「ボンジュール、ヒーロー。事件発生!」
「・・・・・・あ、アニエスさん!」
「さぁ、今日もはりきって行くわよ!」

「さ、今日も始まりましたね、いってらっしゃい、アリスキャット」
「ううう、マネージャー私の分のお菓子取っておいてくださいよ!!私の!ボーナスで買ってきたんですから!!」
「はいはい、さっさと行った行った」
「食べないでくださいよ!!絶対にですよ!」



ある穏やかな昼下がりの午後。
私は残り少なくなったボーナスで、かなりの行列を乗り越えて3時のおやつを会社まで持っていった時の 事だった。
いつもお世話になっているマネージャーの分と私の分を机に広げ、紅茶を淹れた時だ。 手首からコール音が鳴り響いた。
・・・・・ううう、いつだって私の穏やかな時間を邪魔するのは 犯人たちである。今日も唐突にお仕事が始まる。
ふぅ平和で穏やかなティータイムが 出来るのは一体いつの事になるんだろうか。
バタバタとする私とは対照的にゆったりと席について、優雅にフォークでお菓子をつつくマネージャーに釘をさしつつ、 「ちゃんと着替えてから会社出てくださいね!」という声を背にしながら椅子から立ち上がる。
まったく調子の良いマネージャーである。あれでいて敏腕とか言われてるのだから、本当に 世の中ってまったく、と思ってしまう。
ちらり、と名残惜しくて私が買ってきた、もう一度言おう私が買ってきたお菓子を ちら見すれば、「早く!行きなさい!!」とマネージャーが言うものだから、 慌てて、入れたばかりの紅茶を少しだけ口を付けてから部屋を飛び出す。
なんだよ、くそぉおお、私が持ってきたのに!!私が朝から並んで買ってきたのに!!!ううううう!!
「アリス―頑張ってくださいねー!ちゃんと私も中継で見ますから〜」そんなマネージャーののんびりとした声が 私の心を突き刺した。覚えてろよ・・・・!マネージャー!!



「はーい、こっちよー!」
「お願いしますー!」
「今日はこれね!プラム色のドレス!シックでいいでしょ?ドレープの所フォーク入れやすくしておいたから」
「はーい」



このフォークはさっきのお菓子を食べる為のものだったのだけれど、衣装の担当のお姉さんが 優しくそう微笑みながら言うものだから、ついついつられて笑顔になってしまう。
今日はプラム色という美味しそうな紫色のドレープがたっぷりしたひらひらなドレスである。 着付けをしてくれるお姉さんの顔色を伺いながら、おずおずと口を開いてみる。



「なんか・・・・いつも以上に・・ふりふりしてませんか・・・・・?」
「んー・・・・?そうかな?いつもとそんなに変わらないよ。ドレープがちょっと多いかな?」
「多いってもんじゃないような・・・」
「そーぉ?可愛いから大丈夫!ん!これで良し!」



リボンをきゅっきゅっと結ばれて優しく背中を押されれば、完成の合図だ。
まぁ多少のふりふりは許そう、丈がまだ短くないなら問題なしとしても大丈夫だ。ギリギリ許容範囲内だし。
お姉さんのステキな笑顔を目に焼けつけながら、ビルから足取りは重めに出る。
いや、これは気分の問題ではなく、重量的な問題だ。酷く動きにくいんだよ、これ。 犯人逮捕どころか、人質になりそうな勢いなのが少し心配でもあるのだけ「・・・でござる、」 ・・・・ん?今誰かの声が聞こえた様な気が。
足元がおぼつかない為にドレスを握っていた手を離して、下を向いていた顔を 上げる。



「イワ、・・・・折紙さん?!どどどーしたんですか!?大丈夫ですか!」
「し、心配ないでござる・・・拙者少し足がすべって・・・」



前を向けばその視線の先にずっこけているイワンくん、もとい折紙サイクロンがいた。
あまりに綺麗にずっこけているものだから、少しの間動きを止めてしまったのも無理はない。 私がフォークを握りしめたままで出てきたのに少し目を見開きながらも、折紙さんは体勢を直す。
イワンくんの会社のビルと私の会社のビルは近いので、出動する際に鉢合わせしたんだろう。 かっちりとヒーロースーツに身を包んだ彼は、しゃきっとした動作で私の元まで来る。



「きっ・・・・今日はっ!よ、よろしくお願いするでござるぅうううう!!!!!」



上がったり下がったりと声が裏返ったりしてどことなく落ちつかない様子のイワンくんだった けれど、私の前でそう言いながらかっちりとしたお辞儀をして手だけを前に差し出す。

・・・・・なにをどうよろしくするのだろうか。
まて、またしてもなにかマネージャーは私に伝えるのを(故意に)忘れていたりするんじゃないだろうか。 とてもありえる。ありえすぎてやばい。















「ほう、そうだったのですか・・・や、私なにも説明受けてない感じで、あはは、すみません」
「いえ、拙者の方こそ唐突で・・・驚きましたよね、僕もすごく驚いて・・・あはは」
「やー本当にマネージャーとアニエスさんは本当に恐ろしいですねぇ、」



