どのくらい気絶していたかは、さっぱり分からない。 一応手当てはしてあるみたいだけれど、まだ痛い。いや、そこは当たり前。そんなちょっとの 間で全回復していたら、それこそ化け物だけれど。包帯まみれってのもなかなかレアではある。 ミイラ女、なんてね。いやいや、冗談を言っている場合じゃない。 周りを見渡してみるが、暗い。自分の周りが最低限見える程度の明るさしかない。なんで? そんなことを考えながら、体を起こした私に待ち受けていたものは、現実という壁でした。 ACT.17 どうやら助かった、とか甘い現代っ子みたいなことを考えてはいけなかったのだろうか。 見つめる先はなにやら硬い物質で出来た棒が無数に並んで待ち構えている。ん・・・?私もしかして、こんな所に こんなところに置き去りにされたの・・・!?捨て置き?! そろりそろりと棒の近くに寄ってみる。そこではた、と気付く。扉についている鍵がこちら側にない。 ・・・まさか、まさかのまさか!信じたくなかったけど、私牢屋に入れられてるーっ?! そりゃ、なんていうかそんないい境遇にはなっていないだろうな、とか思ってたけど、よりにも よってこんな展開って・・・。もしかして独眼竜が負けたとか?!んー、それはないよな、多分。 明智の人たち、独眼竜のこと凄い怖がってたみたいだし、実力はかなりのものだと思う。 明智軍の牢だったら、生きては帰れない、満身創痍な上、戦う力もない。絶対絶命だ・・・。しかも 一思いに殺したりするんじゃなくて、さんざん苦しめてから殺しそう・・・えげつない。 どうか、せめて独眼竜の牢でありますように・・・!あの人も見た目ほど悪い人ではなさそうだし、 悪人面は、面だけと思うことにしてさ・・・。 いや、でもなんで牢に入れられてるんだ?そんな要注意人物にでも任命されてしまったのだろうか。 傷だらけで倒れている(一般的にはか弱い)女の子を牢に入れるなんてどんな判断をされたんだよ。 まさかこの硬そうな棒を噛み切るとかそんなことが出来たりとか考えてないよなぁ・・・。 戦場で会った時の独眼竜ならば、傷が治るまでの間ぐらいは布団で寝かせてくれてもいいはず だけど。・・・もちろんその考えが甘いってことは重々承知の上だ。信じてもそれを逆手に取られて 利用されただけかもしれない。あの言葉だって、なにかを企んでいたのかも・・・。 ・・・止めだ。人を疑うことなんて簡単に出来る。 でもそもそも独眼竜はあの後、無事だったのだろうか。敵にいろいろ囲まれてたけど。 あとはよろしく、って任せてブラックアウトしてしまったから、あの時に 起こったことを把握できてない。まぁ・・・独眼竜が無事だったか、なんてどうでも良いことか。 自分が生きている、それだけでいい。酷い言い方かもしれないけど、あの時の独眼竜を助けたのは 自分のためだけだから。牢屋に入っているとはいえ、自分は生きてる。 はぁ、ともかくも、問題はここからどうするかだ。 武田に行かなくては、どうにもこうにもならない。しかも私牢屋入りだし。 自力で脱出は無理である。普通の同年代の子よりはタフな気もするが、脱出のレベルにまでは 至ってない。斬られたら痛いし、捕まえられたら力では叶わない。 とりあえずひんやりとした石の床に腰を下ろし、腕組みをして考えてみる。 考えろ・・・どうすればここから出て、幸村たちに会いに行ける? かしゃん、と音がして、一筋の光が入ってくる。かなり厳重な装備をした兵が入ってきた。 あー、いいにおーい!久々だなぁ、ごはんなんて。嬉しくなる気持ちが湧き上がるのを 感じて、やっぱ自分って単純だな、と思う。ここは素直に待とう。 がしゃがしゃと鍵を扱う音がして、私の牢の扉が開けられる。 