「イベントってこれかよ・・・」 「いいじゃない、シリウスにはこれくらいのレベルからが丁度いいよ」 「そうだね!ここでパーティとか開かれてもどうせ誘えないだろうし」 「お前ら・・・分かってたけど酷いな・・・」 そうそのイベントとはもうおなじみとなったホグズミードである。 シリウス達、悪戯仕掛け人は隠し通路を通って何度もいつでも行ける為そこまでの価値を感じないが、 自分たち以外はそうもいかない、 という事で、結構楽しみにしている生徒も多いようだ。 だがシリウスにとっては苦い記憶しか生まない場所でもある。 ぐぬぬ、と唸るけれど、結局なにかきっかけがなければ自分は前に進めない事を嫌というほどこれまでの経験で 知らされてしまったので、まぁ、どうする事もできないのだけれど。 * 「はぁ・・・・・あー、」 今日は本当についていない。 運が私から逃げているのか、それとも誰かに吸い取られていってしまっているのじゃないか、なんて考えてしまうくらいに ついていない。 厳密に言えば今日の運がついていないのではなく、ここ最近ずっとなのだけれど。 濡れた髪はこの季節にはつらい。ええ、と。乾かす呪文ってなんだったっけな。なんて思いながら 人気のない廊下を同じく濡れた靴が変な音を立てるのに眉をひそめながら歩く。 ・・・・・・うう、ついてない。そして寒い。 これもそれもあれも、原因というのはここ最近何故か積極的に話しかけてくるシリウス・ブラックのせいだ。 なんでだか週末に向けて話し掛ける回数がだんだんと増えてきている。それに比例してこういったことも増えてきた。 なんなんだろう、なにを企らんでいるんだーーーっと叫びたいくらいに、廊下で大広間で、中庭で、至るところで 出会って、さらに目が合って、そして話しかけてくる。話すといっても他愛のない事ばかりで、 今日の授業の内容だとか、悪戯を仕掛けたんだとか(しかしこの話題は悪戯のターゲットになる私にとってあまり 聞きたい話ではなかったんだけれど)、週末はどうしてるか、とか言う様な事を恐ろしく時間をかけて口にする。 言いにくそうに口を開くシリウスは、そんな重要ではない事もとっても言いずらそうに言う。 今度はシリウスが罰ゲームを受けているんじゃないだろうか、なんて思ってしまうほど。 あの冴えないジャパニーズに話しかけて来いよー、みたいな。 シリウスが平凡でなんのとりえもない私に話を振るなんてことあるわけがないだろうし、その線が一番有効だな。 そんな推理小説ばりの空想を頭の中で繰り広げていると、ふいにふわっと温かい風が私を包んだ。 そうだ、思いだせなかった呪文は確かこんな魔法だった。 驚いて振り返ればあまり機嫌が良いとは言えない仏頂面のリフィアが杖を片手に立っていた。 こんな時になんだがやっぱり美人は怒ると怖い。 「リフィア!ありがと、」 「?あなた帰ってこないからどうしたかと思ったら・・・、」 「・・・・・えと、ごめん、」 「が謝る必要はないわよ。どうせあいつでしょ?・・・・はぁ馬鹿な女ばっかりで本当に呆れるわ」 「ちょ、リフィア、聞こえるってば!」 「事実よ。事実。私は間違ったこと言ってないし。自分のファンも管理できないとはね・・・あー」 「でもファンはファンでシリウスはシリウスでしょ。多すぎて把握できないってのもすごいよねぇ」 「・・・はぁ、もよね・・・」 「な、なんでリフィアが遠い目をするの!もう!あ、リフィア、服とか乾かすさっきの呪文教えて〜」 「ほんと・・・・なんでもない。じゃあ寮に戻るわよ」 「はいはーい」 くるっと踵を返して華麗に歩くリフィアに置いて行かれないように、私は小走りで彼女に駆け寄って、 隣を歩いたのだった。これが火曜日の事。 「!・・・・・・・お前、それどうした?」 「あ、シリウス。これは、ええと寒中水泳・・・、」 「・・・・・・」 「怖い!」 「だけど、これ、その・・・・・ごめん。