる虎徹さんはこちらまで声を飛ばして会話に参加してくる。

いちいちつっかかってくるのをいちいち律儀に返すバーナビーさんもバーナビーさんだが、 まぁ虎徹さんも虎徹さんだ。
ちゃきちゃきとランニングマシーンの上で走ってトレーニングするバーナビーさんとは正反対に、 腹筋の為に作られたであろう場所でお昼寝中の虎徹さん。のんきなものである。 まぁそして私はその隣のバイクに乗ってペダルをひたすら踏み、体力作りに励んでいる訳なんだけど、かなりつらくて 息も上がってくる。



「なぁああ!?もう1時間もやってるのにご飯茶碗一杯ですと・・・!?」
「ちょっと、僕の話聞いてます?」
「いや聞いてるけど、なんでこんなに燃焼されないんでしょう・・・そっちの方が気になるんですけど」
「やり方が悪いんじゃねーのー?」
「寝てる虎徹さんにアドバイス貰いたくないです」
「・・・なんでこんな辛辣な子に育っちゃったの・・・」



がくがくと表示された画面を揺さぶってみるけれど、その表示は変わらない。 1時間弱必死にバイクの重いペダルを踏み続けたというのに、お疲れさまでした、の後に表示された カロリーはご飯茶椀一杯の表示。
ああ、カロリー消費って・・・スリムになるにはまだまだ先は長いと、このバイクに言われているようで、 ちょっと落ち込む。



「いや、まだまだ!2週目行きます!今度は負荷5倍!」
「燃えてんなぁ。感心感心」
「あんまり無理すると後できますよ」



気合の掛け声を出して、盛りこぎを始めれば隣から冷ややかな目でバーナビーさんがアドバイスをくれた。
というかこの先輩ヒーローたちはどうも、微妙なアドバイスばかりをくれる傾向がある。 まともなアドバイスを期待したこっちが悪いと、今では諦めもついたけど。
とりあえずこの1時間はバイクをこいで茶碗一杯からせめてチョコレートひと欠片くらいにはランクアップしたい。 そんな儚い小さな夢を抱きつつ、私はひたすらバイクをこいだのだった。












「よっしゃ、終わった!今日も私一日頑張った・・・っ!」
「またそんな無茶をして・・・膝壊しても知りませんよ、さん」
「大丈夫だってー。ほんとバニ―ちゃんは、ちゃんの母親か?」
「・・・・そうやって無駄に頑張って無駄に無茶したおじさんは数日前、膝を痛めましたよね」
「・・・・無駄じゃ・・・!」
「痛めましたよね」
「・・・痛めました、ハイ」


しょぼんとして左膝を軽くなでる虎徹さんを見て、上からバーナビーさんはふん、と鼻で笑った。
いいもん、今は治ったもんねー!なんていう虎徹さんだが、あんまり反論出来てない。勝ててない。
この関係はいつまで経っても基本はこうなんだろうなぁ、なんて思いながらトレーニングルームから出る、前に、



「っぷは!やっぱトレーニング後にはこれ!ペプシネックス〜!」
「お前・・・それ意味ねぇんじゃ・・・・、」
「釣り合うどころか、むしろカロリー的な意味ではプラスですからね・・・」
「いいの!だって私、1番好きなヒーローはブルーローズちゃんだし!!」
「「・・・・・・・」」
「ははは・・・・へぇえ、そうですか、ブルーローズですか」
「は?俺じゃないの?!」
「うん!だって2人は変身したらあのロボットみたいなのになるじゃないですか。でもブルーローズは、可愛いし」
「「・・・・・・・・・可愛い・・・」」
「トレーニングルームに通ってたら2人以外にも会える日が来るかなぁ・・・!」





ははははは、と乾いた笑いで、なんだか急に挙動不審になる2人を横目で見ながら、ペプシをぐいっと飲む。
バーナビーさんなんか微妙に笑顔引き攣ってるし、 虎徹さんも唖然とした表情を私に見せてからとぼとぼと前を歩いて行く。どうしたんだ、今まで2人ともトレーニング後とは 思えないほど元気だったのに。いや、虎徹さんはトレーニングしてないけど。

しかしこのトレーニングルームはヒーロー専用なはずなのに、いつもあの2人しかいないのは何故なんだろうか。 そろそろ彼ら以外のヒーローに会っても良い頃合いじゃないかとも思うんだけど・・・。
私、まだこの2人以外に顔合わせをしていないのに、マネージャーも明後日の方を見ながら、「まぁゆっくり会って いけばいいんじゃないかな!?」なんて言うし。まぁ弱小の会社の所属の私と、かの有名なアポロンメディア社所属の2人とは 雲泥の差があるから、こんなに親しくさせてもらう事なんて本当に凄い事だと思う。 しかしこの2人にしか会えてないと言うのもおかしいと思う。謎は深まるばかりだ・・・・。


その数日後の出動でいつもかくかくごつごつのロボットみたいな2人のスーツが少し装飾が付けられて可愛くなっていたのは、 2人のイメチェンって奴なのだろうか。出動後にこちらへ歩いてきた2人に挨拶をしながらそう思う。




「でもそのごつごつスーツに可愛さは・・・いらない気が・・・」
「はぁ?お前はこうすればああ言う!もう!俺たち頑張ってんだぞ」
「いや、それは分かってますよ。今日もポイントも盛り上がりも持って行きましたもんね、・・・主にバーナビーさんが」
「まぁ、おじさんには任せておけませんしね」
「うっわ、・・・俺だって頑張ったよ!そしてお前は絶対分かってない!」
「ああもう、そんなに怒らないでくださいよ、虎徹さん」
「僕も、さんにはがっかりです」
「え?!あれ、バーナビーさんも?!え?!なんでです?!」


私は指を指されて怒られるような事をしてしまったんだろうか。
憮然とした表情の2人スーパーヒーローを見上げながら、おろおろとするしかない私だった。



でもその後私たちの隣をすっと「おつかれ」と言って横切って行った今日のブルーローズちゃんは、 今日も今日とてとってもかわいかった。
いや、私におつかれって言ってくれたわけじゃなくて、この2人と一緒にいたからだと思うけど!
でも!良かった!今日出動して良かった!キングオブヒーローじゃないけど、ありがとうそしてありがとう!




「そう言う所がだよ!」
「そう言う所がです!」
「え?」






輝かしい頂点目指して
「ちょっと!今日も臨時休業ってどういう事?!」
「確か昨日もこの張り紙貼ってあったわよねぇ・・・」
「・・・・せっかく来たのに・・・」
「日々のトレーニングが出来ないというのは厳しいな、残念だ。場所を別に移さなければ」
「なんかこの字見たことある気がするんだが・・・」
「僕、公園でトレーニングやってこようかなーっ」






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