「ぎゃあああ、恥ずかしい、恥ずかしい!これ嫌ですよ!」
「はいはい、早くね、」
「無理ですよ、こんなのってないですよ!」
「まったく君はいつも無理無理って。スポンサーの意見なんだから仕方ないでしょ」
「基本的に私が無理っていうのは高所だけですよ!だって、でもこれは・・・!」
「ブルーローズよりは随分一般的だと思うけど?それにマスク付けてるじゃない」
「こんなマスクほとんどもろバレですよ!こんなんバレバレじゃないですか」



私は、もう少し露出を増やしては?というどこぞのスポンサーの意見のせいで、急遽作られたと言うスーツを試していた。 変わったと言ってもデザイン上の問題であって、それの試着を今日はしていたのだった。
とりあえず試しで、なんて言って開発部から送られてきたスーツを着た私は、今、非常に戸惑っていた。


ヒーロー事業部での会話はほとんど平行線。
ばんばんっとデスクを叩いてみたって、結果は変わることなく、マネージャーはツーンとそっぽを向く。 マスクなんて付けててもバレるに決まっていると思うのだけれど・・・ううう。
結局のところスポンサーさまさまな、このヒーロー業界では、多少の無理を聞かなくてはいけない事が多々ある。 いや、でもこれ多少じゃない・・・私にとっては結構大きい事だと思うのですが・・・ええ。

まったくもう、と思う度にしっぽがぶらぶらと揺れる。しかし今注目すべきなのはしっぽだけじゃない。 頭の上のこの物体だ。私は恨めしげにそれに視線を送りながら、マネージャーに言う。



「しかもこれピコピコッて動くんですけど・・・ここって無駄な所に力入れますよね」
「君、なかなか言うようになったね・・・いいの!うちはリアリティを追求してるから!」
「しっぽといい、それは今に始まった事じゃないんですけどね・・・」



はぁ、とためいきをつく私を、マネージャーはただなにも言わずに見つめる。
ま、なんとかなるよ、と軽く言われて微笑まれてしまえば、もう反論は出来ないという合図。 やれやれと首を振れば、頭の上の物体もピョコっと反応する。・・・・・・ううう。
唸ってみても変わらない、と、いつもの見慣れたスカイブルーのドレスをぎゅっと握れば、丁度手首にはめたブレスからヒーロー出動要請が 出た。えっ、まさか、え、この格好で行けと?なんという拷問・・・!
ちらりとマネージャーの様子を伺えば、目が「行け」と言っていた。なんとか戦おうと思ったけれど、それも惨敗である。



「まぁまぁ、とりあえず行った行った、頑張れアリスキャット」
「うううう、他人事だと思って・・マネージャー!なんかあったら責任取ってくださいよ」
「はいはい、大丈夫だってなんとかなるし、大丈夫」
「全然大丈夫な感じしませんけど・・・こんな恰好・・・はぁ」














とぼとぼと足取りも重く現場へ向かう。現場近くまでは会社のヘリでマネージャーが送ってくれた。
未だに私には移動手段が徒歩しかないので、仕方ないのだけれど今日の私はちょっぴり違う。 いつもよりも足が鉛の様に重い。 そして反対にいつもは頭が猫の着ぐるみで重いのだけれど、今日は頭は軽い。
いや、阿呆になったという意味ではなくてね。

なんて自分の心の中で反論してみても、まぁ、結果的に今日の出動では、私の猫の着ぐるみは返ってこないし、このスカイブルーのドレスが 前のデザインに変わる事もない。踏んだり蹴ったりというか、タイミングの悪い自分に落ち込む。
ああ、あの時試着していなければ・・・!試着なんてしなければ、いつもの着ぐるみスーツで出動になったのに。 しっぽはいつもだけれど、頭の上のこれと、このドレスは本当に受け付けない。



