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ちゅんちゅん、とすずめの可愛らしいさえずりとともに目覚めた私はすぐに昨日のことを思い出した。
とはいってもあの人のことは何一つ思い出せないのはそのままだ。
とんとんとん、と階段を下りていくとお母さんがおはよう、朝ごはん用意してあるよ、と
元気良く言った。机のほうに目を向ければいつもと同じ朝ごはんメニュー。
目玉焼きと憂鬱な朝、あ!まさに今の気分はこんな感じ。あー憂鬱、だって学校行ったら絶対あの人と
会うよ!本当に顔合わせるのが嫌なんだけど。
いってきまーす、と気のない声でお母さんに声を掛けてドアを開ける。
と、ドアを閉める。待て待て待て待て・・・今のは何だ・・・。
私のこの目が、視力が良かったはずの目がありえないものを映した!えーえーえーえー、私はいたって正常。オカシクナーイ!
すーはーはー、と深呼吸してドアをもう一回開けてみようと試みた瞬間、ばっ、と外側からドアを引かれて
つられるようにバランスを崩してしまった。ドアを無理やり開けたその人物によってぐっと身体を支えられたが、
私は弾かれたようにその人から離れた。
その人は驚いたようだったが、すぐに目を細めて私をじっと睨み付けた。(こっ、怖っ!)
「お前、なんか変じゃないか?」
「えと、お、おはよう・・・?」
「昨日からどうも変だと思ってたんだ・・・いやお前はもともと変だけど」
「・・・何が?」
「何か隠してること、あるだろ?・・・目ェ、逸らすな」
「・・・一切記憶にございません」
「正直に答えないと、殴るぞ」
「あの、えっとそうじゃなくて・・・そのままの意味で記憶がないってこと」
「はぁ?どういうことだ」
「率直に申し上げますとねー、あなたに関する記憶がないの!昨日の時点から!」
「っ!・・・マジかよ」
マジだよ、とつぶやいてうつむく。
私だってこんな変な気分嫌だよ。とっとと思い出せるもんなら思い出している。でも全然駄目なんだよ。
涙がじわっと目に浮かんでくるのを感じた時、頭に重いものがのしかかった。この人の手だ。
大きくてあったかくてごつごつしたその手は私を何故か安心させた。・・・なんか、知ってる。私この手を知っている気がする。
下を向いた顔を上げずにぽつぽつと話し出したら、その人は何も言わず黙って聞いていてくれた。
「じゃ、俺に関することだけ覚えてないってことか?」
「・・・そう、覚えてない。もしくは思い出せない」
大体の事情を話した時、理解したといった顔でその人はうなずいた。
「んじゃ思い出せるまで付き合ってやる」