「こんな時間に何をしているんだ?!危ない、とても危険だ」
「わっ!な、あ、スカイハイさん・・・・?!」
「同行者は・・・いないようだし。こんな時間に1人では」
「あーバイト交代まで少し掛かっちゃいまして、もう夜中ですね・・・」




暗い夜道は少し心細い、なんて考えていた時だったから、いきなり上から何かが落ちてきたと 思った私はついつい身構えて微妙なファイティングポーズを取ってしまった。
一歩下がってそれから顔を上げようとした時に私に掛けられた声はなんとも聞き覚えのある声だったので、 私はこわばっていた顔をようやく和らげる事が出来たのだけれど。




「と言う訳で、私が君を家まで送って行こう、送り届けて見せる!」
「はい・・・・・え?!!!?」
「もちろん、ひとっ飛びだ!」
「いや気合入っている所あれですけど、私はゆっくり地べたを歩きますよ?」
「・・・何故だ。いつまで経っても君には空を飛ぶ楽しさを分かってもらえない・・・・」
「う・・・その、そんなしょんぼりしても無駄ですからね!歩きます!」




どうしてかこの人は犬の様に見えてしまう事が多々ある。
今もまさに頭にはしょんぼりとした様に垂れた犬耳が見えてしまうのだ。 そのしょんぼりとした人を放っておく訳にも行かず、私はついつい気遣って話掛けてしまうのだ。 高い所が苦手なのは相変わらず変わらないのに。
たまにはゆっくり歩きましょうよ、なんて言ってみれば、彼の表情はぱあっと明るくなった。
いわく、君といればなんでもいいとのことだが、スカイハイさんの思考はいまいち良く分からないままだ。




「バイト?ですか、コンビニのレジ打ちですよ。あ!この前は虎徹さんとカリーナとバーナビーさんが来てくださって」
「そうなのかい?今度私も行ってもいいだろうか、あ、もちろん邪魔はしない!約束する」
「邪魔じゃないですよ、是非いらしてください。その方が私も嬉しいですし」
「それは嬉しいな、是非行くよ」




にこにこーっと一気に表情が笑顔に染まるのを見て、この人の素直さは本当に尊敬に値するなぁと思う。
いつもは私の苦手克服のためにやたら空に誘ってくれるのだけれど、それを抜きにすれば癒し系であるし、 爽やかであるのでさすがはKOHと言ったところだろうか。
なんてにこやかに会話をしていたはずだったのだ。



「では、空に行くとしようか!」
「いやいやちょっと、何故今の会話の流れでそうなるんですか?!」
「夜の空はとてもきれいだ。それを君に見せたくて!」
「綺麗なのは分かりますけど、なにもそんなに空に、高い所に行かなくたって・・・」
「だが・・・」
「地上をゆっくり歩きましょ?ほら、スカイハイさん!」
「う・・・すまない・・・」




差し出した手をゆっくりと握るスカイハイさんは何かを言いたそうにためらう素振りを見せる。
こういうときは 話をしてきてくれるのを待つしかない。
優しい温度で包まれたこの手の持ち主が少しだけ落ちついて整理できるような時間をあげるのだ。 少しだけ手を繋いだ状態のままゆっくりと先を歩くとしばらくは大人しく付いてきていたスカイハイさんが 歩みを止めた。
繋がっていた手が後ろへ柔らかく引きとめられる。
そこで私は振り向いた。スカイハイさんは視線を彷徨わせた後に、ちょっと小さな声でぽつぽつと語り出した。








「君はその、他の皆ともとても仲が良いから」
「・・・?はい、ええと良くしていただいていますね?」
「だから私はついつい君を空へと誘いだしてしまいたくなる」
「・・・、」
「空では私は君を独り占めできるからね。それでついつい嫌がる君を空へと連れて行ってしまう」
「スカイハイさん・・・」


そこで一旦まっすぐ向けていた目線を外すスカイハイさんは、うん、と一回頷くと、もう一度私と目線を合わせた。
肩をがしっと掴まれて、大層真面目な顔で切り出す。



「・・・こんな私を君は嫌いになるだろうか?!」


その真剣な眼差しに、私は思わずふっと笑みをこぼしてしまう。
こんなに馬鹿正直に自分の気持ちを言ってくれる人なんて、こんな優しくて誠実な人を嫌いになる人がいるはずがないのに。




「嫌いになんてなりませんし、なれませんよ。いつもありがとうございます」
「あ、ありがとう、そしてありがとう・・・!」
「へっ、あのスカイハイさ、ちょ!わっ!」




お礼を言い終えるかどうかと言う所で肩に置かれていたスカイハイさんの両手は私の腕の下へとまわり、そのまま軽々と 私を持ち上げた。
不安定な姿勢で焦るものの、それ以上に高くはする気がないのを感じて、少し安堵の息を漏らすけれど、 現在の私はそのままスカイハイさんによってぶらーんと持ち上げられたままである。
目線で気付かせるということがこっちに来てはまったく出来なくなったので、私は口を開く。




