「はやく起きなさい、」 「んー、もうちょっと・・・・うがっ!お、おき、起きます、起きますってば」 言葉の終わりから0.01秒のすばやさで肘がみぞおちに入る。 青あざばかりの私の身体だけれど、こうでもしないと起きられない自分が情けない。 おはようと、舌足らずな様子でそう返せば、ちょっと黙った後に返ってくる確かなおはよう、の声。 それが嬉しくて自然と笑顔になった緩んだ顔でその声を噛み締める。 なにがそんなに嬉しいのよ、と返されても、まぁ、ぶっちゃけこういう些細なやりとりが嬉しい訳で。 しかしそんな幸せも時間と言うものの前では残酷である。 腕組みをして完璧な装いでいるリフィアはまだまだ寝ぼけ眼な私に向かって言った。 「あと、5分で支度しないと授業始まるわよ」 「・・・うん。早く着替えなきゃ・・・っ、て?今リフィアなんて?」 「あと、5分で支度しないと授業始まるわよ」 「うん、一字一句はっきりとありがとう・・・・授業?」 「・・・・授業」 「・・・・授業?」 「・・・・授業」 その単語が繰り返されるたびにリフィアの端正な顔に青筋が刻まれていく。 いや、だって、そんな信じられなくて。だって授業・・・?朝食の間違いじゃなくて? まだ?を飛ばして要領を得ない私に勢いよく投げつけられたのは目覚まし時計だ。 授業開始まであと4分の所に長針がある、時計。 「うえぇえええええ!!!???なんで起こしてくれなかったのーっ!!!」 「うるさい!何度も起こしたのに起きなかったのは誰よ」 「ひっぃいい、とにかく早く着替える〜。待って待って〜」 「今日は合同授業だから大講堂集合よ。急ぎなさいね・・・じゃ」 ひらり、とローブをひるがえして華麗に去るリフィアの背をぽかんと見送ってしばし間。 その後現状がかなりやばい事を思い出した私は飛び跳ねるようにして制服に着替えた後、ポケットに入れたままになっていた レモンキャンデーを口に放りこんでテキストを引っ掴み、ダッシュを掛けた。 * 「せ、せ、せせ、セーフっ・・・?!」 こういう時こそ魔法って大事だと思う。 しかしながらそんな事は許される訳もなく、授業開始のチャイムが私が大講堂の扉を叩きつけて入った直後に鳴った。 やっぱり信じられるものは魔法でもなんでもない、自分の身体。身体能力だ。 ぜーはぜーは、と呼吸をしているとリフィアが手を振っているのを見つけた。 おのれ、リフィア・・・自分だけ悠々と・・・と心の中で考えた瞬間にリフィアの目が鋭く光った。 ・・・いやいや遅刻は自分のせいだし、リフィアは起こしてくれようとしたんだもんね、うん。と自分をどうにか 納得させると、リフィアは元の輝かしい笑顔を取り戻した。・・・いやはやリフィアこそ本物の魔女だよ。 ずり落ちそうになるテキストを抱え直してから、はた、と周りを見るとかなりの人数。 あ、あれ?今日ってなんの授業だっけ?首を傾げていると、後ろから先生が入ってきて早く座れ、とせかした。 「へ?あ、あぁ。すみません・・・」 慌てて見回すと何故か一つだけぽかんと空いている席があったので、そこに座りテキストを机の上に出して息を吐く。 くすくす笑われているのが聞こえる。あー私笑われてるよー。まぁ、自分もその立場だったらくす、とくらいは笑ったに 違いない。髪は起きたばかりだから少し跳ねてるし、顔は起きぬけだからまぁなんていうか酷いんだろう。 もー、ほんとこんな日に限って寝坊しなくても。と自分に腹が立つけれど仕方がない。 隣を見るとグリーンのネクタイ。・・・スリザリンの人かぁ。と思い隣の人の顔を見る。 「あ」 「・・・・なんだ、その顔は、」 「セブルスかぁ、お隣。だから誰も隣にいなかったんだね、うん納得」 「なんだ、その表情は。納得、とか言って頷くんじゃない!」 「それにしても久しぶりだねー」 「人の話を聞け!」 セブルス・スネイプ。寮はスリザリンで魔法薬が得意な彼。 セブルスはたまに図書館で会っていたので、まぁ顔見知りといえば顔見知りだ。 友達も少ないし、敵も多いし、悪戯は受けるわで色々大変な毎日を送っている彼だ。 私も友達が少ないし、悪戯もシリウスから受けてるからまぁ、似た者同士と勝手に思ってるんだけど。 