「きゃ」
「わっ!」




トレーニングが終わり更衣室から出て外へ向かう途中、曲がり角で、誰かとぶつかりそうになる。 慌てて避けたものの、抱えていたタオルや水の入ったペットボトルは支えきれずに地面へと落ちる。



「もー!どこ見て、・・・って、?」
「あ、ご、ごめんなさい、大丈夫でした?」
「平気、あなたこそ大丈夫?」



曲がり角でぶつかりそうになったのはカリーナさんだった。
きゅっと一番上でポニーテールを揺らしながら、カリーナさんは驚いた顔を見せた。 うん、と返事をすれば、笑顔が返ってくる。
タオルやらペットボトルやらをかき集めていれば、カリーナさんも一緒に手伝ってくれる。 トレーニングウェアを拾い上げてほこりをぱんぱんと払っていると、転がったペットボトルを拾ってくれていたカリーナさんの 動作がかちり、と停止した。



「どうかしました・・・?」
「あ、あなた、あの、これっ、どうしたのよ?!」
「・・・・わっ、そ、っそれは・・・えと・・・っ!」



ぎゅっとタオルを握りしめてしまう。彼女の綺麗なほっそりとした指に挟まれていたのは、まぎれもなく、彼女の そう、ブルーローズのカードで。こっそりと持っている事が今ここでバレてしまった。
え、とか、あ、とか言葉にならない感じで言葉にぐっと詰まって俯きながらぼそりと理由を言えば、 カリーナさんは急に焦った様に早口になってカードを押しつけてきた。



「べ、別にいいのよ、あなたが私のカード持ってても。あなたが欲しければ今度会社からレアカード持ってきてあげるわ」
「本当に・・・・?!ありがとうカリーナさん!」
「カリーナ、でいいわよ」
「ありがとう、カリーナ!」



本人を目の前にしてカードを見られるとか、てっきり引かれるかと思ったけれど、笑顔でカードを渡して くれたブルーローズ、もといカリーナ、は上機嫌な様子でいつものクールな微笑みではない笑顔を浮かべている。 が、そこで笑顔を曇らせて一点に視線を集中させた。



「そ、それ・・・・私のカードじゃない、わよね」
「それ?・・・え?」



きゅっと眉を上げてそういうカリーナの指の指す先を見てみれば、ポケットからはみ出すようにしてねじ込まれている 紙を発見した。
・・・・・慌てて取り出して見てみれば、驚くべき人のカードが出てきた。



「折紙サイクロン・・・・?」
「あんの、折紙ぃいい!!?ちょっとそこらへんにいるんでしょ?出てきなさいよ!」
「カ、カリーナ?落ちついて、これ私のカードじゃないよ?いつのまに紛れ込んでたんだろう・・・」
「だから折紙がねじこんだってことでしょ、カードまで見切れなんてむかつく・・・」
「まぁまぁ、これは折紙さんに返すから機嫌直して、ね?カリーナ」
「仕方ないなぁ、もう・・・」



イワンさんと言えば、そういえばさっきペットボトル買いに行った時に自販機の前で会ったなぁ、あの一瞬でねじ込んだんだろうか。 さすがヒーロー・・・。私が気が付かないうちにポケットにいれるなんて凄い。
とそんなことを思っていると、ぽんぽんと肩を叩かれた。振り返ってみれば折紙サイクロン、もといイワンさんが 立っていた。

さっきカリーナが出てきなさいよって叫んでたのを聞いて出てきてくれたのだろうか、律儀だ。 カリーナの言う通り、本当に潜んでいたとは思わなかったけど・・・さすがジャパニーズニンジャに憧れていると言うだけはある、神出鬼没とは まさにこの事だ。
そこまで考えてから、はっと我に返り握りしめたカードをイワンさんに返す。