俺のせいだよな」 またしてもどこの誰だか分からない人達に囲まれたかと思ったら、あっというまにずぶぬれにされてそしてまた 風の様に去っていったのを茫然と見送った金曜日がやってきた。 朝からこんな調子だと、もうそれも日常の一部になってしまった気がする。いや、それはやばいけど。 そんな事を考えてしばし、停止していた私だったが、後ろから誰かに呼びとめられた。 駆け寄って来たのは最近よく出会う、そしてこういう事になった原因であろうシリウスだった。げっと、声が出るのを必死で押しとどめる。 だが、一旦歩みを止めたと思ったら、苦い顔で長い歩幅でも補えないくらいの早さでこちらへ寄って来た。 肩をぐっと掴まれて覗きこまれる。 視線を左右に動かしながら、それでも最後の言葉は私の眼をしっかりと見て謝って来た。 そんなシリウスだったから、まぁ、これくらいなら別に、と応えられる強さを持てているのかもしれない。 それに私にはリフィアがいるし。 「大丈夫」 「だ、大丈夫じゃねぇだろ、こんなずぶぬれで・・・・ちょっと待てよ、これ着てろ」 「わっ、ぷは、ちょ、セーター濡れちゃうよ、こんないい素材の・・・ああああ、カシミアじゃんこれ!」 「お前・・・そんな事はどうだっていいんだよ!風邪引いたらどうしてくれんだよ!」 「どうしてくれんだ、って・・・風邪引くのは私だからシリウスは関係ないでしょ」 「そうじゃねぇし・・・・もう、」 「それにね、結構慣れたから・・・・・・ほら!」 「・・・・・・・そうだ魔法があったな」 「うん、この呪文上手くなったの。だから大丈夫」 その言葉にシリウスは一旦緩めた顔をまた苦虫をかみつぶしたような顔に変化させた。 そうしてゆっくり息を吐きながら一旦私の肩から手を外した。 それだけじゃなくて、いろんな呪文がこの一週間でかなり上手くなった気がする。 かなり激しくスパルタな授業だと思えばなんとか乗り切れる気がする。気がする気がすると連呼しっぱなしだけども。 とかなんとか、そんな事を思う私だったけれど、それ以上に真剣に怖い顔をしているシリウスを見たら、 なんにも言えなくなってしまった。やっぱり責任を感じているのだろうか。 見向きもされない私では注目されすぎるシリウスの気持ちは推し量ることなんて到底できそうにないけど。 そのままじゃあ、と立ち去ろうとした私の手首をシリウスはなにかに気が付いたかの様に、ぱしっと掴んだ。 「・・・・・・・大丈夫?どこがだよ!」 「・・・っ、」 振り返ってみれば俯いたままのシリウスの表情は見えない。私が驚いて肩を上げれば、それに反応して 顔を上げたシリウスはとてもとても怖い顔をしていた。 ほら、と言われてゆっくりと開いた私の手のひらはぎゅっと握ったせいで、爪跡が少し強く残ってしまっている。 そろそろ切らなきゃなぁなんて思ってたのに、どうしてこう変な所で気付かれてしまうんだろう? そしてどうしてそんな真剣な眼差しで私を見るんだろう? その私とは違った漆黒の瞳が寂しげに、不安げに揺れるのはどうして? 「・・・俺は、お前が心配だ。この状況は俺のせいでもある」 「・・・・ううん、それは違うよ。これは違うの。シリウスのせいじゃない」 「だけど、」 「女の子たちの気持ちもなんとなく分かる。だから・・・・・だからこれは私の戦いなんだと思う!」 「・・・は」 「己の決着は己自身で付けるべし、だよ。怖い事もあるけど大丈夫。なんとかなる!」 なにか言いたげなシリウスを前に、私は一度開いた手のひらをぐっとまた握り直してそう言った。 そう、なんとかなる!やってみなきゃわかんないってそれが私のスタンスだったはずだ。 元々打たれ強いのが私の良い所でもある。 そう思って笑顔でシリウスを見上げる、と、そっと身体を引き寄せられて私はすっぽりとシリウスの腕の中に入ってしまった。 突然の事で頭が追いつかない。 「お前が強いのは良く知ってる。