顔をのぞきこめば、目の下に隈が出来ている・・・かわいそうに。 嫌な噂はたくさんある彼だけど、私自身は別に嫌いとかそういう感情は沸いてはこない。 それは、彼自身を知れば分かる事なのだ。 撥ねつけるどころか、すがりつけば むしろ色々知らない事も教えてくれるし、宿題で分からない所を泣きつけば意外に面倒見良く教えてくれるのだ。 かくいうあの今思い出してもどんよりする、リフィアの罰ゲームを受ける羽目になったあのテストの単元で、 「珍しい」という言葉を漏らしたのも彼だ。 スリザリンでも浮いているみたいだけれど、そういう内面を知ったら彼を取り巻く環境はもっと良くなるのになぁ、と 思うのだけど。 とか思ってたら、彼の眉間のしわが一段と深く刻まれていた。 「貴様・・・・っ!全部声に出てるぞ!!」 「え、あ・・・ごめん。でも別にそんな悪い事思ってないよ」 「ふん!」 「照れなくても・・・」 「照れてなどいないっ!」 マンがみたいにふん!と言って顔を背ける人を初めて見たよ・・・。 慌てて、声をかけては見るけれどますます意固地になるばかりだ。そういうところを直せば凄く良い人になると思うんだけど。 「だ、か、ら・・・そうなんで貴様は一言余計なんだ!」 「は、え、えっと、ご、ごめん!」 頭をぐっと下げれば、頭の上でぐっと詰まる声。そうなんだセブルスは素直になると弱い。 恐ろしいくらい弱い。だから謝ってしまうとそれだけで何も言えなくなる。 畳みかけて言う事はほとんどないのだ。そう言うところが可愛いと思うんだ。 少し笑ってセブルスを見ていると、前で先生が話しだしたのでそっちに意識を傾ける。 「今回の授業では・・・・・・――、」 * リフィアが寮を出る時にそういえば言ってたなぁ、というくらいの認識だったけれど、今日は合同授業だったらしい。 1年生と一緒に授業を行い、団結力やら知識やら、この学校に早く慣れろという事だったらしい。 まず5年生でペアを組んで、それと1年生ペアをくっつけるてチームを作るという事まで。 それならそれで平穏に教室内で隣の人と組んで、実験とかそういうのをやればいいのに、と思った瞬間、 心を読んだかの様に、これはチームワークの問題です!と先生が高らかに歌い上げるように言った。 魔法使いって皆心が読めるもんなのかもしれない・・・うーん。 そんな経緯があり、ぼやぼやとしていたらリフィアはもうすでに教室内でパートナーを見つけていた。 助けを求める様に視線をやれば、「頑張れ」というかなり適当なアドバイスを口パクで送られた。 ああ、いかん、涙目になる。うる、っと目の端から零れ落ちそうになる。 私、この学校で友達少ないのだ。いばれる事ではないけど、さらに人見知りなんだぞー! 友達が少ない者にとっての班決めは死活問題なのだ。結局どんどん決まって行くペアで取り残される時の気持ちの みじめさと言ったらない。それで最後に先生に「この子も一緒に入れてくれるかな?」とか言われて、 しぶしぶながら了承した班に組み込まれるのだ。当然、居場所はない。 なんてこった、完璧に出遅れた。 きょろきょろとあたりを見回してお隣の席のセブルスを見る。そうだ、この人が残っていたじゃないか! 私と同じ事を経験したことがいっぱいありそうな彼だ。 ぶわっと涙が出そうなのを堪えて彼のローブを握る。 「お願い、セブルス!私とペア組んでーっ!」 「ば、馬鹿!声が大きい!」 必死で縋りつくと、セブルスは慌ててローブを引っ掴む私の手を取り外そうと躍起になる。 と、なにか後頭部にすさまじい衝撃ががつん走った。振り返ってみれば、ぶ厚いテキストだ。 なんて恐ろしい、これは凶器だよ、おいおい。 ぶつかった個所を押さえながら涙目になっていると、目の前のセブルスもなにかに耐えている様子だった。 どうやらセブルスにもなにか凶器的なテキストが投げつけられていたらしい。 私とセブルス・・・・本当に似た者同士かもしれない・・・。いじめの方法まで一緒だなんて。 痛みにまだ悶えているセブルス(多分テキストの角が綺麗に当たったのだろう、なんて正確なテキスト投げだろうか。誰だろ) の手を握って最後のひと押しをする。 