「これ、私のポケットに紛れてて・・・!お返ししますね」
「・・・・・その、僕のカード貰って欲しくて、あの、迷惑だとは思ったんですけど、でもっ」
「あのねぇ・・・、男がぐすぐす泣くんじゃないわよ!」
「か、カリーナ!どう、どうすれば?この場合どうすればいいの?!もらってあげたくなっちゃうんだけど!」



返そうとしたら、イワンさんは涙ぐんで小さな声でそう言う。
イワンさんはどうもヒーロー時と別人の様で、なんだかこっちがいじめているかのような錯覚に陥らせる。
そしてすっごい罪悪感が私を包む。
ついつい返そうとしたカードをぎゅっと握る。イワンさんの手もぎゅっと一緒に握れば、俯いていてイワンさんは、 おずおずと口を開いた。



「そうですよね僕のカードなんて・・・いっつも最下位のヒーローのカードなんて、さんが貰ってくれる訳、」
「わーっ!わわー、っ、わ!あの貰う、貰うよ、イワンさん!有難く!」
「っ、本当でござるか?拙者とっても嬉しいでござる!!」
「早っ、切り替え早くない?ちょっと折紙!!ずるいわよ」
「ずるい?拙者はずるくなんか・・・!ただ持っていて欲しかっただけで・・・」
「〜〜っ、!!行くわよ」
「はっ、はいっ!じゃあねイワンさん」
「はい、また!」




つかつかと行ってしまったカリーナを慌てて追いかければ、途中で手に持っていた荷物たちがふわりと宙に浮いた。
わ、と声を出して歩みを止めれば、つかつかとまたカリーナがUターンして戻ってくる。
と、同時に氷で荷物を凍らせて地面に落してしまった。な、どうしたの、カリーナ・・・!
わたわたする私とは逆にカリーナはドスのきいた低い声で呟く。
すると曲がり角の向こう側から、やぁ、と手が見えて、その人物は現れた。


「・・・いるでしょ、出てきなさいよ」
「やぁバレてしまったね、おはようそしておはよう!」
「もう夕方ですよ、スカイハイさん」
「こんばんは?それともこんにちはかな?」
「こんにちはじゃないですかね?そしてカリーナ、私の荷物・・・・」
「放っておけば溶けるわよ。それともファイヤーエンブレムに溶かしてもらう?」
「アリスくん!君がカードを集めていると聞いてね。是非私のもと思ったのだが・・・」
「お前もかっ!!」
「?・・・ローズくん、どうしたんだい?」
「・・・はぁ、なんでもない。ちょっと頭が痛くなっただけ」
「大丈夫?休む?カリーナ」
「ううん、平気・・・」




頭に手をやって、力なく首を振るカリーナに近寄れば、カリーナはかなりおっもいため息を吐いた。
やっぱりアイドルと学校の両立は大変なんだろうなぁ、と思い、私にできる事がなにかあればいいんだけど。
傍にあるベンチにカリーナをそっと座らせながらそんな事を考える。私の能力じゃあ癒せないし、どうしようもないのが 悲しくて悔しい。
隣にいるスカイハイさんみたいにこうなにかキング的なオーラでちょちょいと出来ればなぁ・・・。
・・・・・ん、んんん?スカイハイさん、近いのですが・・・・、




「さぁ、アリスくんは私と一緒に高い所に慣れる練習だ!」
「ひぃい、スカイハイさん・・・!今日はその展開はないと思っていましたよ・・・!ううううううっ」
・・・!」



近いなぁ、なんてのんきに構えていたのが悪いけれど、スカイハイさんは私の両手に自身の手をぴったりと絡ませてそのまま 宙へ浮きだした。そして私の周りをスカイハイさんのカードがくるくると舞う。
まだ室内だからいつもより高度は低いけど、でも怖いし、高いし、無理だし。何度やられても慣れる事はないし、怖い。 カリーナが抗議して声を上げているのは耳に入ってくるのだけれど、下を見たくなくて、ぎゅううっと目を瞑る。

