数日経ったのかそれとも数時間経ったのか全然分からなくて、間隔も麻痺してき た頃だった。朝と夜のご飯だけが楽しみな私である。うう…凄く悲しい事になっ ているよ…どうにかならないかな。 相変わらずの暗闇には私を含め数人が牢に入 っているのみだ。一体私以外にこの牢に入っているのは何故なんだろうか、やっ ぱり罪を犯したのか。私の場合は誤解だけど、その誤解が解けなければその人達 が辿る末路にご一緒するだけだ。独眼竜が目覚めてくれれば、どうにかなるはずだ けど。膝を抱えて座れば、まだ独眼竜から受け継いだ傷が残っている。簡単な手当 だけじゃ治るってもんじゃないらしい。はぁ…私が受け継いだ傷 は、どれも結構ひどいものだったけど、それに合わせてさらに目覚めないほどの重症を 負うとは想定外だ。どうやってここを出るか、それが当分の目標ということだ。 ACT.18 そして運命の日は唐突にやって来た。 その日は、新しく牢にやってくる人がいるとかで、ちょっと前から結構騒がしくなっていた。 牢の中とは言え、いつもと違う雰囲気に何か起きるのかと耳を澄ませていたら、 どうやら新しい罪人が来るとかいう、ちっとも嬉しくないニュースを知ったのは 数日前のことだ。 なんでもその罪人はかなりの罪を犯していて、凶悪らしいという話だったので、朝から一般兵の 方がぴりぴりしていたのだ。でも肝心要の独眼竜は目が覚めないとのことだったので、 捕らえて牢に放りこんでおこうということらしい。・・・私と一緒ですね。私は極悪人では ないけど。 かしゃんという音が響き扉が開く。やっぱり外は眩しくて、直視することは出来ない。 自分がこの暗いところに慣れ始めていると思うと嫌気が差したが、今のところどうする事も できないので、それはしょうがない。 極悪人だと言われるその罪人と数人の兵士がやってきた。 顔は俯いていて見えない。歩く音と共に、鎖の音も反射して聞こえる。どの牢の住人も 今日はわりかし静かで、いつもとは違う雰囲気だ。 そこまで考えて、ふ、と顔を上げると、その人たちは私の牢の前で止まった。 兵士は鍵を出して、私の牢の鍵を開ける。いやちょっと待て、ちょっと待てよ。 まさか同じ牢に入れる気か・・・! 「あの、その人と相部屋なんてことはないですよ、ね?」 「なにか問題があるのか」 「・・・な、ないです、別に、特に、問題なんて・・・」 ありありだ。問題ありまくりだろ。 しかし首元に真剣を突きつけられてしまえば、誰だって不服はないと伝えるはずだ。 だって首飛んじゃうかもしれない。いや、確実にそうなる。 私の状況はまさにそれで、なんでまたそんな罪人と私を相部屋にするんだ、ばかやろ!とか 思ったけど、それも同様で伝える事など出来ない。 そろり、とその罪人の表情を伺い見れば、その目には狂気の光が灯っていた。 ・・・まさかの、展開。この目見たことがある。それは明智と同じ目をしていた。 しかし、どうすることも出来ない。彼は、怖い。身体の底から冷気が漂ってくるような、息が出来なくなるような怖さ。 怖さと共に、すぐに壊れてしまいそうなそんな危うさも持っている。 なす術もなく見ていると、その目は一瞬光ったような気がした・・・次の瞬間だった。 「な、何をする貴様・・・っ!」 「・・・っ!!」 「どけっ・・・!」 なんとその男は大胆にも兵士に体当たりをし、剣を奪ったのだ。 その両手には鎖がつながれているというにも関わらず。なんていう考えなし、私でも これでは逃げる事なんて到底出来ないと考えることが出来る。 呆れて、開いた口が塞がらないが、なぜか男は私がいる牢の中へ飛び込んできた。 なんで、こっちに、と口に出そうとしたが、ぐいと首に腕を巻かれ、そのまま牢の外へと 引きずられるようにして歩かされる。 その男はこともあろうに私という、か弱い女子を盾にして私の耳元で叫び始めた。 おいおいおい、私の不運さも相当すぎるなぁ。 