「あの!今日ってお仕事終わってから空いてますか!!??」
「へ?イワンくん?どうしたの、いきなり」
「拙者と、すしバーに行って頂きたいのでござる!!」
「なんだそう言う事!うん、いいよー。6時とかでいい?」
「・・・・・・・あ!!は、はい!いいんですか」
「いいよー今日はバイトもないし大丈夫だから。楽しみだねー」
「はい・・・ありがとうございます!」




ジムでのトレーニングが終わってトレーニングルームを出ると後ろから声を掛けられる。
振り返ってみれば、同じくらいの目線で、イワンくんがその延長線上に見えた。 ジム終わりな為ラフな格好のイワンくんは、すしバーへと誘ってくれた。
そういえば、今日はバイトもなくて、今夜の用事はなにもない。とはいってもいつもバイトがなかったら 予定は大体ガラ空きなのだけれど、引越しの段ボールを1人片付けるのもめんどく、いや、寂しくて、 どうしようかなぁ、なんて思っていた時のこのお誘いはとてもうれしかった。















ようやくタイミングが合って、ようやくさんを誘う事が出来た僕は、うきうきどきどきで、 ジムの前の扉の前にそわそわと立っていた。
ジムのトレーニング用のジャージを脱いでシャワーを浴びて、着替えてからの集合ということで、 準備は万端だ。
そのままドアの前に立っていると、奥からさんが飛び出してきた。 ごめんね、遅れちゃった!!と走りよってくるさんの本日の装いは、かわいらしいワンピースである。 いつものヒーロースーツみたいなものよりかシンプルで、裾がひらひらと舞う。 可愛さに卒倒してしまいそうになった。だけど今日はここで倒れている訳にはいかない。 今日は自分が彼女を引っ張っていかなくては!と妙な使命感に駆られてしまう。




「ええ、と!じゃあいきま、っ!」
「・・・・っ!危な!!イワンくん前見て、前!」
「うわぁああ!」
「あっぶな、今の車ぶっとばしてたね・・・!イワンくんギリギリかすってたよ・・・!」
「は、ご、ごめんなさい・・ちょっと浮かれすぎました。あはは」




前髪をぶぅんと風が持っていく感覚に少し冷や汗が出る。
今のぶっとばして行った車に少し見覚えがある様な気がするんだけど、気のせいだよね?なんて 思いながら2人で歩きだす。 オススメのすしバーはそこまで遠くはない。案外会話を続けていたら、一瞬で着いてしまったと思ってしまうくらいの、 距離だ。多分さんと一緒にお出かけと言う事で、余計に落ちつかなくて、テンションが上がっているんだろうけど。
カウンターに2人で腰かければ、何にします?と聞かれるので、適当に美味しそうだなぁと思うものを選んでいく。 キラキラと光るスシを目の前に、さんも、目を輝かせている。
いつもはこんなに近づく事がほとんどないから、すごく新鮮で、嬉しくて、自然に笑顔になってしまう。彼女が喜んでいると、僕もすごく 嬉しい。こんな単純な感情を今まで感じた事がなかったから、僕自身、戸惑う事も多いんだけど、それでもこの想いが 大きくてどうしようもない。


「わぁああ、おいしそう!」
「ここのお店のスシはとっても美味しい事で有名なんですよ」
「そうなの?!!うわぁ、こっち着てからお寿司なんて食べてないから久しぶりで嬉しいなぁ」
「喜んでもらえて嬉しいです」
「・・・イワンくん、ありがとうね!」
「いっ、いえ、拙者は、ぼ、僕は別に・・!」




伸びてくる手にぎゅっと目をつぶれば、横から伸びるそのさんの手は僕の頭の上に置かれていた。
その感触に目を見開けば、さんも驚いた様に目を瞬かせる。
ごめん、つい、なんて少し困った様な顔を見せるさんは、とても可愛らしく僕の目に映った。
さっきから可愛いしか言ってない気もするけれど、可愛いのだから仕方がない。これで僕より年上でバーナビーさんと 同い年とはとても思えない。日本の血ってやっぱり神秘に包まれているんだなぁ・・・。
そんな事を緩む頬を押さえながら考えて、ふ、と隣のさんの皿を見ると、そこはもはや、テーブルではなく、 皿で埋まる事態に陥っていた。いつもはお金がない、と言ってあまり食べないのだと言っていたのにどうしたことだろうか。 びっくりして訳を聞くと、彼女はあっけらかんと答えた。