無論、ここで逃げ出すそぶりなんてかけらも見せないし、逃げるつもりもない。 兵士の腰には大ぶりの、刀がさしてある。敵うはずもない。ご飯持ってくるだけで、 この警戒ぶりかよ・・・。私、Tシャツに短パンなのに・・・。 そしてその兵士をよく見てみると、着物に紋が入っている。この紋は・・・ゲームの中で 見たことがある。たしかあの独眼竜の紋だ。実際に会った時は血にまみれて分からなかったが、 ゲームの中の彼の背中には確かにこれと同じものがあったはずだ。 じろじろと見る私を不審気に見ながら、兵士は、ご飯が乗った盆を私の前に置いた。 「飯だ。早く食え。盆の方は回収する」 「ありがとうございます」 お礼を言って、いただきます、と小さく言って箸を手に取り食べ始める。 お米と漬物の質素なご飯だったけど、まぁ、牢屋に入ってるんだからそれくらいは当然か。 おなかがすいて、死なれちゃ困るだろうし、ご飯くらいはくれるって思ってたけれど。 そう思いながらご飯をもぐもぐと食べ、最後に水を飲む。 すると、牢の外に立っていた先ほどの兵が、私が食べ終わったのを確認して盆を回収していく。 今はおとなしく、いい態度をとっておいたほうが賢明だろう。 「おいしかったです、ありがとう」 「・・・!」 私が彼にお礼を言うと、素早く間合いを取って、刀のところへ手が行く。 なんだなんだ、私が喋ると呪いでも掛けられると思ってんのか。 死ぬかもしれないっていうのに、何故か私は平静でいられた。 はは、無駄に修羅場に遭遇してるだけじゃないってか。こんな経験したくないよ。 兵の表情には恐ろしいほどの恨みが込められていて、その口からは怒りの言葉が飛び出す。 「なんだよ、なんなんだよ!お、お前・・・お前のせいで、筆頭は・・・っ!」 「筆頭?」 「とぼけてんじゃねぇよ!お前がやったんだろ・・・あんなに酷い傷で・・・!」 「・・・はぁ?」 「そんな態度取れるのも今のうちだからな・・・!筆頭が目ぇ覚ましたら・・・」 そのまま彼は行ってしまった。牢はまた前のような暗闇に包まれる。 わからない事ばかりだ。お前がやった・・・筆頭・・・とぼける・・・。 もしかして、筆頭って、独眼竜のことか? 酷い傷ってことは・・・、あれからやっぱり明智軍と戦闘が起こったんだ。 んで、傷を負って目が覚めてない、と。困ったな、あの恨みようじゃ、武田に行くどころか、 ここから出してもらうことさえ、難しい。さっきの兵の心境は 殺せるもんなら、殺してやりたい、といった所だろうか。普通はリーダーが倒されたらそういう反応を取る。 当然のことだ。酷い傷を負ったのは私だけじゃない、彼もそうだ。 しかし、本当の事情を知るのは独眼竜だけだ。それに、ここは私がどんなに言葉を尽くしても信じてくれる人が いるとは考えにくい。 はぁ・・・本当どうするかな。床は冷たいし硬いし。居心地は最悪。助けてくれる人なんて皆無だし、 独眼竜が起きるまで待つしかない。ここからは出られないし、むしろ出たら、本気で殺されるし、 誤解も解けない。独眼竜がここにいる人たちに私のことを好意的に話をしてくれたらいいんだけどな。 ・・・無理か。自分も利用したんだしなぁ・・・。 私だって出来るだけのことはやったんだけどな。独眼竜だけじゃなくて、 私を褒めてくれる人だって出てもそんなに悪い気はしないのに。 つーか1回完璧に治したのに、今、目が覚めないって私がブラックアウトした後にどれだけ戦ってたのだろう。 あー、眠い。ははっ。無様だな自分。気をしっかり持とう。私は武田に帰るんだから! どうにかなる、なんとかなる!これ以上悪くはならならいように祈るのみだ。 → |