すると、勢いよく掴んでいた手を引きはがされる感覚がした。あまりに素早過ぎて、痛い。痛い。も、もっと優しく・・・! スカイハイさんは握力も強いから、勢いよく引きはがすと引っ張られて痛いんだよ・・・!
目を開ければ能力発動中の青い眼とぶつかった。



「なにを遊んでいるんです?さん」
「いや、あの遊んでいる訳じゃないんですけどね・・・はい、」
「そうですか?楽しそうに見えましたけどね」
「いや、結構切羽詰まってました・・・!あの、ありがとうございます」
「礼には及びませんよ」



しかし飛ぶのも嫌だけれど、このままプリンセスホールドも恥ずかしい。 なんとなく目線で降ろしてほしいと訴えたけれど、そのままじっと見つめられるだけで降ろされる気配がまったくもって感じら れない。
どうにか通じないかと、にこりと苦笑交じりで笑えば、目を逸らされた。・・・・地味に傷つくのですが・・・・。
するとまた慣れた感触、ふわりと宙に浮く、風が包む感触がした。



「バーナビーくん、アリスくんとは最初に私が遊んでたのに・・・!」
「いやいやいやあれ遊んでないですよ結構命がけっていうか怖い、わっ」
「何言ってるんですか、嫌がってましたよ」
「そんな事はないよ。アリスくんは空を飛ぶ楽しさを知らないだけだ、克服、そして克服だ!」
「いや知りたくは、ぎゃっ、」



会話をしながら私は2人の腕の中を行ったり来たりしていた。目が回ってもうなにがなんだか分からない。
この人たち私をぬいぐるみかなにかと勘違いしているんじゃないだろうか。 もう今が浮いているのか抱えられているのかさっぱり分からない。
しかしこの数分間のやり取りの後、混乱してきた私をひんやりとした腕が抱えた。 そして両側には2つの巨大な氷があり、右にスカイハイさん、左にバーナビーさんが氷越しに見える。



「ちょっと私ので遊ばないでくれる?この子は私の・・・・っ!」
「へ?あのカリーナ?どうしたの?」
「う・・・・私の氷はちょっぴりコールド、あなたの悪事を完全ホールドっ!!キューティエスケーーープッ」
「え・・・・・・・・・・・・・・カリーナ?!ちょ、ちょっと・・・!」




そう言い残してカリーナは全速力でその場から去って行った。
あまりの早さに声を掛ける事も出来ず、その場はしん、と静まり返った。 さっきまでうるさかった人達が凍ってしまったので、余計にその静かさは目立つ。
茫然としていた私はその氷漬けの2人を見て我に返る。 慌ててネイサンさんにCALLして、氷を溶かしてもらったのは言うまでもない。 あ、ちょっと火力が強すぎて、バーナビーさんとスカイハイさんの髪の毛が焦げたのも、それはそれで、まぁ、 良かったかな、なんて思って私は、カリーナにCALLを掛けた。









CALL,CALL応答願います

「もぉ、ほんと馬鹿ねぇ。アンタたち」
「ネイサンさん、ありがとうございます」
「ありがとうそしてありがとう!」
「カリーナに氷漬けにされるとか、お前ら何をやったんだよ?」
「おじさんには関係ありません」
「私はアリスくんにカードを渡そうと思っただけなんだ・・・」
「カード?ヒーローカードの事?アタシも持ってるわよ、ロックバイソンのやつ」
「・・・・・」
「なんで黙るのよ、アリスは?誰のを持ってるの?」
「わ、私ですか・・・?えと、折紙サイクロンと・・・、」
「「「・・・・え??!!?」」」
「あとブルーローズと・・・、」
「「「・・・・・・」」」
「それとワイルドタイガー・・・」
「えっ、俺のも持ってるの?アリス?」
「は、はい・・・・あの最初に助けてくれたの虎徹さんですし・・・」
「やー、本当か!嬉しいなぁ、そうかそうかぁ」
「・・・・おじさんとはしばらく昼食一緒に取りませんから」
「私もタイガーくんとしばらく距離を置こう、そして離れよう」
「えっ!」