平穏に良き罪人としていれば、まだ助かる道はあっただろうにねぇ。多分その男はそんな事 考えもしないのだろうけど。だってこの男・・・狂っている。身体にまで血の匂いが 染み付いているだなんて・・・。むせ返るような血の臭いが気持ち悪い。 というかこれでは、私が今死ぬかもしれない。今一度確認しておくが、私はただの一般人の か弱い何も出来ない女の子である。ここの世界にいる超人どもとは訳が違う。 そんな私が、人質?ああ、もうこれでは死ぬしかない。死ぬかもしれないじゃない。死ぬ。確実に。 男も男で、なんで私を人質に取った。今私は独眼竜を殺したかも〜?しれない〜?とかいう 罪でここにいるんだぞ。普通に考えて、私が死んでも特に困る事なんてない。まぁ、トップの 意見を聞かずに殺してしまったっていうのは多少問題はあるとしても、そんなに困る事では ないだろう。むしろ殺してやりたい、とか思ってる連中に対して、人質としての価値は私にはない。 今この場で兵士達に、どうぞ死んでください、と言われてもおかしくはない。 それを今、この男に全て叫んでやりたい。私関係ないので、どうぞ他の方を人質にお取りくださいませ。 私の心情を欠片も理解してはいない男は鎖をがちゃがちゃとやって鎖を解いた。 おおおおおおい!!!そんな簡単に鎖外れるのおかしくないですか。 兵士のやつら何してんだよ・・・!もっとぎっちぎちに縛っておけよ! 「な、鎖が・・・!」 「俺が何故逃げ延びているか分かっただろう?ひゃはは・・・こんなもんくらいすぐに外せるんだよ!」 「か、囲め!絶対に逃げられないようにしろ!」 「ちょ、ちょっと・・・!」 「ひゃははははは!お嬢さん悪いねぇ・・・!ちょいと道連れになってもらうよ・・・!」 超嫌だ。そう思いながらもじりじりとその男は扉の方へと進む。 しかもマズイのはこの男、自分の身が斬られても全然気にしていない。 斬られる事の恐怖心がないということは、かなり怖い。だって斬っても斬っても 笑い続けているだなんて、どう対処すれば良いか分からないから。逆に自分の身を 斬られても相手を斬り刻もうと考えるから、どうしてもそこに恐怖が湧きあがる。 兵士・・・しっかりしてよ、私を傷つけないように、こいつをどうにかして! 私の必死の心の叫びは届かない。それどころかどんどん斬られていっている。 男自身もかなりの出血だと言うのに、まったく気にしていない。 倒れるのは兵士の方だけで、未だ笑いながら扉へ続く道を歩くだけだ。そしてそれに引きずられてる 私。異様な光景である。とうとう扉まで来た。私にとっては久々の外である。 扉を足で蹴り飛ばした男に引きずられるままに外に出る。 「まぶし・・・!」 「ひゃはは、いい天気だ・・・!」 空は憎いくらいの快晴だった。久々に見た太陽はちっとも変わらず明るく照らしている。 ああ、こんな状況ではなかったらどんなに嬉しかったか。 こんな危うい状況でため息が出てしまう自分は、もういくらかこういう状況に慣れてきてしまっている からだろうか。兵は周りを囲んでいるものの、男がめちゃくちゃに剣を振り回しているせいで 近寄れないらしい。どうする、この状況。どうしようも出来ないのは確かなのだけど、 なんとかしないと、私も危ない。この男と一緒に刺されてあの世行きでは笑えない。 でもどうしてこの男は早く逃げないのだろうか。身軽そうだし、すぐにでも逃げれそうなものなのに。 そう考えていると、隣でずっと耳障りな声で笑っていた男が、一瞬笑いを止め上を見た。 誰かが上から斬り込んで来たらしい。その人の影で太陽が翳った。 ぎんっ、と刃物がぶつかり合う音が間近で聞こえて思わず目をつぶる。 「なんだ、この状況は!てめぇら、なにやってんだ!」 「ほぉ・・・竜の右目の登場とは・・・!ひゃはははは、光栄だねぇ!」 「・・・・・みぎ、め?」 