「あの、スカイハイさん!」
「ん?なんだい」
「下へ降ろして頂けますか?」
「え、い、嫌だったかい?この高さでも怖いとか」
「違います、あのちょっと恥ずかしいというか」
「なんだ!じゃあ良かった」
「いやいや良くないですよ、降ろしてくださいってー」
「じゃあ君が、私の名前を呼んだら降ろす事にしよう」
「え?スカイハイさん」
「・・・・」
「あれ、スカイハイさん?あの?」
「・・・・・」
「・・・・・あ、キースさん!」
「よくできました!」




よくよく考えてみればスカイハイさんを本名で呼んだ事はなかった、と振り返って思う。
他のヒーローさんはちょくちょく呼び合っていたけれど、スカイハイさんは最初の印象が強すぎて、いつまで経っても スカイハイさんのままだった。実はそれを気にしていたのだろうか、ちょっと悪い事したかな?なんて思ってしまう。
でももっとよくよく考えてみれば、私の本名もスカイハイさんに呼ばれた事はほとんどない・・・うん、ないよね・・・。
じっとスカイハイさんの青い青い目を見つめていれば、スカイハイさんも、ん?と首を傾げる。
これは分かってないな、と確信めいたなにかを感じて、私もですよ、と言う。 するとスカイハイさんは急に赤くなったり青くなったりでわたわたとし始めた。




「私も、キースさんに名前、呼ばれてないです」
「・・・・え?・・・・ああ!そうだったかな?」
「そうですよ、私の名前呼んでないのでこれでおあいこです!」
「・・・・・・、・・・・」
「え?ちょ、キースさん、どうしたんで、」
「ほぁあああああああああちょおおおおおおっ!!!!」
「だっっ!!!!い、いた、痛い・・・!」




突如として、目の前いっぱいにいたスカイハイさんが一瞬にして消えて、残るは綺麗に光る黄色い光。
茫然としてしまっても仕方ない事だと言える。何が起きたんだ?KOHのスカイハイさんを攻撃なんてなかなか すさまじい攻撃力だ。暗闇でぱちぱちと光るジグザグの光は、どこかで見覚えがある気がした。
その明るすぎる光を纏った何かが、スカイハイさんの元から私の方へと飛ぶように移動してきた。
そしてそのままぎゅっと抱きしめられた。




「わぁああん、さん!無事?大丈夫?ボクびっくりしちゃったよ!」
「その声・・・ホァンちゃん?!どうしたの?」
「どうしたもなにもないよ!コンビニに肉まん買いに行った帰りにさんを見かけて・・・そしたら男に迫られてるから・・・っ!」
「え?ええ?!ほ、ホァンちゃん、あの、」
「なに?!ほんと最近の男は許せないよね!さんは隙がありすぎるんだよ。でも大丈夫ボクが全部守るから!」
「その・・・・ホァンちゃ、」
「うう・・・・酷い!私が何をしたって言うんだ!キッドくん!」
「え?あれ?スカイハイ〜?なにしてるの、こんなところで」




ぎゅっとされたままでの会話が終わって、ようやく私の肩からホァンちゃんの顔が離れる。
今の状況がまったく訳が分からないと言った顔で首を傾げるホァンちゃんに、私は簡潔に説明をする。
今一緒にいたのはスカイハイさんだったんだよ、と。




「ええええ、ごめん、ごめんねスカイハイ!ボクてっきり・・・!大丈夫?」
「だ、大丈夫だとも!少しひりひりするが、そんな事で私はへこたれたりしない!」
「さすがスカイハイ!すっごいね!」
「ははは・・・ははは・・・はは、」







ジャッジメントはいかに!

「ほんとびっくりしたよー、まさかスカイハイだとは思わなかったもん!」
「こっちもびっくりしたよ、まさかこんなところでホァンちゃんに会えるなんて」
「えへへ、ボクもさんに会えて嬉しいよ!最近現場でもなかなかゆっくり話出来なかったし・・・」
「そうだね。大体ばたばたしててゆっくりできなかったもんねぇ」
「うんうん!タイガ―とかバーナビーはなんだかんだで一緒にいるし、カリーナもそうでしょ、ボクだけあんまり さんと遊べてない!って思って・・・」
「ホァンちゃん・・・・!」
!私も、私もそれは思う!」
「スカイハイはいつも抱っこしてるからいーじゃん!ボクと折紙さんなんてほとんど接点ないんだよ?!」
「す、すまない・・・これからは頑張って気を付けるように・・・しよう・・・」
「じゃあさんを空に持ってかないでね!」
「ど、努力する・・・・そして悲しい・・・」






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