「へぇ、それで?悪気はないって?」 「うん・・・じゃない、はい、悪気は無かったんです。手が勝手に」 にこり、にこり。笑顔の攻防戦である。 どこぞの万引きの言い訳かー!と言われそうな言い訳だが、とりあえず当初の目的である交渉の場は 手に入れた。そして昼飯も。・・・ここに行き着くまでにかなりの時間がかかったのはしょうがない、と言うべきだろう。 私は、手にした紅茶を置き、昼飯を食べながら答える。とりあえず食べるか話すか、どっちか にしろと言われたので、食べることに集中したのだが、あまりに食べる時間が掛かるせいで、 とうとう痺れを切らしたのか向こうから話し掛けてきた。 ちっ・・・とりあえず空腹状態ではなくなっ たので感謝はしたいところではあるが、食べたりない。あとで、また美味しく頂くとしよう。 私が空腹に耐えかねて男を攻撃した後の話を聞いてもらおうと思う。 男、エドガー・アシェンバート伯爵は女、リディア・カールトン嬢と馬車に乗り自分の屋敷へと 帰ってきた。玄関先に立っているのは彼の従者、レイヴンさんであった。 そして、馬車から降りていつも通りの行動をこなそうとしたところ、なぜかレイヴンさんが持っていたほうきが 宙を飛んで襲ってきたらしい、すみません犯人私です。 そしてその振りかぶった後にほうきはまっぷたつに割れてしまい、地面には穴が開いた。 被害はかなり大きかったらしい、すみません私が悪かったです。 てゆうかあの口説きはいつもの行動だったのか。 つまり、端的に言ってしまうとエドガー・アシェンバート伯爵に私の姿は見えなかったらしい。 そういう事になると私ってば幽霊?という話になってしまうのだが、 リディア・カールトン嬢――この人はフェアリードクターという役職らしい――彼女によるとどうやら 私は妖精の世界につっこんでしまっているらしく、それで姿が見えなかったらしい。 妖精による妖精のための・・・って違う違う。 フェアリードクターである彼女だけがフェアリー化している私の姿を確認出来、さらに意思の疎通も図れたというわけだ。 フェアリーって年でもないのだが、と自分の中では茶化してみたが、 彼女の瞳は嘘を言っているようには見えなかったので信じることにした。 多分あのドアをくぐった時にフェアリー化してしまったんだろう。やっぱあのドア破壊するしかない。 まぁ、破壊したら帰れなくなるだろうからとりあえずは保留にしておくけど。 彼女の目に逆らうことが出来ないのは、やっぱりそのフェアリー化が問題らしい。 初めて見たときに胸ときめいた気がするから私は妖精なんでしょうね、と言ったら 何故か彼女の顔が赤く染まったので不思議に思ったが、横に座っているエドガー・アシェンバート伯爵の 目がそんな不思議をぶっとばすぐらいに怖かったので、とりあえず大人しくすることにした。あー、刺されるかと思った。マジで。 そんな私をリディア・カールトン嬢の視線が心配そうに見つめてくるので、大丈夫ですよという意味を込め そっと笑ったら、またしても伯爵から射る様な視線を頂いてしまった。こぇ〜般若のようだ。さっきの涼やかな笑顔はどこへ行った?! なんだこの意味のない無駄な繰り返しは。 笑いかけるのもダメらしい。なんて 心の狭い男だ。心の中でため息をついておく。 もちろん表面上は営業スマイルだ。だって昼飯がまだ途中だから。 そんなこんなで話を進めて行くにつれて私の置かれている状況も把握できてきた。 何故今見えるのか、というとなーんか難しいことを言われたが、要するに自分はここにいる!という念を持っていれば 姿が確認出来るようになるらしい。結構単純なんだな、妖精さんってのも、と思ったがそれも限られた力の強い妖精にしかできない らしい。リディア・カールトン嬢が言うには普通の人にも見えるということはかなりの力を持っているらしいけど、実感は まったく沸かない。 先ほどから無視を通していたエドガー・アシェンバート伯爵の従者レイヴンさんは若干気配を感じとったらしいが、それはうっすらとした 気配で無害そうだったので放っておいた、ということらしい。良かった、無視されたわけではなかったらしい。ただよくわかんない生き物と して認識されていたんだな。 あの無表情+視線にはさすがの私でも心を痛めたから。 「それで、私はどんなフェアリーなんですか?リディア・カールトン嬢?」 「・・・アンシーリーコートだよ」 「ね・・・猫が、喋った・・・・しかも二本足で立って紅茶飲んでるし・・・」 「ニコも妖精なの、それであなたをどうするかって相談して・・・」 「なるほど。それでそのアンシーリーコートってのは何なんですか?」 「あんたは悪い妖精だ、でも・・・何となく違う気がするんだ」 「違う、と言いますと?」 「私の感じる中では気配が無害なんです。でも・・・本質的なところが」 「ああ、悪いものだと。カールトン嬢、そう思うのも無理はないですよね・・・私自身怪しすぎると思いますし、」 「いいえ、そんな!えっと可能性として言っているだけで!」 「リディア、ここは僕が一発ガツンと・・・!」 「ちょっとエドガー!余計なこと言わないで!」 「きっちりと言っておかないと!ケルピーみたいな奴だったら困るじゃないか!僕が!!」 「まだ全部が悪いって決まったわけじゃ・・・」 「(僕が・・・ねぇ)いいんですよ、伯爵の言うことはもっともです。それに交渉に失敗したら・・・」 「「「・・・!」」」 どうやらカマ掛けは成功したようだ。どっちにしろ私は悪い妖精、アンシーリーコートと呼ばれる属性のもので、 多分今この2人と1匹は綱渡りをしている気分なんだろう。さっきの私の攻撃力とか身軽さを考えるとそれも 当たり前の反応だと思うけれど。そんなに強いものに変換されちゃっているんだろうか、私。 それにしてもケルピーってなんだ?同属みたいなもんかな?それはまだまだ分からない。そのうちひょっこり会えたりするのかもね。 なんて私は落ち着きを取り戻した笑顔を作りながら2人と1匹の前で昼飯を平らげた。 我ながらなんという順応力だろうか、さすがだ。嗚呼、それにしても私、帰れるのだろうか。 * |