戦。
それは現代っ子で戦争なんてものを経験したことのない私には到底理解できないもので。 でも戦、と聞くと頭の奥がきぃん、と冷たくなる気がする。それは私の中の本能が
もしかしたら何かを感じて いるのかもしれない。




ACT.10






そんな私でも分かることがある、それは死、ということだ。
戦をすればどんなことが起きるのかというくらいわかる。死ぬってことは今まで動いていて 笑って、温かかったものが動かなくなり冷たくなると言うこと。 もう笑った顔を見られないってことだ。

この世界へ来てしまってから、運よくこの城に住まわせてもらって何の心配もせずに 安全に過ごしてきた私が久々に感じた恐怖。この武田軍の人が多かれ少なかれ 死ぬということ。それはとても怖い。



「大丈夫、ちゃん?」





下を向いて俯いている私の様子に気付いたのはまたもや不法侵入してきた佐助だった。
もう、それが日常茶飯事となっている・・・いやいや流されるな自分! そういえばここに来て初めて会ったのは佐助だったっけ。 戦によって傷ついてほしくないと思うけど、戦が仕事のようなものの皆にそんなこと言えるはずない。 この時代の人たちはそれが当たり前のことなんだ。国を、人を守るために戦うということは。 それを思うと止めることなんて出来ない。


「うん、平気平気!だいじょーぶだいじょーぶ!」
「2回言われると、不安になるんだけど」
「え、あーうん。その・・・佐助も戦に行くんだよね」
「まぁ、そりゃあ俺サマ、忍ですからー。旦那のように表立って戦いはしないけど」
「そっかー・・・」
「何?寂しいの、ちゃん?」
「・・・別に」

え、つれないなぁ!なんて言い出した佐助を軽くあしらいながら、
寂しいなんて言えるわけがないって思った。
佐助の言う通りに私はもしかして寂しいのかもしれないけど、そんな勝手なこと言えるわけがない。 幸村と佐助はいつだってこの世界に放り込まれた私を気遣っていてくれたから。 きっとここで私がそんなことを言ったらさすがの2人でも困るだろう。 誰かが困ろうがそんなことはしったこっちゃない、と現代では随分自分勝手な考えをもってたけど この世界に来てそれを少しだけ後悔した。

私はこの世界で拠り所となるところを見つけてしまっていたから。
でも、それは甘えなのかもしれない。



「――ちゃん、大丈夫だよ、心配することなんてなーんにもない!旦那のことも俺様のことも」
「・・・そう、思いたいけど」
「何?俺サマの言うこと信じられない?」
「まぁ、そうだね。だって幸村と佐助は大丈夫っていうと逆に怖い気がするから」
「・・・!」
「だから無茶しないでねっていってもきっと無茶するだろうし」
「・・・ちゃん」
「ん、でもまぁ2人は簡単にやられちゃったりしないと思ってるけどね」
「もちろん、俺を誰だと思ってんのー?猿飛佐助サマだよー?」


にっこりと笑って頭をぽんぽんと撫でてくる佐助を見上げながら、 なんともいえない気持ちになって、胸騒ぎがしたけれど、とりあえず今はこのもやもやした気持ちは 封印しておくことにした。











お昼を食べ終わって片付けをしていると、いつぞや風呂に入ろうとした時に、 案内してくれた女の人に出会った。


「あら、様!お久しぶりでございます」
「あ、あの時はどうも」

どうも、の所でいろいろな意味を付け加えて見たのだが、いやはや素晴らしいほどのにっこりな 満面の笑みで悪びれる様子もない。それどころか、あの着物さぞかし似合っていらっしゃったので しょうねぇ・・・拝見しとうございました。などと言うもんだから、すみませんアレ着た後に 倒れちゃいました☆なんて言えっこない。心の中にしまっておこう。


様、お手伝いいたしますわ。どうぞ皿をこちらに」
「え、いいよ。運べるから」
「いいえ!運ばせてくださいませ」


線の細い彼女に運ばせるなんて悪いと思ったけれど、あまりに強く言うので、皿を2、3枚渡した。 実際のところ私が運んでいた方が絵的に自然なんだけどな。ほら私力あるし。 でも有無を言わせない笑顔に負けた・・・。



「えーとそれで・・・」
「ああ、申し遅れました、わたくし相模と申します」
「相模、さん」
「ええ、どうぞ相模、とお呼びくださいませ」
「それじゃあ、様と敬語もやめてください」
「それは、無理な相談というものでございますわ」
「じゃあ、相模さんで良いよね?」
「・・・非常に不満ですが様がそうおっしゃられるなら」
「ありがとう、相模さん」
「いいえ!わたくしは様のお役に立てればそれでなによりでございます」
「(・・・うーん)ところで最近慌ただしいね・・・ばたばたしてる」
「あと少しで戦が始まりますゆえ・・・」
「うん、そうだね」
様がおいでになられてから初めての戦、さぞかし驚かれたことでしょう」


ここ最近みんな忙しそうで、声を掛けるのもためらう時がある。 戦が刻一刻と迫ってきている今、こんな私なんかに構っている暇もないくらい忙しいんだろう。 相模さんもその1人のようで髪がところどころ乱れている。なのに私に声を掛けてくれて 申し訳ないような、嬉しいような、複雑な気分だ。迷惑じゃないかなぁ・・・。


「武将にとっては戦は腕の見せ所、それゆえ熱が入るのでしょう」
「私はいいのかなぁ・・こんなところでなんの役にも立てなくてぼーっとしてて」
「まぁ!そんなことはございませんわ。様は幸村様の・・・あら、」
殿に・・・相模殿?!」



