少しでも綺麗になりたくて、大人っぽさをどうにか出したくて、シャンパンピンクの口紅を塗る。
そうして綺麗になりたいという気持ちにさせるのは、あの人しかいないのだ。
今日は事務処理も終わってジムにいると聞いて、私は急ぐ、早く。早く会いたい。
約束の時間の30分前には着けるようにって、私はジムまでの道のりを急ぐ。


ジムが見えてきた、と思い駆け足になると、 ちょうどトレーニングが終わった所だったのか、自動ドアが開いて、そこからお目当ての人物が出てきたのを確認する。 大きく手を振れば、向こうも気が付いた様で駆けよって来てくれる。

私も、と思い駆けだせば、車道と歩道の段差で躓いて倒れそうになる。 ぎゅっと目をつむれば、柔らかな感触、そして慣れた香りに包まれる。 目を開ければ見慣れた色のジャケットが目に入ってくる。
見上げれば待ち望んだ人の顔が驚きと、そして安堵の色で染まっているのが目に入った。 こうしていつも心配を掛けてしまうのは申し訳ないと思いつつも、彼のそう言った表情を見るのもとても好きなので、 眉を吊り上げようとする彼に抱きつく。



「あんまり急がないでください、こっちがハラハラしますから」
「だって、あの・・・・その、早く会いたくて」
「・・・あなたと言う人は・・・まったく」
「バーナビーさん?」
「いえ、なんでもありませんよ。それより何度も言っているでしょう?呼び捨てで良いと」
「あ、そうだった。バーナビー、お疲れさま」
「ええ、本当に疲れましたよ。あなたの行動にね」
「ご、ごめんなさい・・・」



ため息と共に吐きだされた言葉に、胸がつまりそうになる。 重い石をくくりつけられたようで、息が出来ない。
彼の言葉には不器用な優しさがいっぱい詰められている事も分かっているのに。 バーナビーさんは、誤解されやすいけどとっても優しい人なのだと言う事を私は知っている。
ただ素直に態度や言葉に出来ないだけで、私はそんな彼の優しい所をいくつも知っているのだから。
そんな彼だからこそ私の方から少しは甘えてみてもいいかな、なんて考えてしまうんだけれど。



「・・・・・・」
「・・・・・・・今日は一体どうしたんです?」



しばし無言になったバーナビーさんに訝しげな視線を送ると、 私の顔に影が掛かる。
そうして筋肉質ではあるものの、すらりとした腕が伸び、私の口元をぬぐった。
ぱちり、と目を瞬かせてみると、無表情のバーナビーさんが口を開く。



「あなたにはこんな色似合いませんよ」
「・・・そう、かも。ちょっと背伸びし過ぎたのかな、」
「そのままが1番です」
「・・・え」



思いも寄らない言葉に驚いて言葉を漏らせば、 にこり、と営業でも、カメラが回っている訳でもないのにバーナビーさんは穏やかな表情で笑った。





想わぬ時をさがそうか
「あれ、バニーもうトレーニング終わりか?」
「はぁ?なにもやってないおじさんに言われたくありませんけど」
「いやだっていつもならギリギリまでやってくだろ?どうしたんだよ」
「おじさんには関係ありません」
「ったく、かわいくねーなー。バニーちゃん」





(110608)