でも心配くらいさせてくれ・・・」 「シリウス・・・」 「本当にマズいと思ったら俺を呼べ、分かったか」 「うん、もしもの時にはアクシオとか使えば一発だし大丈夫。アクシオも随分練習したから」 「お前・・・・。いや、いい。アクシオで呼んでくれ」 シリウスの言葉に頷くと、そ、っと名残惜しそうに背中に回った手が外れるのを感じる。 リフィアを始めとしてエリオットとかリリーとか外国の人って、抱きつきとかボディータッチが半端なく多いなぁ。 そう考えるのと、私から少し距離を取ったシリウスが口を開くのはほぼ同じだった。 「それで、その、今週末なんだけど、」 「なに?」 「あーもう!だからっ、・・・くそっ!!」 「はぁ、だから何が言いたいのー?訳が分からないんだけど」 がしがしっと髪を掻いて下を向くシリウス。なんなんだ、一体。 未だにあー、とかうー、とか言ってていまいちはっきりしない シリウスを見つつそんなことを考えてみる。 先ほどまでの真剣な表情はどこへ消えたのかと言うくらい、どもって、もごもごとしているシリウスになった。 まぁ美形だから真剣でも、照れてても、どもってても、ちょっとくらい不審行動を取っていたとしても、 その美形で大体は許されてしまうんだけどね。美形ってつくづく得な事が多い。 とにかくさっきから今週末がどうの、ってうるさいんだが、今週末ってなにかあったかな。 ええ、と再提出のレポートの期限?・・・いやいやそれは昨日だったし。 あとは、特別授業とか?・・・・・それもなかったな。 誰かと約束してたとか・・・ないな。 なんだろう、私が忘れてる事でなにかあるんだとしたら早く教えてほしいなぁ、とまだまだ掛かりそうなシリウスの状態を 眺めながら、私はそんな事を思った。・・・・・・・・でも私そんなに気が長い方じゃないんだけどな。 「あーもーじれったいなぁ!シリウスがつんと!がつんと言ってしまえ!!」 「何言うのよポッター!阻止しなきゃいけないわ!私のが!」 「ああもう、リリー!僕もパットフッドとの約束があるから守らないといけないんだよ!」 「そんなことがなんだって言うの!?私のが!リフィアにも殺されちゃうわよ!」 「ああ、シュルツはこういうことに関しては凄くうるさそうだ」 「まったくよ、今までだってリフィアがどれだけ手を回してきたことか・・・」 「(シリウス・・・僕には祈ることぐらいしか許されなさそうだよ・・・)」 「今回の事はリフィアがシリウスに言ったから、良かったけど、でもまだ風当たりは強いし」 シリウスは人気があるゆえに、その行動だけでも噂にすぐなる。 シリウスのへの構いっぷりが他の人間の興味を引いたのだろう、その熱のこもった噂はあっという間にホグワーツ中の 女の子へと広まった。 まさかそんな小国のアジアの小さいへんちくりんの小娘(と言っていたのを聞いた)にホグワーツ一良い男ランキング堂々1位を 獲得するような男が構うとは到底思わなかったのだろう。 プライドを傷つけられた女の子たちが、こそこそといやがらせをし出すのにさして時間は掛からなかった。 「(ま、僕は誰でも一応は応援するけどね、リリー以外は)」 「あーもー!そんな奴ほっておいて私の所へ来て!」 今にも駆け出してしまいそうなリリーを必死で止めながらジェームズは思う。 今の抱擁だって特に反応が無い所を見ると、また見当違いの事を思っていそうで怖い。 というか確実にそう思っているだろう。うん。 それを意識させるのはちょっと難しそうだ。 要するに恋とはタイミングとほんの少しの勇気なのだ、としたり顔でジェームズは頷いた。 自身は勇気に溢れているので、あとはタイミングだけなのだ、と考えながら。 そしてその後にいつまで腕掴んでるのよ!という言葉と共に、飛んできたリリーの拳に後ろにひっくり返る事になったのは 何時もの事だと言えるだろう。 next→ ----------------------------------------- (110325) |