とりあえず、今の状況を確認してみる。それしかない。どうしようもない。 そうしてから、ゆっくりと深呼吸をしよう。すーはーすーはー。 深呼吸をしてみても、どうしようもないことには変わりはなかった・・・・どうしようか。 そんなことを思いながら、俺はずきずきし始めた頭をどうにかごまかしながら、目を瞑った。




話を戻して、順番に説明をしてみよう。俺は授業をサボり、中庭の隅でごろりと横になった。 うん、なった。・・・・そして起きたらこのような状態だ。 黒く細い髪が俺の腹の上に乗っかっている。まぁ、ここまで言えばどんな鈍い奴でも この状況が理解できたかと思う。つまり、誰だか知らないやつが、俺の腹の上で 眠っている。とまぁ、そんなところだ。




このような状況になるのは初めてってわけでもないけれど、今俺の腹の上で眠っているのは、 誰だか知らないアジア人だ。中国とか、そこらへんだろうか。入学してくるのは大抵中国人が 多いから。黒髪で、特に特徴もない顔。寝顔はまぁ、顔に合わせて特に言うことなし。 きゅっと瞑った瞳の色はきっと髪をおそろいで、黒だと思われる。 ぼんきゅっぼんってわけでもなく、ほんとーに目立たなそーな、幸の薄そーな奴だ。
眠ったままのそいつの周りには本が散らばっており、ノートも一緒に散らばっていた。手を伸ばし、 ノートの 裏をひっくり返して名前を確認してみると、と書かれていた。 ・・・?中国人の名前ではない。すると・・・日本人だろうか。確か、日本人も このホグワーツに数名いると聞いた。なんでも罪を犯すと自分で腹を切ったり、刀を振り回したり する国らしい、と聞いたことがある。・・・とんでもない国の住人を引き寄せてしまったようだ。




しかし、どうしたもんか。天下のシリウス・ブラック様の腹の上で寝るとは、只じゃおかねぇぞ。 シリウスの目が怪しげにキラリと光ったが、その対象となる相手が眠っているのでは、その凄みも 役には立たなかった。
それなら、と身体を少しずつ移動させ起こすという行動に出たが、相手は大物だった。 そのまま寝続け、あろうことか自分が滑り落ちないようにシリウスのシャツの裾を掴み、 寝返りを打ったのだ。当然起きる気配はまったくない。どういう図太い神経を持った奴なんだろう。 これには、さすがのシリウスも(さすがというほど気は長くはないが)こめかみをひくつかせた。


凄んで見ても、身体を動かしても一向に起きないことに、段々ムカついてきたシリウスは とうとう暴挙にでた。まぁ、もともと短気で有名なのだから、ここまで持ったことが奇跡だと 言っても良いだろう。・・・ってうるせぇよ!




シリウスはそのまま、勢い良く立ち上がった。するとそれと同時に、ぼたぼたぼたっと何かが落ちる音がした。 そこで、シリウスは全てを思い出した。悪戯のためのペンキ弾をシャツの中に隠して置いたことを。 あとで、スネイプにでもぶつけてやろうと隠しておいたのだが、裏目に出た。完全に。 そして運の悪いことに、そのペンキ弾は眠ったままのに降り注いだ。どひゃーん。




シリウスはとりあえず、黙った。もとから黙っていたが、今現在どうすればいいのかさっぱりに なったからだ。自分の腹の上で寝ていたからということはあるが、さすがにシリウスでも 眠っている何もしらないにペンキ弾を降り注いでしまったことに、多少なりとも罪悪感を 感じていた。黒髪はさまざまな色に染まり、赤だの黄色だの緑だの青だの紫だの、言ってしまえば 髪が虹のようになってしまっている。それは頭を流れ、制服のシャツにも染みこんでしまっている。


シリウスは次に自分が起こすべき行動をシュミレートしてみた。 ここは、お前がそんなところで寝てるから悪いんだろ!と言ってみるか、それとも素直に ごめん、と謝るか。脳内でさまざまなことが予測されたが、どちらも適切ではない気がする。 しかしぐずぐずしている間に、この日本人が怒って刀を振り回し出したら困る。今のところ 刀は見当たらないが、魔法で呼び寄せ呪文などを使われたら、厄介なことになる。しかもこの状況、 どちらが悪いかと言われたら、自分の方が悪い気がする。 ペンキ弾によって放たれた色鮮やかなペンキは未だの髪にこびりついたままだ。




そこまで考えて、シリウスは、目を前に向けてはた、と気付いた。こいつ・・・まだ起きてない。 さすがにシリウスが立った状態でシャツの裾を掴んでいることは苦しかったのか、手は離したようだ。 しかし依然として、すやすやと眠ったままである。寝顔に赤や黄色のペンキが垂れ、とんでもないこと になっているが、その状況を知るのは自分のみである。今の所は。


もしかしたら素直に謝ったほうが、も許してくれるかもしれない。そうそう、聞いた話に 寄ると日本人の女は奥ゆかしいことで有名らしい。確か大和撫子とか言ったか。 それを思い出せば、刀を振り回すのは、男だけだった気がする。 全部噂話なので確かな情報とは言えないけれど、それでも自分の首の皮が繋がることに安堵を覚えた。 大和撫子万歳!大和撫子万歳!今までは明るくてテンションが高い女とばかり付き合ってきたシリウス だったが、この時を境に、一気に大和撫子派になるシリウスだった。


シリウスは思った。と言う名の女が大和撫子で有名である日本人でよかった、と。これが 生粋のアメリカ人だったりなんかだったりした場合、とんでもないことになっていただろう。 ビンタにキック、それくらいはするだろう。あー、ほんと良かった、日本人で!


シリウスはすっかり安心しきって、芝生に寝転び眠っているへ手を伸ばし、 その身体を揺すって起こした。がようやく目覚め、眠い目を擦る。 まだ自分にどんな災厄が起こったのかさっぱり分かっていない状況だ。


シリウスは知らなかった。今や日本はその噂からかなり進歩した国であり、大和撫子も随分 やんちゃになっているということを。 そして、そんな日本でも変わらず言われ続けていることで、髪は女の命!という言葉がある。 女の命を汚した罪は深いのだ。

シリウスが、ビンタやキック以外にも腕挫十字固やアイアンクローを受けたのは、言うまでもない。(マジで死ぬかと思った ・・・・てゆうか、なんか目からいろんなものが流れ出して来てるんですけど・・・!)





命知らずのカウントダウン