この際、右目でも左目でもいっそ何だって良いからこの状況をどうにかしてくれと願った。 男は何故か喜んでいるし、私と男の目の前に立っている強面な男の人は剣をこちらに構えてくるし。 こ、これはこの男を狙ってるんだよね?私も一緒に殺しちゃおうとか考えてないよね?!と 思わず再確認したくなるような殺気を放っている。 「小十郎様!牢に入れようとした所、逃げられ人質を取られました!申し訳ありません!」 「人質?お前は・・・あの時の小娘か」 「わ、私は、この人に巻き込まれただけなんですよ!」 「ひゃはははは、笑える・・・!笑えるぜ・・・・!おらよっ!!」 「・・・・このっ!」 男は高笑いをかました後、小十郎さん?に一撃食らわせた後、自身に迫っている剣をものともせず 後ろへ下がった。そして後ろにいた兵士を切りつけた後に蹴り倒し、その身体の上に足を置く。兵士の剣が 空中を舞う。下から兵士のくぐもった声が聞こえる。 おいおいおい、2人も人質取るのかよ!しかもこのあからさまに強そうな人相手に! いや、逆に強い人だから2人いたほうがいいのか? 小十郎さんは私が人質だった時には見せなかった動揺をかすかに取った。 ほらー、やっぱり最初から私じゃなくて兵士を人質に取っておけば良かったんだよ。 その動揺を男は瞬時に感じ取り、一気に前へ踏み出し小十郎さんに一太刀浴びせる。 そう、その時男は人質を捨てたのだ。立ち尽くすしかない私と、倒れている兵士を。 今なら逃げる事が出来る。この男、やはり逃げるとかはどうでも良かったのだ。 ただ、殺せれば良かった、傷つけたかった、そういうことだろうか。やはり・・・狂っている。 そう思ったが、どうやら男はこのまま逃げるつもりらしい。一太刀浴びせたことに満足したのか、くるりと引き返して 砦の方へと走っていく。 「小十郎様っ!」 「うろたえるんじゃねぇ!!こいつを掴まえろっ!」 「ひゃははは、最高、最高だよ!ひゃーはっは」 男は砦をいとも簡単に乗り越えると、飛び降りて姿を消した。まんまと逃げる事に成功したらしい。 兵士が追うが、多分、掴まえる事は難しいだろう。 その一方私は、男のように逃げられるはずがないので居心地が悪い感じではあるが、 その場に残っていた。力が抜けて座り込む。 隣にうつ伏せになっている兵士は、よく顔を見ればいつもご飯を運んできてくれる兵士だった。 怯えた顔や、怒った顔しか私の記憶の中にはなかったけれど。兵士の表情を見たら、素人目にも危ない状況と 言うのは分かる。息は荒く、傷は深いのか、血が地面に染み込んでいていやな臭いがつん、と 鼻をつく。傷が白く光りだした。ああ、これは・・・まだ・・・。 だけど自分の身体にはもう嫌というほど傷が刻まれているし、はっきり言って痛いのは大嫌いだ。 それでも、自分に出来る事があるのなら、精一杯やろう。 これは、幸村の傷を負った時に思ったことだ。出来れば、もう彼にあんな顔をさせたくはないが、これも運命なのだろう。 いつから私はこんな風に思うようになったのか、それは、何故なのか、思い出すことは出来ないけど。 私はそっと兵士の身体に手を翳した。許容範囲なんてものはもうとっくに限界を超えている。 だってそうだろう、私はただの一般人で、か弱い女の子なのだから。 視界の隅で、小十郎さんがこちらへ駆け寄ってくる気配がした。もしかして、私が兵士に危害を加えようと するんじゃないかと思っているのだろうか。彼の手に持った剣が太陽に反射して光る。 眩しい、眩しい・・・傷は、光り輝きだした。ああ、この感覚だ。 自分しか出来ない事が、この世界にはある。結局私は甘いのだ、どうあっても見殺しにすることなんて 出来そうにない。佐助がいたら、なんて言うだろうか。幸村にはまたあの辛い顔をさせてしまうの かもしれない。ああ、武田に早く帰らなきゃ・・・! 「どうか、」 紡いだ言葉は最後まで語られる事はなかった。 → |