「今日はボーナス入ったからいくらでも好きなもの食べられるんだよ!!はぁ、幸せ〜」
「え、そうなんですか?」
「うん、なんかアリスのグッズ展開で売り上げがそこそこいったみたいで・・・!ふふふ、おいしい」
「・・・・!よければこっちのマグロもどうぞ!」
「いいの?ありがとう!あ、おいしい。んー!止まらない!!」
「喜んでもらえて良かったです」
「あ、じゃあこっちの鯛、イワンくんにあげる!」
「い、いいんですか?!ありが・・・ってうわぁっ!」
「わ、あれ、この鯛凍っちゃってる。おじさん、交換してくれます?」
「す、すみません、」
「イワンくんがなんで謝るのー?ほら交換してもらったから今度は大丈夫だよ」
「ありがとうございます・・・」




そんなさんと、スシを交換で食べ比べをしている時にふいにお寿司が凍りつく事があった。
ジムから出た時といい、今の事といい、なんだかいつも一緒にいる人たちの影がちらつくのだけれど、気のせいだろうか。 僕は二度目の冷や汗が背中を伝う感覚を覚えた。
もしかして、なんて気持ちを振りきって、どうかした?なんて聞いてくるさんに向き直って口を開いた。




「それにしてもさんの所、グッズ展開とかもやられてるんですね」
「なんか会社が勝手にやってるみたいで・・・でもボーナスくれるっていうからそれにつられて・・・!」
「へぇ、そうなんですか・・・!僕もアリスさんのグッズ欲しいなぁ・・・って無理ですよね!忘れてください!」
「え?」




グッズ展開なんてしているとは思わなかった僕にとって、さんのお話はびっくりするものばかりだ。
あの会社ってそこまでヒーローに積極的ではなかったはずだし、まぁ宣伝になればいいものだ、くらいの ものだった気がしたからだ。予想外にさん、アリスキャットの人気が上がってきているということなんだろうか? でもグッズ展開って・・・さんのグッズかぁ・・・いいなぁ、なんて願望が知らず知らずの内に僕の口から 漏れ出ていたようだ。
慌てて否定するものの、さんの耳にはしっかり届いていたらしく、首を傾げられてしまった。




「イワンくん、グッズもしかしてもらってくれたりするの?」
「いや、!僕は別に、そんなつもりじゃ・・・・って、え?」
「あの、良ければ会社に言ったらくれると思うし・・・あの、本当によろしければって感じなんだけどね」
「え!!い、いいんですか!!!本当に?!」
「そこまで喜んでもらえる代物じゃないと思うんだけど・・・あはは、恥ずかしいし・・・」
「喜んで頂きたいでござる!!あ、・・・えと、欲しいです」
「そこまで言ってくれるなんて、嬉しいなぁ。今度持っていくね」




にこにことそういうさんにこくこくと頷く。
まさかくれるとは思っていなかったけれど、とても嬉しい。今日は本当にいい事ばかりだなぁ。
それから僕たちはスシをこれでもか!というほど食べて、お店を後にした。
送っていきます、というとさんは、私これでもヒーローなのに・・・なんて拗ねてはいたが、 こんな夜に一人歩きはさせられないです、と食い下がるとどうにか許してくれた。




「なんだかんだでヒーローのみんなって過保護というか・・・私だってもう成人してるのに」
「みなさん、さんを心配しているんですよ、きっと!ぼ、僕もそう思ってますし」
「そうかなぁ、でも前なんてパオリンちゃんにまで心配されちゃったよ・・・」
「ははは・・・・パオリンもさん大好きですから・・・」
「そうかな?でも本当に良くしてくれるんだよね、イワンくんも仲良くしてくれるし、」
「と、当然ですよ?拙者と殿は会社も隣通し!困ったことがあれば何度でも!」
「ははは、頼もしいなぁイワンくん。じゃあなにかあったらお願いしちゃおうかなぁ」




にこりと笑いあう僕達の間を何かがものすごいスピードで近づいてくるのが横目に見えた。
最初からおかしいと思っていたんだ、なんかやたら誰かに見られている気もしていたし。 僕はさんの腕を掴んで引き寄せると、戸惑っているさんを背後にまわした。

