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その人は自分のことを阿部隆也、だと名乗った。
そして記憶の中を探してみるがやはり知らない名前なわけでして。
記憶が戻るまで付き合う、とそんなことを言われたとしても結局解決策はないわけでして。
そんなこんなで1日2日と経ちとうとう休日になってしまったので私このまま思い出せなくなるんじゃ・・・
なんてことも思ってしまった。ベットの上でごろごろしていると、無性にのどが渇いて冷たいものが飲みたくなったので
アイスを買いにコンビニへ行くことにする。ああ、暑い。日差しが照りつける道をだらだらと歩く。
日焼け止め塗るべきだったな・・・これじゃ真っ黒になる・・。
愚痴を言いつつどうにかコンビニまでたどり着いた私はクーラーという文明の利器にかなり感謝した。
涼しい、クーラーってすばらしい!人間って凄い!
アイスのボックスを覗けば、おいしそうなたくさんのアイスたち!アイスアイス!
悩んだあげく、最後の1つで残っていたスイカバーにしよう、と手を伸ばした瞬間、別の手が伸びてきて
私のスイカバーを取ってしまった。ちょ、それ、私の!と声を上げるのをこらえてボックスから目を上げると
そこには制服姿の阿部隆也がいた。あああーサプライズはコンビニでというわけですか。そうですか!
ここはわりかし住宅街があるところだし阿部隆也が来ないか、と言われたらそんなこともないのだけれども、
だがしかし!だがしかし!駄菓子菓子!アイス!スイカバー!
「なんだお前かよ・・・あ、言っとくけどこれはやんねーからな」
「(くそ!かなりむかつく!そっちが横取りしたくせに!ばーかばーか!)こ、こんにちは、阿部隆也!」
「フルネームで言うなよ」
「あ・・・阿部くん。そのスイカバー私が先に目を付けて・・・」
「取ったのはこっちが早かったから」
「(譲れ!譲れ譲れ阿部くんよスイカバーを私によこせ!)」
何だよ、とこっちを向く阿部隆也に心の声なぞ言えるわけもなく、引き攣った笑顔と不自然な挨拶をする私。
いや待て!私ってなんでこんなに下手に出てるの?!記憶を飛ばしちゃったのは
私のせいではなく・・・うー・・・あきらかに私のせいではないよね!
てゆうかなんでこんな自己中心的な態度なの、阿部隆也!あーもーこの人、私の嫌いなタイプ(じゃないけれど)
そりゃ・・なんてゆーか慰めてくれたりしていい人ではあるんだろうけど普段の態度からするにあまりにも・・・
ちょっと雑というか・・・それはそれでこの人らしくていいんだけどさぁ、ああもう何が言いたいのか分からなくなってきたよ。
もんもんと考えていると俺、部活だからじゃあな、と言って阿部隆也はコンビニから出て行った。
くそ!結局くれないのかよ!スイカバーは取られるし、暑いしさんざんだな!
ばーかばーかスイカバーくらい譲ってくれたっていいだろ!・・・面と向かっては言えないけどさ。
背中を見てしか言えない私って・・・。ごーん、悲しくなってきた・・・帰ろう。
「くそ・・・私のスイカバー・・・!」