相模さんが何かを言いかけようとしたときに前から幸村がばたばたと走ってきた。
相変わらず目に優しくない配色だ。そしてその大きな足音によって相模さんの言葉が聞こえなかった。 まぁそこだけ相模さんの声が低く小さくなったのも確かなんだけど、何を言っていたのか 気になるなぁ。くそう、幸村いいところで登場しやがって。 そんな幸村は鍛錬を終えた後なんだろうか、汗が出て髪が若干濡れている。 手にもっていた手ぬぐいを差し出すと、少し驚いた顔をしてかたじけない・・・!と言って 受け取った。・・・そうかいそうかい、そんなに優しいことすると驚くんかい。 やっぱりこういう乙女な行動は優しい相模さんの役目だな。 そんなことを思っているとずっと黙ったままだった相模さんが口をひらいた。


「あらあら、幸村様、様。わたくしはお邪魔の様なので退散させて頂きますわ・・・ほほほ」
「ほほほって、あ!ちょっと相模さん?!」
「なな、なんと・・・!」


皿を私からちゃっかり取り上げると相模さんは音も立てずに去っていった。 しかも凄いすばやい。あの皿の量は食べきった私が言うのもなんだけど凄い量、のはず。 それを音も立てずにすばやく・・・!もしや、相模さん只者ではない?! てゆか、幸村!なんで顔赤くしてんの?気になるじゃない!




「相模さんって一体・・・」
「さ、相模殿には某の幼い頃から世話になっている」
「ああ、どうりでよく知ってそうだったのね」
「え、さ、相模殿が何か?!」
「いや、良く聞こえなかったけど幸村がどうのこうのって・・・」
「あああああああ、そうでござるか!!!もしやその時相模殿は怪しく笑っていなかったか?」
「うん、ニヤリ顔だった!」
「・・・それは相模殿がよからぬことを考えている時の表情・・・!」
「聞かなかったほうが良かったのか・・・な?」
「・・・おそらく!」





あんまり幸村が真剣な顔をして力説するもんだから、少し笑ってしまった。 対して幸村は笑う私を見てきょとんとするばかりだ。なんだか首をかしげる子犬みたい。 そう思ったら余計におもしろくなって笑ってしまった。それから何故だがツボに入ってしまって、 大笑いしてしまった。と、とりあえずヒーヒーいいながら呼吸をどうにか整える。



「そ、そういえば幸村はどうしたの?鍛錬は?」
殿が見えたので切り上げたのでござる」
「あーりゃりゃ、私愛されてんねぇー。でも大丈夫なの?戦近いんでしょ?」
「あああ、ああ、愛などと・・・っ!」
「いや、冗談だし。てゆか質問に答えろよ、オイ」
「ちょ、ちょっとした休憩でござるよ。それに戦が始まれば殿の顔を見ることができぬ」



何かすごく爽やかに格好いいこと言い始めちゃったよ、この人・・・!
佐助が言っても胡散臭いだけだけど、幸村の場合はキラキラしてるよ!天然タラシか! 佐助はもろタラシだけど幸村は天然タラシか・・・!思わぬ伏兵がいたもんだ。 私が幸村の変貌っぷりに驚いていると、幸村は訳がわからぬ、とでも言いた気に また首をかしげた。耳とかしっぽとか見えてきそうなのは、妄想なんかじゃなくても ありえることだと思う。うん、と下を向いて笑う。でも自分はそういう事言うくせに 破廉恥!!はいつも言うんだよね。



でもそれも幸村の言葉を借りるなら戦が始まってしまえば聞くことは当分できないんだよなぁ。 佐助にはああ言ったけど、やっぱり私寂しいんだ。あーあー戦が始まれば幸村と佐助の笑顔は 見ることが出来なくなる。それはやっぱり寂しい。慣れてきたとは言え、まだ帰れるかどうかも わからない今の現状じゃ頼りになるのはやっぱりこの2人だ。これはすごく自分勝手な甘えだけど。 とりあえず補充しておこう。そう思って幸村の手を軽く握った。幸村のごつごつとした手は 豆もたくさんできていて握り心地は良いとは思えなかったけれど大きくて温かい手だった。 対して私の手はささむくれぐらいしかない貧弱な手である。なんか武術とか習おうかなぁ。
あ、そうだ――――――――




そんなことを考えながら一瞬幸村の手を握っていることを忘れるくらいの少しの間があって、 幸村からなんの反応もないことに気がついた。 も、ももももしかしてあの破廉恥!と叫ぶのからは卒業したのか?! なんて思っていると、上の方で幸村がすぅっと息を吸う音が聞こえた。



「うぬぁぁああぁあ!殿、何を!!は、はは破廉恥でござるぁぁああぁぁあ!!」
「(き―――んっ)・・幸村、耳元で叫ぶのはやめろ」
「そ、某っ、女子の手を握るなどっ・・・!!!」
「あーうん。君の十八番が健在でなによりだよ・・・ははは」


ははは、と乾いた笑いをしながら幸村の手を放しながら ごめんごめんと謝る。
そうだった、なんで気付かなかったんだろう。寂しいならついていく。 でも私には戦闘能力がないそれゆえに迷惑を掛ける。なら治療部門ならどうだろう。 それなら迷惑を掛けることなくみんなの役にも立てる!あの能力は(なるべく)使わないってお館様と約束したから 無茶はできないけど傷の手当ぐらいならできるかも! 顔をばっとあげて幸村の顔を見る。




「幸村!私決めた!!」
「何をでござるか?」
「私・・・・戦について行く!!」