「・・・・はぁ」



ため息ひとつ、この広く広がる青空を見上げて付いてみるも。状況は変わらない。
というか、もうどうしようもない。 でもこのイメチェンで私だって分からなかったらどうするつもりなんだろう、もはやイメチェンというか 違うヒーローにも見えるんだけど。 マネージャーは親指立ててヘリから見送ってくれたけど、本当に他人事っていう顔だったぞあれは。 1番恥ずかしいのは私だってことに気が付いてほしい。



「ここは一般市民は立ち入り禁止ですよ、避難してください!」
「え?」
「ん・・・・あれ?アリスさん?」
「ひぃ・・・!」
「お前・・・・、」



バイクがキキィッと音を立てて止まる音がして、嫌な予感。まさかもう同業者にあってしまったんじゃ・・・、と 頭が真っ白になる。てゆかそうだよね、ここ一般市民が立ち入りしないように、封鎖されてる訳だし。
いきなり後ろから声を掛けられて、肩が跳ねあがる。恐る恐る振り返ってみれば、見慣れた顔が飛び込んできた。 思わず口から声にならない声が洩れるが、後ずさりたいというかもう帰りたいと言うか・・・! とりあえず顔を隠して、穴に入りたい!今ならかなりの早さで走り去れる気がする!
じーっと見てくる2人に耐えきれずに、しゃがみこむ。




「うわぁああああ!!これは違うんですよ、違うんです・・・・っっ!!!」
「うわぁああああ!!ってなんだよ、おい、アリス?」
「これはまた・・・思いきった事をしましたね・・・」
「会社のせいです、スポンサーの、あ、スポンサー様のせい!」
「まぁまぁアリス、似合ってるし、かわいいぜ?」
「人気上げる為なら仕方がないですね・・・まぁ、似合わなくもないんでいいんじゃないですか」
「おい、バニーお前はなんでそうやって素直に言えないのかねぇ」
「うるさいですよ、おじさん。にやにやしないでください」



しゃがんで俯いていた顔を上げてバーナビーさんを見れば、 ふいっと顔を背けてしまった。そんなバーナビーさんを虎徹さんは微笑ましそうに見守っている。 やっぱりなんだかんだいっても2人はコンビだから仲がいいんだなぁ・・・。 コンビ組むのもなかなかおもしろそうだ。


「とりあえず乗ってください、現場まで一緒に行きますよ」
「わ!本当ですか?」
「俺の前座るか〜?」
「セクハラは止めてください、賠償金どころか慰謝料までなんて払いきれませんよ」
「いや、別に嫌じゃないですけど・・・」
「はぁ?!あなたはもっと慎みというものを・・」
「おいおいバニーちゃん、いいのか?時間迫ってるぞ」
「〜〜〜っ、じゃあ僕の後ろ乗ってください、捕まって!」
「ひゅー、これでトリオだな!」
「助かります!・・・お願いします!」



遠慮なくバーナビーさんのバイクの後ろに飛び乗ってタイヤに巻き込まれないように、しっぽを上にくるくるっと上げて腕に巻きつければ、 虎徹さんは感嘆した表情でしっぽを見つめた。
すげぇ、それ自分の意思で動くんだなぁ、なんて言われて、変な所ばっかりこだわってる会社なんですよねぇ、と苦笑で 返す。今だけ付けているこの猫耳だって自分の意識でピョコッと動くのだから、凄い技術力である。 全ッ然嬉しくないけど!喜ばしい技術力じゃないけど!
とそこまで頭で考えてからなんだか視線をしっぽに感じた。まぁ、言わずもがな、虎徹さんの視線である。



「・・・触ります?」
「セクハラにならないなら」
「そんなの、なりませんよ。はい」




たしたし、っとしっぽを虎徹さんのスーツに当てれば、おおー!と歓声が上がる。
柔らかい毛並みが付いたしっぽは猫の毛そのものの感触だ。私も最初に触った時はあまりにリアルでびっくりした。 そしてそれを付けろと言われた時はさらにびっくりした。

