事件が起こったのはその後の夜だった。
その日のうちに借りてこなくてはいけない資料を図書室に行って借りてきた帰りだ。 すでに深夜に差し掛かり、監督生に見つかったりしたらどうしようなどと考えて駆け足で寮にまで帰ろうと急いでいた。 ようやく寮まで戻り入口に立ち、合言葉を言う。ぱっくり開いたその入口に飛び込もうとしたその時だ。



「・・・・っ!」
「ぎゃ、ぎゃああっ」
「しっ!明日、10時にホグズミード噴水前で!!じゃな!!」
「ぎゃああ、あ、あ・・?ああ・・・・え?」



手首を掴まれる感覚に振り向けば、シリウスが立っていた、すでに廊下は薄暗い為表情はよく見えない。 でも肝心なのはそこじゃない、立っていたというか、首だけだった。
え?首なしニック?いやそうじゃない生首シリウスだ。ぎゃあああいかにイケメン、美形でも首から下がなければ、そんなのって ないよ・・そんなイケメンとかそういうのがどうでもよくなってしまうくらいの衝撃だよ。
この人なに?シリウスの亡霊?どういうこと、モテすぎてホグワーツを彷徨っているの・・・?

悲鳴もそこそこに、しっと言われてしまった私は口をつぐんだけれど、シリウスがその後口走った単語を
かろうじて聞き取れたのは奇跡とも言えるだろう。ホグズミード噴水前、10時。

私は小さくその単語を口の中で小さく繰り返してから、寮の入口をくぐった。
一体なにがあったんだろうか、なにか悪い事じゃなきゃいいけど。 まさかシリウス、幽体離脱とかじゃないよね。
そんな感じでシリウスの身を案じた私はシリウスの亡霊が言った、ホグズミード噴水前に10時に行く事にしたのだった。















「うわぁああああジェエエエエムズ!!!!!俺、言えた!言えたよな!」
「ああ、まさに今君はをデートに誘ったんだ!いやはや、良かったね、そして長かったね・・・!」
「うるせぇ!でもこれで一歩だよな〜やー、俺今日、すっごく頑張ったわ」
「うんうん、やっと一安心ってとこだね」
「・・・・・ねぇ、シリウス焦り過ぎて、首から下、透明マント脱いでなかったけど大丈夫かな」
「「・・・・・・・・!!!!!!!!!」」



焦りに焦った金曜日。
一旦出戻って時を待つ、と言ったシリウスにジェームズはもう8時だけどいつまで待つつもり?と 追い打ちをかけた。 しかし追いつめられたシリウスはなかなか動こうとはせず、結局その重たい腰を上げた時には12時近くになっていた。 監督生や先生に見つかっては面倒くさいので、透明マントをはおる、と後ろに2人潜り込んできた。



「だっ、ちょ、なんだよお前ら!」
「なんだい、1人じゃ心細いかと思って付いて行ってあげるんじゃないか」
「見守っててあげるから頑張りなよ」
「お前ら・・・!」
「まぁ逃げても首根っこひっつかんでデートに誘うようにしてあげるからさ」
「・・・・お前ら・・・」






そんなこんなで上の様になったのだが、首だけ状態でデートを申し込みしたのは後にも先にも 君だけさ!なんて明るくジェームズに言われ、 でもまぁなんだ、良かったね、とリーマスからも(呆れた様な目で)励ましの言葉をもらったシリウスは、 少しだけ自分を立てなおした。



「まぁ、彼女の事だから来てくれると思うよ?・・・返事聞いてないけど」
「あ・・・。まぁ、そ、そうだよな、今日はとりあえず早く寝よう!」
「そうするといいよ。変に考えて目が冴えて次の日遅刻と言う事になりたくなかったらね」
「わぁお、リーマス、それすごくあり得るね・・・!」
「お前ら不吉な事言うんじゃねぇ!」





*





「げぇええっ、遅刻、また遅刻する!!」


案の定約束の時間までぎりぎりという所で起きた俺は、(いや明日どうするかとか明日の服どうしようかとか、 明日何話そうとか、明日待ち合わせ場所で最初に声掛ける時はなんて言おうかとか考えだしたら キリがなかった)ホグズミードの噴水まで全力疾走していた。


噴水が見えてくると、先にやはり待っていたのであろう、が俺の姿を見つけたのか、向こうから 駆けてきた。がまさか俺の為に走り寄ってきてくれるなんて・・・!



「来てくれたんだな、ありが」
「シリウス!大丈夫?疲れてるんじゃない?!身体持ってきてる?そして本物?」
「はぁ?」
「き、昨日ね、シリウスの亡霊みたいなのを見たの!でそいつがホグズミードの噴水前10時っていうから来たんだけど」
「あの、あれは・・・」
「首だけだったし、本当に心配だったけど連絡も出来ないし、無事な姿見れて安心したよ!・・・何度も聞くけど本物だよね」



思いっきり勘違いまくりな回答が俺に向かって飛び出した訳だけれど、必死なの顔を見ていると、それすらも愛おしく思えてくるのはなんでだろう。
初めて会った時は本当にどうでもいい存在であったのに、月日というものは本当に恐ろしい。
今日は、思いっきり楽しんで行こう。本物以外の俺ってなんだよ、と言いながら 俺は手を前に出した。



「ん、」
「へ?なに・・・えっとごめん・・・お金は今ちょっと」
「誰が金出せって言ったんだよ!違ぇよ!手だよ、手!」
「ん・・・ああ!はい、ああなるほどそういう事か・・」



じゃあ行くか、と そう言えば、は素直に俺の手に自身の手を重ね、俺はそれをそっと包み込む。
壊さない様に軽く握れば、の方からぎゅっと力強く握ってきた。



「私これでも日本にいたときは握力強い方だったんだよ」
「へ、へぇ・・・」
「シリウスは意外に握力ないんだね―」
「・・・」



ははは…んな訳ねぇだろが!! へらっと笑うを見ながらはは・・・と乾いた笑いを溢す。
俺が握った手のぬくもりや手を握ったという喜びに浸っていた間にそんな事を考えてたのかー!!!と叫びたいのを 必死に心で押さえて我慢する。我慢我慢。
いや手を繋げたなんて凄い事なんだ! 今はその喜びにうちひしがれていたい・・・例え握力なしの男だと思われていたとしてもだ。


シリウス?と小首を傾げながら見上げてくるは文句なしに可愛らしいと思う。
緩み出す頬を見られないように手をで口元を覆う。



「気持ち悪い?大丈夫?」
「い、いや平気」
「ならいいけど」



にっと笑って見せれば、安心した表情に戻る。
透明マントの首だけ事件のせいで体調が悪いのかもと気遣われているのがひしひしと伝わってくる。
騙している様な罪悪感もありつつ、でも今まで振り回され続けて来たのだから、これくらいは許して欲しいと思う。

俺は努めて優しげな表情を浮かべて三本の箒までの道のりを彼女の歩幅に合わせてゆっくりと踏み出した。
はてさて、どう転ぶのかは分からないけれど、これが上手く行く第一歩であればと願うばかりだ。










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