あはは、と乾いた笑いを口から零しながらも現場へ急ぐ私とイワンくんであったけれど、 その道中で、私はイワンくんと今日は組む事になっているのだ、とそういう企画?をアニエスさんが立てたと 言う事を聞いた。
本当にアニエスさんは麗しい顔をしてやり手である。 私を落としこむ事に関しては凄い。 なのであそこで会った事は偶然と言う訳ではなくイワンくんが私の所属するザクインハーツ社へ向かってくれたと 言う事だったらしい。
よくよく考えてみれば、今日のドレス、折紙サイクロンに合わせての配色だったに違いない。あの衣装のお姉さんも 含みのある笑顔してたし。なんてこと。
まぁ組むのであれば、頑張るしかない。事前に説明ないのは困るけれど、イワンくんとならうまくやれるだろう。



「改めまして、今日はよろしくお願いしますー。とろいので迷惑かけますけど」
「いえ!こっこちらこそよろしくでござる!!しゅっしゅっ!」
「じゃあさっそく現場向かいましょう!こっちでしたよね」
「あっはい!」
「今日は忙しくなりそうで、・・・・・・・っ!!!」
「アリスさんっ!」



ドレスをひるがえしながらも現場へ向かおうとすれば、なにかにつまずいて転びそうになる。
可愛さを最優先にしたドレスはやっぱり危険だ、何かにつきドレスの裾がひっかかるし・・・。 来るべき衝撃に力を使おうとすれば、想像以上に強い力によって体勢が戻る。
そのまま後ろに倒れてしまいそうになるのを堪えようとすれば、軽く頭が固い何かに当たる。 はっとして上を向けば、イワンくんが私の腕を掴んで支え、引き寄せてくれたようだ。



「あ。危なかった・・・大丈夫ですか?アリスさん」
「はい!すみません、なんだかこの衣装可愛さは重視されている代わりに動きにくくて・・・助かりました」
「・・・・・か、」
「か?・・・あの折紙さん・・・?」
「今日のさんは・・・っ」
「ん?」
「・・・・・・・そのっ!」
「・・・・・大丈夫?・・・・イワンくん?」
「・・・はっ!せ、拙者はなんという事を!申し訳ないでござるっ、殿・・・っっ!!!」



腕を掴んだまま身動きしなくなったイワンくんは固まってしまって、私はそのまま彼の腕の中で おーい!と顔面で手をひらひらと振ってみたりもしたのだけれど、反応はなし。
名前を呼べば戻るかな?と思い本名をそっと耳元で読んでみたりしたのだけれど、効果がありすぎたらしい。
反応が激しすぎて、耳がキーンとした。や、だから本名はあまり大きな声では・・・・、とも思ったけれど、 仮面の中で赤面しているのであろうイワンくんが見てとれて、私は思わず笑ってしまった。
イワンくん紳士だから、密着してた事が恥ずかしいんだろう、きっと。 私もここにきた当初はカリーナとかホァンちゃんの過激なスキンシップにより、赤面することが多々ありましたし。



「なぁーに、いつまでもくっついてんの?折紙?」
「あ、ブルーローズ!!!」
「ブルーローズ殿・・・っ!」
「聞いたわよ、今日コンビ組むって」
「そうなんだよね、というか私以外には情報いってるんだね・・・私、今知ったばっかりで」
「まぁ、無茶せずにやりなさいよ、アリスがピンチになったらフォローするから」
「ありがとう・・・!」



ビルの影から飛び出してきた青いバイクの上から華麗に飛び降りてビシッと指を付きつけてきたのは ブルーローズだった。
唐突な登場の仕方に、ぽかんとする私たちだったけれど、相変わらず今日もかわいい。
今日のこの企画についてブルーローズと話しているとずっと後ろにいたままだったイワンくんがずいっと前に出る。
おお、珍しくブルーローズに対して強気な視線を送っている・・・!というのもブルーローズは基本氷の女王様、生意気 ボディと言われるだけあって、強気な姿勢で売っているヒーローだ。
それに対してイワンくんはあんまり自己主張が激しい方のヒーローではないので、強気な態度を 取るとはちょっと驚きだ。いつも口で負けている事が多いので余計に。あはは、まぁ私もいつもブルーローズには 負けちゃうのだけれど。



「あ、あの!ブルーローズ殿!」
「なによ、アンタも今日くらいは見切れず頑張んなさいよ」
「う・・・っ、あ、あの今日は拙者がアリス殿を守りますから!!!!」
「はぁ!?」
「そ、その今日は僕がコンビを組んでいるので・・・・!」
「えっ、ありがとう・・・!私も折紙さん守れるように頑張るね」

「・・・・・・はい」
「・・・・・・ドンマイ折紙」
「・・・・・・頑張ります、今日も」









つまりは君の盾になりたい


「ところで、なんでアンタ最初ずっこけてたのよ」
「見ッ・・・・見てたんですか・・・・っ!!?」
「もちろんよ、だってアンタとのコンビって不安しか生まないもの」
「・・・・・うっ!どうせ僕は頼りない男ですよ・・・うう」
「そーいう所がダメって言ってるの!ビシッとする!!」
「はっはぃいいい!」
「で?なんで?」
「えっ!言わなくちゃ駄目なんですか・・・?」
「ダーメ」
「・・・・・」
「ちょっと!言いなさいよ!!!」
「2人とも〜、早く現場行かないと〜!」





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