どうも、視線を感じる。俺は羽ペンで羊皮紙をつつき、頬杖を付きながら思う。 まぁ、俺は悪戯仕掛け人というホグワーツでは知らない者はいないというくらいの、有名人でもある。 自分で言うのもなんだが、容姿も整っているほうだ。そんなことから視線を感じるのは日常茶飯事な事だ。 問題は、それは誰からの「視線」なのか、という事である。俺はその視線を受けて、 表面上は平静を装っているものの、内心は汗だらだらだった。 そんなことも知らずに、視線の主は俺をその瞳で熱く射抜き続ける。 そう、その視線の主、それは俺の想い人である、・であった。 「はぁ、彼女がシリウスをねぇ・・・勘違いなんじゃないの?」 「駄目だよ、本当のことを言ったら」 「だぁああ!うっせぇな!」 いつの間にやら傍にやって来ていたのは、ジェームズとリーマスである。 相変わらずの憎まれ口を叩く奴らである。 まず俺が好きな奴がいるということに、奴らはひとしきり笑った後に冷静になれよ、と俺の肩を 叩いた。 「彼女に悪戯仕掛けたとかじゃないよね、シリウス」 「なんか別の理由じゃないの?だってあのだよ?」 「でも視線を感じてるのは事実なんだよ」 そうなのだ、視線を受けている事に変わりはない。事実だ。俺の妄想でもなんでもなく。 3人揃って彼女を見つめていると、さすがに気がついたのか、ふ、とやわらかい笑みを浮かべてから 前の方へと視線を逸らした。3人は顔を見合わせて、こそこそと話し出した。 「おい、見たか!俺のほうを見て笑ったぞ」 「いやいや、今のは僕を見たね!」 「2人とも頭弱いんじゃない?僕だよ」 「・・・お前ら・・・・実は、」 「えへ☆彼女を好きなのは君だけじゃないってことさ!」 「何がえへ☆だ!ふざけんじゃねぇ!」 「シリウス落ち着きなよ。みっともなく取り乱しちゃって。そういうの彼女好きじゃないと思うな」 「そ、そうか?じゃあ1回、落ち着いて。すーはーすーはーってなんでお前が知ってんだよ!」 「僕が知らないことなんてあると思う?」 「生意気言ってすみませんでした」 分かればよろしい、とリーマスは言い、羊皮紙にスラスラと先生の言葉を書きとめていく。 ジェームズはいたずらっぽく笑って、これからは僕達ライバルってやつだ!と宣言した。 眼鏡のレンズをぶち破ってやろうかと思ったが、必死に我慢する。 ここは冷静に、大人になれ!この2人が相手だろうと、誰だろうと、を諦めるつもりはない。 あの時から、俺はずっと―――― 「なにしてるの?」 「・・・?」 フィルチに悪戯を仕掛けて、 リーマスやピーターを逃がすため、足の速い俺とジェームズでおとりになった時のことだった。 運悪く空は雨模様で、中庭に出た俺は制服に泥や雨が付くのを無視して走っていた。 そこで投げかけられた声。気だるげにその声の方を見た俺は、その声の主を見とめた。 「なに、って逃げてんだよ。悪戯の最中」 「ああ、なるほど。でも凄い顔。雨と泥と・・・大変だね」 凄い顔っていうのはおそらく褒め言葉じゃないだろう。 それでも悪い気はしなかった。何故か。 雨が降り注ぐ音が俺たちを包んでいて、なのに彼女の声だけが俺の耳へと届く。 「別に、大変じゃねぇよ。好きでやってるんだし」 「そっか。うん、じゃあ頑張って。フィルチこっちに来てるよ」 「げ、マジかよ。俺行くから。じゃあな」 「・・・これあげる。逃げ切ること、できるといいね」 「さんきゅ。またな」 彼女が杖を一振りすると、上からタオルが降ってきた。 ふわり、と洗剤の匂いが漂うそれを首から掛けながら、俺は彼女へお礼を言う。 彼女は、俺が「じゃあな」ではなく「またな」と言った事に気が付いているだろうか。 タオルのこのふわりとした匂いと彼女の笑顔は似てる気がした。 その時から俺は、彼女に惹かれていたに違いない。 ジェームズやリーマスもライバルになっていたとは知らなかったが、それで何かが俺の中で 変わるわけでもない。俺は俺なりに頑張るしかないのだから。 「つーか、俺が1番このなかで格好良いし、モテてるからな!」 「シリウス、君はまだまだだね。今まで女の子にしてきた仕打ち、きっと彼女も知ってるよ」 「そうだよ。飽きたら捨て、飽きたら捨てを繰り返してきた君のこと警戒はするだろうけど惹かれることはないと思うなぁ」 眼鏡を光らせながら言うジェームズと、にこやかに微笑みながら言うリーマスの 言葉は俺を叩きのめすには十分な言葉だった。 だが、こんなところで負けるなんて、そんなことは出来ない!そうなんだ、心を改めて に認めてもらえるようにするしかないんだ。だってそれしか俺には出来ないんだからな! 負けることを恐れなければいいのさ 「あのさ、今度「ーっ!」・・・ジェームズ!!」 「悪戯グッズの新作が出来たんだ。よければ「、ここにいたんだ」・・・リーマス、君ね」 「君の探してた本、見つけておいたよ。一緒に読みに行こうよ」 「おい、お前ら。俺が1番に誘おうとしてたのに邪魔すんじゃねぇよ!」 |