そんなこんなでしばらくひょいひょいとしっぽを動かして虎徹さんと遊んでいれば、 ちょっと何やってるんです?なんてバーナビーさんのちょっと怒った声が前から聞こえた。 仕事中なのに遊んだから怒ったのかなぁ。本当にバーナビーさんて、仕事熱心だよね。 いや、お前も見習えよって話なんだけどね。まぁ私は私なりにゆっくりなペースでね!うん!
未来の自分を思い浮かべて、力強く頷いた所で、また激しいブレーキでバイクが止まった。 どうやら現場に着いたらしい。虎徹さんが荒い運転に文句を言うが、バーナビーさんは素知らぬ顔だ。
でもバーナビーさんって丁寧な運転しそうなのになぁー。あれかハンドル握ると人が変わると言う奴だろうか・・・!

ありがとうございました、と言ってバイクから降りようとすれば、バーナビーさんが手を差し出してくれる。 今日はスーツ違いますから、慣れないでしょう?と気遣いを見せてくれるバーナビーさんはやっぱりなんだかんだ言っても 優しい。その気遣いが嬉しくなって、笑い返せば、バーナビーさんは少し困った顔をした。
少し言い淀んでから、何かをバーナビーさんが口にしようとしたその時に突如風が吹いた。





「ひゃ、」
「やぁ、今日はタイガーくんたちと一緒なんだね!」
『おおっとスカイハイの起こした風がアリスキャットの・・・・!』



いきなり現れた風に目を瞑り、それからそっと目を開ければ、目の前にシルバーのマスク。
猫耳のついた私の頭をくしゃくしゃっとしながら撫でるその姿はKOH、スカイハイだった。
そしてスカイハイの行く所にHEROTVが張り付いている。
頭を撫でる事を止めて、ぎゅっと右手を握られ、風が周りを包む。 しかし私はいつもと違う丈の短いドレスな為、スカート部分のふわっと感が全く違う。 その為風が吹くと、いとも簡単にまくれ上がってしまうという事をすっかり失念していた私は、慌ててスカートをきゅっと押さえる。


「っ!・・・今日も見切れたぁあああああああ!!!!!」
『ここで折紙サイクロンの強引な見切れが入ってしまいました。あああ貴重なカットが・・・これは残念!!』
「折紙さん、よくやったよ!!」
「ドラゴンキッド殿・・・拙者のブログは炎上決定でござるよ・・・」
「お前は頑張った。アリスを守ったと言ってもいいんだぞ」
「ロックバイソン殿・・・!拙者はアリスキャット殿のヒーローになれたんでござるな?!」
「アタシたちは乙女の味方よ、ねぇ?」
「そーよ。折紙がやらなきゃ、私がカメラを氷漬けにするところだったわよ?」



ギリギリの所で、 現場には他のヒーローたちがいた為、フォローしてくれた。特に折紙さんには感謝の言葉しか出ない。
ブルーローズのフリージングリキッドガンを向けられたスカイハイさんは、「す、すまない!そして申し訳ない!!」慌てたように風を収めた。 ちなみにスカイハイさんのあの風は無意識だろう。 あのスーツの下に浮かんでいるであろういつもの笑顔を想像してしまう為に、どうしても怒る事はできそうにない。

いい職場の仲間の人に囲まれて良かったなぁとほのぼのとしてしまうが、スーツの改良(猫耳はやっぱり 羞恥に耐えられそうにない)、または スーツのデザインの変更(主に丈の短さ中心に露出を減らす)は申請すべきだと、私は心からそう思ったのだった。








パステルピンクは

   スカイブルーに散り


「バニーちゃんどんまい」
「・・・・・・別に、気にしてなんていませんよ」
「ここだけ空気おっもいんだけど!ちょっと!アリス?」



アンケートで頂いたネタを元に書いてみました!ありがとうございました!(110630)