暗闇から浮かぶ、そのシルエットは二つ、くっ、と目を凝らして見ると、どこかで見た様なシルエットである。
しかもあんまり馴染みのないその2人はいつも険悪なコンビだった気がするんだけれど、今は、そんなことはなく、 絶妙な距離感を保っている。




「折紙、なにやってるの?こんなところで」
「はは、折紙先輩、奇遇ですね、こんなところで」
「え、えと、こんばんは?ブルーローズさん、バーナビーさん。お二人が一緒なんて珍しいですね、タイガ―さんは一緒じゃないんですか?」
「タイガ―は会社で始末書残業中よ」
「先輩はおじさんに何か用だったんですか?残念ながら、まだ会社なんです」




にこり、と笑うブルーローズさんは美しかったけれど、怖い。絶対零度の目だ。
タイガ―さんがいないなら、この2人を止められる人はいない訳だ。スカイハイさんとかいたら、味方になってくれただろうけど、 今夜家でジョンとゆっくりするんだ!って言っていたから、外には出てきていないだろう。
パトロールの時間はとっくに過ぎてしまっているし、なんともタイミングが悪い。


ここは逃げるが勝ち!とばかりに、僕はさんの手を掴んで走り出した。
え?え?どうしたの?!あの2人ってあれ・・・?!と混乱するさんをひっぱって走る。


後ろからびゅんびゅん飛んでくる氷がこれまた恐ろしい。
後ろの方から「さんに当たったらどうするんですか!!」「なによ、私のコントロール力なめないでくれる?!に当てる訳 ないじゃない!」「僕は万が一の可能性を言っているんですよ!!」 と言い争っている声が聞こえてくる。
仲の悪さは変わらないみたいだけれど、それでも2人のNEXTの能力は半端なく 恐ろしい物だ。僕の能力じゃ撃退は無理そうだし。その・・お姫様だっことか出来たら格好良いんだろうけど、なんて 考えてしまってへこむ。でも今はへこんでいる場合じゃない。どうにか逃げ切らなくては明日はない。
どうするか、なんて考えていると、前方から、弾丸のように走ってくる光が見えた。ジャンプして、こちらに飛んでくる この光はよく見るものだった。
その光は僕の肩を支えにして大きく、跳ねる。跳び箱をびょーんっと飛ぶように後方、2人が追ってくるであろう場所へ。 振り返ってみれば、その横顔は良く見た事のあるもので。にっ、と口端が上がるのが確認できた。




「折紙さん!ここはボクに任せて!」
「パオリン・・・!」
「こんな事もあるんじゃないかって思ってたんだよ!外、見廻ってて良かった!」
「え、パオリンちゃん?なんで?」
「ちゃんとさんを家に送り届けてあげてね、ボクはここで!」
「うん、ありがとう、パオリン!」
「ううん、今度はボクともご飯食べに行こーね、さん!」




後ろに向かってガッツポーズのパオリンはまさにヒーロー中のヒーローだ。 たくましく、そしてかっこいい、そう思っていると、隣で一緒に走っているさんが「パオリンちゃん、かっこいい・・・!」 なんて呟くものだから、もしかして僕のライバルは、後ろに迫ってくる2人だけじゃないんじゃ・・なんて危機感を 抱いてしまったのも無理はない。









スーパー

 デンジャラスヒーロー


「てな感じで・・・」
「それはそれは恐ろしかったわねぇ、頑張ったと思うわよ」
「ですよね・・・・!もう息が止まるかと思いました・・・」
「お前も苦労するなぁ、たかだかメシだろ?俺もあいつと焼肉行ったりしてるぞ?」
「え?!バイソンさんもですか?!だ、大丈夫でした・・・?」
「特に変わった事はなかったと思うが・・・・」
「じゃあ僕だけなんですね・・・はぁ・・・」
「まぁまぁ、恋は障害があった方が燃え上がるって言うわよぉ。パオリンにお礼言わなきゃね」
「ええ、そうですね。パオリンとタイガ―さんだけが僕の味方です・・・!」
「そうねぇ、他はまぁ・・・。うん大概よねぇ」
「そ、そんなに酷いのか。俺が無事だったのは奇跡的なんだな・・・!」
「僕が今ここに存在する事がすでに奇跡ですよ。氷のナイフとか、尋常じゃなく早い蹴りが繰り出されるんですよ・・・!」
「じゃあトレーニング頑張らないとね。素敵なオトコになる為に!」
「が、頑張ります!目指せお姫様だっこなので!」
「あらあら、可愛いわねぇ」






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