「おじさんのせいですよ、こんな事になったのは」
「わりーわりー!ちょっと面白くなってついつい」
「ひゃーーーーー、眠いですー!!んー、」
「ちょ、離れてくださ、わっ」
「お前ら仲良しだなー。うんうん、若いモン同士良い事だ」
「なっ、お、おじさん!ちょっと、この人どうするんで、」
「送ってってやるか。こりゃ1人じゃ帰れないだろ」
「そうですね・・・はぁ、まったく」
「ほら、」





冷やかな目で、今回のこの事態を引き起こした犯人を見つめれば、苦笑しつつ こちらに手を差し出してきた。
自分に抱きついている彼女はまだ夢見心地、というか夢の中といった様子で、まったくもって酔いからは 冷めそうにない。
この差し出された手は、おじさんが送っていくということなんだろうか?と頭の中で考えたが、 それだけで少し胸がざわついた気がした。
いつも二人は仲良さそうに話をしていたり、トレーニングしていたり、ご飯を食べていたりしているようだし。
だから、そのおじさんの動作がいかにも分からないと言うように、僕は素知らぬ顔で口を開く。





「・・・・・・・・・・なんです?」
「だからちゃんこっちに。俺が送るから」
「・・・・・」
「・・・・あーー、おじさんちょっと眠くなってきたから、バニーちゃんに任せようかなっ」
「バニーじゃなくてバーナビーです、おじさんも相当酔ってます?」
「・・・・俺帰るわー。ちゃんよろしくな。また明日」





こんな微妙な心境を読みとったのか、おじさんはくるりと背を向ける。
そういった余裕も僕を イラつかせるだけだと言うのに、本当に仕方がない人である。
ひらひらと軽く手を振って去っていくおじさんの背後をいくら睨んでみても、 なにもならない。ふっとため息をつけば、視界の下に酔いつぶれた彼女が見える。
見えると言うか、なにもかも近い。視界が彼女である。
酔っぱらうとくっつき魔、さらに眠くなると言っていた彼女に面白がって酒を勧めて飲ませたのは おじさんだったが、おじさん自身もここまでとは想定していなかったのだろう。

切りそろえられた黒髪が揺れるのを見ながら、彼女を片手で支えながら携帯を開く。
顔出しをしてヒーローをしている為か、微妙に注目を集め視線が痛いが、それも仕方がない。
・・・・・別に撮られたってこちらは構わないのだし。
その視線を跳ねのける様にして、携帯を操作し 彼女の自宅の住所を教えてほしいと、彼女のマネージャーに電話をする。

意外に近い場所であったので交通機関を使わずに歩いて行く事にする。
すでにくたくたな彼女を抱えて夜の街を歩く。夜の風は春だと言ってもまだ肌寒い。 腕の中で動く彼女にジャケットを被せて、そうしてから彼女の自宅へと向かうのだった。











「・・・ここか」
「・・・ちょっぴりコールドぉお、うーん、ん、」

すでに眠りに落ちている上、酔っぱらいの彼女に聞いても意味のない事なのだけど、数十分ほど歩いて、彼女の住むマンションへ着く。 こじんまりとした小さなマンションだ。この間越してきたばかりなのだと、話していた事を思い出す。 鍵を彼女のバックから出して、ドアノブを捻る。


「・・・・・・・・・・想像上ですね・・・この状態」


何もないと言う訳ではない。汚いと言う訳でもない。
扉を開けて一直線。リビングまで見渡せる間取りは、まぁ彼女の貧乏具合(こういうと怒られるだろうけど)に ぴったりな感じではあるのだが、問題はその部屋に置いてあるものである。


「段ボールだらけ・・・はぁ。ソファしかないなんて一体どんな生活をしてるんです?」


リビングには段ボールだらけでまだ開封していないのであろう、ぴったりとガムテープが貼り付いたままであった。
問いかけても相手はすやすや夢の中、ちょっと腹が立ってやや乱暴にソファにその身体を横たわらせる。
まさかこの人、今まで越してきてからソファーで寝起きしてたんじゃないだろうな、なんてまさかで済ませられない 面倒くさがりぶりが彼女にはある事を思い出して頭を抱える。
寒そうに自分のジャケットを離さない彼女を見て、 そこらへんに放り出してあるブランケットをそっと掛けてやる。 すると彼女はブランケットを掛けられた事によって安心したのだろうか、裾をきゅっと掴んで寝がえりを打つ。 こんなに狭いソファなのに器用な事だ。
そんな事を思って、ふと目線を上げれば、この部屋には似つかわしくないやたら存在感のある物体が目に入って来た。
部屋のサイズに、こいつは合っていないと思うのだが、そんな事を今言っても仕方がないだろう。


「ベッドあるじゃないですか・・・あなたって人は本当に・・・」
「・・・・へへへ、ふっ」


何故か夢の中で彼女は笑っている。会話は成立しないというのに、何故か話しかけてしまう自分に馬鹿らしさを感じながらも、 話しかけずにはいられない、この今の状況である。
おじさんがいたらきっと大きな声でつっこんでいるところであろう。
ひときわ目立つ大きな荷物は形からいえば、ベッドであろうと簡単に予測が付いた。 ベットがあるのに、梱包を解かずそのままソファーで過ごすとは・・・・。 はぁ、とため息をついて文句を言おうとしても、本人はのんきな顔で夢の中である。 腹立だしさを必死で隅に追いやって、梱包を解く。

自分でも何故こんな夜中になにが楽しくてこんなベッドの梱包を解かねばならないんだと思うけれど、 一旦目に止まってしまったからにはやるしかない。
今日僕がベッドをこの梱包から出してやらなければこの人は多分、まぁいいかー、なんてあの能天気な脳みそで そんな事を思ってソファーで寝起きするに違いないのだろうし。
・・・・・・・・というか本当にこの人、僕と同い年なんだろうな・・・・?こっちの気も知らずに随分とのんきなものだ。


そんな疑いの眼差しを向けながも、無理に叩き起こす事はやっぱりどうしたって出来ず仕舞いで、 結局ベッドを組み立てて、マットレスを数ある段ボールの中から探しだした。

やり出した事はきっちり最後までやってしまう自分の性格を呪いながらも、 そんなこんなで夜はちゃくちゃくと更けていくのだった。






まどろみをあなたに
「これでよし、と・・・帰りますか」
「んー、う、んんん?ばーなびーさ、?」
「・・・??!!お、起きたんですか?」
「・・・・・・・・あなたの手のひら完全ホールド・・・えへ、んー・・・・・・・・」
「??!!は、離してくださいって!さん!」






(110520)