ちょっとした行動を取った時にときめきは生まれる。 それは意識した行動でも、意識していない行動でも僕の鼓動はときめき止まる事を知らないのだから、 これはちょっとした病気だ。それもかなり重症。 にこり、と微笑まれてその口から零れる音を漏らさないようにと耳を傾ける。 パチパチと綺麗な指がボタンを押すのを見逃さないようにじっと見つめれば、いつの間にかその行為は終わっていて、はっと 顔を上げる。こちらに向かってくる手をぼうっと見ていれば、困った様に揺れる瞳が僕の目に飛び込んでくる。 それを見てしまった僕は、なにかを言うまでもなく下を向いてしまうのだけれど。 結構、わりと、不審者っぽいんじゃないかな、なんて洒落にならない事を自分で思って、誤魔化すように少し笑みをこぼしてしまう。 怪訝そうな表情の彼女を見て、あははは、と誤魔化してその手の下に自分の手のひらをぱっと開ければ、 首を少し傾けながらも、きちんとお金を数えてレジの中へと放り込む。 機械音が響いて、ボタンを押せば、お釣りが表示される画面を見て、またその指がお金をつまむ。 そうして渡されたお釣りをちゃりんちゃりんと受け取る。実を言うときっちりあってもお釣りが出るように渡しているのだ。 もしかしてそんなちっぽけな企みはとうにばれているのかもしれないけれど。 僕、とんでもなく阿呆なのかも、なんて考えるが、事実だ。 そんな事を思いながら、自分のなけなしの笑顔を見せながら適当に買ったペットボトルとお菓子を受け取る。 こんな事でどうするんだ自分、前に進まなくちゃと思うけれど、そんな勇気かき集めてもわき上がってきそうにない。 あーあ。こんなことで大丈夫かな僕。 でも「ありがとうございました」と綺麗な音が僕の耳に飛び込んでくるだけで、じんわりと胸が暖かくなるんだよ。 唐突に変化は訪れるものだ。 今日も特に用事はないけれど、なにかを買いにコンビニへと向かう。 なんでもいい、なにかを買う訳ではない、なんでもいいから買うという行為が大事なのだから。 自動ドアをくぐれば、いつもの冷えた空気が僕を包む。 それと同時に穏やかな彼女の声が店内に広がる。 ちらりとレジをみれば、クーラーで冷えてしまっていたのだろうか。レジの前で指をすり合わせて温めようと している彼女が見える。 そういえばコンビニってクーラーが効きすぎている事が多いし。外から来た客には丁度いいのかもしれないけれど、 ずっと店内でレジをしている彼女にとっては寒いのかもしれない。 そんな事を考えて、適当に目の前にあった雑誌と喉が異常に乾いてきたのでペットボトルを取ってレジへ向かう。彼女と目が一瞬だけ合って、でも僕は逸らして 値段をピッと通して、その指がタイプしていくのをじっと見つめる。 「あ、」 「・・・・?」 いつもの指に切り傷があるのを発見してしまった。 つい声に出してしまうと、カチリとボタンを押す彼女の手が止まる。なにか買い忘れたのかな?なんていう心の声が こちらまで聞こえてきそうなくらいの不思議そうな表情でこちらを見やる。 でも決して会話が始まる事はない、だって僕は視線をいつも外すから、キラキラしていて眩しいくらい の君を見ていられないんだ。 のに、 「いつも来てくださってますよね、ありがとうございます」 「・・・・・・・」 「あの?」 「はっ、あ、っい、いえ!!」 何度通い詰めようとも、彼女と僕の間で会話が始まった事などなかったせいで一瞬誰に話しかけているのか分からなかった。 慌てて、上を向けばいつも遠目から見ていた、真っ黒な瞳とぶつかり、瞬間頭にかぁっと血が大逆流して ぐるぐるしてくる。 彼女とは言えば、目の前で笑みを浮かべながら、レジに商品を通していく。 「あ、ヒーローお好きなんです?」 「え、あ・・・・ええと、まぁ・・・」 「そうなんですか!カッコイイですもんね、ヒーロー」 「そ、そうなんです!」 雑誌の値段を読みとりながら、彼女がそう言う。またしても 煮え切らない返事になってしまったのは、実は僕こそが、そのあなたがおっしゃっているヒーローなんですよ、なんて 言えるはずもないからだ。 「や、でも大変ですよね、日中問わずして呼び出されてヒーローやるっていうのも」 「・・・・・」 「身体壊さないようにしなくちゃですねぇ」 「はい、頑張ります!・・・・あっ、いえ、あの頑張ってほしいですよね・・・」 「ええ。本当に」 にっこりと笑うその表情があんまりに穏やかで自然で、かわいいとかきれいとかそんな言葉じゃ表せないくらいに 僕の心はいっぱいいっぱいになってしまって、こみ上げる何かを押さえ切れそうになくて、僕は会計が終わった瞬間 レジ袋をひったくる様にして、熱い熱いシュテルンビルトへと飛び出した。 ときめいちゃってだめ 「ふぅ・・・あつ・・・・」 「お客さーん!お釣り!!お釣り忘れてますよー!」 「(ぎゃあああああああああ)あ、す、すみませ・・・!」 「いえいえ、ではまたのご来店お待ちしてますー!」 本編出会う前の折紙先輩と! (121019) |