「セブルス・・・私たちきっと上手くやれると思うの、ほら、あのテキスト投げつけられたりとか」 「そんな共通点なんているか!・・・でも、まぁ・・・貴様となら組んでやってもいい」 「・・・・ほんと?!あ、ありがとうセブルス・・・本当に心強いよ!」 感激すぎて抱きつく所だったけれど、それは拒否された。 あんなに身体をのけ反らせて拒絶されると悲しいものだ。さっきとは違う悲しさを感じる。 けれど、まぁ、これで一人ぼっちという可能性は減った。だって今回は知り合いのセブルスがいるから。 本当に良かった、と思った瞬間にどこからか舌打ちが聞こえてきた。 なんだろう、ペアが思った様に組めなかったのかな・・・?疑問に思ったけれど、はいはい!という先生の手を叩く 音に慌てて前を向いた。 * 「でも良かった、皆知ってる人ばっかりで」 「とてつもなく目立つがな・・・・」 「早くしなさいよ、!」 「メリエル、あんまり早く歩くと転ぶ・・・」 5年生ペア、私とセブルス。 1年生ペア、エリオットとメリエル。 ・・・・なんていう組み合わせだろうか。スリザリン3人の中のレイブンクロー1人はとてつもなく目立つ。 それはまたまたあの大講堂にまで話がさかのぼる。 5年生ペアでセブルスと組んだ私は、セブルスの鋭い眼光に怯えて誰も1年生は寄ってこないという事に気が付いた。 やばい、このままでは二の舞である。 再びきょろきょろし出した私にセブルスは呆れの目とため息をお見舞いしてきた。 「少しは落ちつけ・・・数は決まっているのだからあぶれる事はない」 「・・・だ、だって!私たちだけ1年生が近寄ってくるようなそんな気配ないよ!」 周りは、「先輩お願いします!」「いいのよ、何でも聞いてね」うふふあははな会話が繰り広げられているのに! ど、どうしようという動揺は私だけ。セブルスは腕を組んで鼻を鳴らすだけだ。 どうしようが何回も頭をすり抜けた時にまたしても背後からの過激な衝撃が走った。 背後から絡められる両腕。耳元にさらりとゆれる金髪。こ、これは・・・まさか! 「ぐわっ・・・!」 「・・・1人?のけもの?」 「・・・ほう、シュルツ姉弟か」 「え?なに知り合い?」 「馬鹿か、こいつらはスリザリンだぞ。知っているに決まっている」 「へ?・・・ああ、そう言う事かぁ」 「どこに行くのよ!エリオット!姉さまと組みましょ・・・って!」 納得したように頷くとセブルスは呆れた顔をした。 絡めた腕を外して後ろを見ると、そこにはエリオットの姿。その後を追うように メリエルが姿を現した。金髪のショートカットが揺れてグリーンの勝気な瞳、やっぱりメリエルは可愛い。 エリオットとメリエル、リフィアと同じく美人が2人も並ぶと圧倒されてしまう。 なんか後光が差して見えるのは気のせい? 「メリエル、俺たちはとスネイプ先輩と組もう」 「は?!ちょっとエリオット?!勝手にそんな決めないでよ」 「他にもう5年生ペアいないみたいだし・・・」 「他にいないって・・・エリオットが急に走りだしちゃうからじゃない!」 「えーっと、2人とも?お、落ちついて・・・?」 「!私はあなたとじゃなくて・・・!」 「・・・?」 「・・・・あきらめろ、シュルツ」 「・・・・・」 なにかを言おうとしてメリエルはぐっと黙った。 エリオットは相変わらず読めない顔で突っ立っているし、良く分からないけど一応知らない1年生より ちょっと知ってるっていう2人の方が安心できるかも。 ペアが見つかったのと知り合いだったので、少し顔が緩んだ。 そうして私は他3人に向かってよろしく、と言った。不機嫌そうに寄せられた眉が少し崩れるのを見て、 ちょっと安心した。 「別に、私はあなたと組みたくて組んだ訳じゃないんだからね・・・!」 「うん、ごめんね。それなのに組んでくれてありがとう」 「気にしなくていい。いつもメリエルはこんな感じだし」 「はぁ・・・・(先が思いやられる・・・)」 セブルスのため息が重く吐かれたのに気付くものはいなかった。 next→ ----------------------------------------- (100221) |