こいつ、色々と分かっているのだろうか。と思わず頭を押さえてしまうのは仕方がない事だと思う。
テキストを投げつけられたのも、元々の原因と言えばお前のせいだと何度言ってやりたくなった事か。 そんな訳で必死に耐えているのだが・・・、



「セブルスー、どうしたの、早く行かないと出遅れちゃうよ」
「・・・ああ、今行く」



ぼとぼととやる気なく歩くセブルスの手をひっぱりながら、はひたすら歩く。
歩く、歩くったら歩くのだ。

そう、現在彼ら4人はひたすら歩いていた、森を。薄暗くて少しひんやりとした空気がまとわりつく。
何故こんな所にいるのかと言うと、それはもちろん合同授業内で出された課題をこなす為である。
だが、足場の悪さ、気味の悪さ、視界の悪さなどの不快要素によって4人中1人はかなり腹が立っていたようで、 それをなだめながらの道のりはそう簡単なものではなかった。



「ちょっと聞いてないわよ、こんな所歩くなんて!」
「先生の課題の薬草が湖の周りにしか生えないんだよ」
「し、知ってるわ!でも納得がいかないの!もう、こんな事するくらいなら・・・」
「メリエル、今は忍耐だろ。・・・押さえろ押さえろ」
「ふぅ・・・お前ら、口は良いから足を動かせ足を!」
「セブルス、きついのは分かるけど怒らない怒らない。ほら血圧上がっちゃうからさ・・・」
「この・・・!老人扱いするんじゃない!」



なんというまとまりのない集団なんだ。とためいきを吐いてしまうのも仕方がない事だ。
もとよりこのメンバーで上手く行くとは思ってもいない。 湖にたどり着くまでこの森を歩かなくてはいけないことが、こんなに大変な事だったとは。 最初になった時からそれは分かっていたことなのだ、なのに何故だろうか、ため息が止まらない。



「どうしたの?セブルス!もしかして息切れ?!ほら、もう少しなんだから頑張ろ」
「息切れではない!・・・はぁ」



1年生コンビは森に対して文句を言いながらもずかずかと歩いている。
それに比べてセブルスの歩みは遅い。 疲れているのではないか、と心配したのだが、大きなお世話だったみたいだ。
手を差し出せば、目は逸らされて拒否されたので仕方なく引っ込めたけれど。 その手は違う手に掴まれた。振り向けば、先を歩いていたはずのエリオットだった。 掴まれた手とエリオットの顔を交互に見ながら、浮かんだ疑問を率直に伝える。



「え、エリオット?どうしたの?」
「繋いだら・・・駄目か?」
「別にいいけど、でも」
「エリオット!あなた、また何をしてるの!」
「ええっと・・・メリエルも繋ぐ?」
、あなたって人はまったく・・・そういう事じゃないの!別に、繋ぎたくなんて!」
「・・・お前ら、静かに歩けんのか」



呆れたような声が後ろから聞こえる。
けれどセブルスの声はそれが通常なので、そう気にする事でもない。 エリオットと繋いだままの手とは反対の手でぶつくさ言うメリエルの手を握ろうとしたけれど、それはにべもなく断られたので悲しい己の 自分の左手を見つめることとなった。

メリエルはそう言えばシリウスの事が好きだったんだよなぁ、それじゃあちょっとは面識のある私の事を あまり好かない事も仕方がない事なのかな。 でも初対面の時と言い、メリエルはいつも一生懸命にぶつかっていっている事が感じられる。
だから、そこまで拒否されても落ち込まない。そりゃ少しは悲しい気持ちが混じるんだけど。 頑張ってる子ってなんだか応援してあげたくなるんだよなぁ。



そうこうして歩いている内に、ゆっくりでも森を歩いていたようだ。
少し開けた所に出て、湖があるのを確認する。先生の言っていた薬草を探さなければいけない。 きょろきょろとあたりを見回して見る。



「ここまで来るのに大分掛かったな」
「え、ほんと?そんなに時間は経ってないと思ったんだけど」
「普通だったらもうとっくに着いてる時間だ」
「もう着いちゃったんだ。・・・もうちょっと掛かっても良かったのにな」
「何言ってるの!早く終わらせるわよ。どこ、どこに生えてるの!その草!」
「く、草・・・まぁ、そうだけど、メリエル。早く帰りたいのは分かるけど落ちついて」
「なぁに!なにか文句でも!?」
「な、ないです・・・けど。はい。ごめん」
「っはは、は押しに弱いな」
「ち、違うよ!だってメリエルは・・・」
「メリエルは?」



その続きの言葉は口からは出なかった。
その瞬間メリエルの姿が消えたのだ。しゅっ、と音もなく、いきなり。 見れば湖に何かに引き込まれてしまったようだった。

焦ってエリオットの手を振りほどいて彼女が今までいた所へ飛び込む。これは考えじゃない、本能だ。
メリエルを1人にしたら駄目だって思ってしまった、から。



「・・・メリエル!」
!近づくなっ!」
「・・・メリエル、っ!」



水しぶきを上げて、勢いよく飛び込んだ先は湖。 この時期はまだまだ水温は低い。
もたつくローブを脱ぎ去って、眼を凝らす。こんな暗くて冷たい湖に引き込まれるなんて・・・! もっと注意を払っていればこんな事を思わなくても済んだのに。もとよりこれは一応先輩である私の責任だ。 メリエル、どうか・・・!


そう願いながら 湖の少し潜った先にメリエルがいるのを確認した。 彼女をつかまえているのはグリンデローだ。あれは湖に住んでいて人を引き込む水魔だ。 ぎゅっと握った杖を向ける。 細長い指でメリエルを絡めとるグリンデローは恐ろしく怖い顔をしていた。

ひるみそうになるけれど、杖をぎゅっと握って対峙する。水に揉まれて流れるメリエルの金髪が力なく漂う。 気を失っているのかも、早く助けないと。・・・・・・大丈夫、出来る出来るから。きっと出来る。
こういう時に魔法はあるのではなかった?こんな時の為の魔法を学ぶ為にはるばる私はここまで来たのだから。



「〜〜っ、リラッシオ!!」



呪文を唱えて、杖から火花が飛び散る。
それに驚いたグリンデローはメリエルを離して逃げ出そうとしていた。 グリンデローには目もくれず、メリエルへと泳ぐ。
そうしてどうにかこうにか掴んだ、ふわふわと浮かぶメリエルの身体を必死に抱きとめて、上へ目指そうとした。 けれど、もう息が限界の様だ。 もともとそんなに何でも出来る人間じゃないから、自分に精いっぱいのやれることだけをやれればいいと思った。 この湖の上まで行けば、セブルスがいるし、エリオットもいる。きっと大丈夫だ。
力が抜けていくけれど決してこのメリエルの手は離さないでおこうと思った。



ごぽり、と最後の空気が逃げて上へと上がるのを見た。それと同時に誰かの手も。
後は、その手が身体を引き揚げてくれた気がしてそれに身を任せた。








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